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近年、農家再生の取り組みの一つとして期待が高まる「食」。最近では都心に位置しながらレストランの近隣に農園を持ち、地産地消の食材を使った料理を提供する「都市型農園レストラン」に注目が集まっている。その1つが2021年春、東京都板橋区の閑静な住宅街にオープンした畑とレストランを一体化させた古民家レストラン、プラント(PLANT)だ。
同店の店主は、地元で有機栽培農園のハスネファームを営む川口真由美。プラントでは、歩いて徒歩5分の位置にある同農園で栽培する新鮮な野菜を使用し、3人のシェフが週替わりで腕によりをかけたコース料理を振る舞う。シェフ自ら畑に入ることで、野菜を使った面白い料理にアプローチできる環境が整ったという。
日常的に食べられるような素朴な畑の野菜を利用しつつも、ここでしか食べられないイノベーティブな料理の提供には余念がない。都市型農園をより多くの人に知ってもらうためにも、シェフは明治神宮前駅近くの一軒家レストラン、イートリップなど、わざわざ遠方から足を運びたくなるような料理人とのコラボレーションを実現した。
ハスネファームは、川口の実家が所有していたもの。川口は父親の他界を機に、パートナーである冨永悠と対話を重ねた。たどり着いた答えが、畑を存続し、都心の立地を生かした「都市型農園レストラン」を営むことだったという。料理が食べられる場を取り入れることで、通常の農園ではリーチできない周辺エリア外の人にも届く「農と食の発信地」を作るため、冨永は脱サラして有機栽培農園で修業を積んだ。
川口の実家はかつて慣行農業を営む農家だったが、少量多品目で無農薬・無化学肥料にこだわったオーガニック野菜を育てる農家へとシフトした。実際に畑を見せてもらうと、ダイコンやキャベツ、ロマネスク、ケール、茎ブロッコリーなどの冬野菜が生き生きと育っている。ここでは幼稚園や保育園、小学校の子どもたちを巻き込んだ収穫体験イベントを開催するほか、周辺地域の大人が週末農業に挑戦できる環境も整えている。
レストランは実家の古民家をリノベーションした。「プラント」という店名にふさわしい、グリーンを貴重としたインダストリアルでスタイリッシュな空間に仕上げている。
エントランスに一歩足を踏み入れると、庭の宿り木をそのまま生かしたアーティスティックな自然のオブジェが出迎えてくれた。ここでは、器や食に関する展示イベントなども開催している。
緑と光があふれる開放的な店内には、レストランの前で採れた植物のドライフラワーも。ナチュラルで心地よい雰囲気に、思わず心癒やされるような空間だ。
この日料理を手がけたのは、代々木上原のセララバアドやデンマークの二つ星レストラン、カド―などで経験を積んだ若きシェフ、脊戸壮介(せと・そうすけ)。フルコースメニューは、その日の仕入れで変わる小皿料理を14、15皿提供するのが脊戸のスタイルだが、ここではランチメニューの『脊戸シェフ おまかせコース』(1万1,000円)の一部を紹介する。
まずは、ふっくらとしたサワラにバター、農園で採れたあおさ、菜の花、ザワークラウトを組み合わせた、まろやかなソースの味わいがマッチした『鰆、菜の花、人参』。香ばしいニンジンの葉のチップスが、程よいアクセントになっている。
続いて、火入れしたカキの上に畑で採れたわさび菜、菜の花の昆布締め、ケールチップス、ザワークラウト、かつお節などを合わせた『牡蠣、わさび菜、菜の花、ケール』。ふわりととろけるカキとシャキシャキした野菜、サクッとしたケールチップスの食感の対比が味わえる一皿だ。
素材の味わいをダイレクトに感じられるユズコショウで和えたタイのマリネも印象深い逸品だ。オレンジや上に添えられたラベンダーなどがほのかに香り、清涼感たっぷり。ふわっとしたタイと、ダイコンやキュウリなどの歯ざわりの違いを楽しめる。
このほか、「なるべくゴミを出したくない」という思いから、レストランで余った料理や生ごみは全てコンポストとして使用し、地球に優しいアップサイクルな動きを開店当初から始めている。「4カ月分の生ごみをため、2、3カ月熟成させて畑の肥料として利用しています。捨てられた物を生かす取り組みはこれからも続けていきたいですね」(川口)
板橋区は、23区の中でも都市農業が活発に行われている地域だ。ハスネファームのように、農家の指導に従って作付けから収穫といった農作業体験ができる農園も多い。中でも、サステナブルな仕組みやシェア型レストランという新しい試みを取り入れ、地域の人々とのコミュニティーも大切にする同店は「都市型農園」の一つの模範といえるかもしれない。
これからも「シェフのやりたい」を形にしながら、料理の提供や「レストラン×畑」を生かしたイベントなどを行っていく予定だ。地方へ行かずとも気軽に「ファームトゥテーブル」が実感できる「食と農の実験場」に、今後も期待が膨らむ。
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