[title]
ニューヨークで、新しいタイプの「パスポート」の発行がスタートした。これはほかの国に入国するためのものではなく、ワクチン接種を受けた人が店を訪れたり、イベントに参加したりするため証明書となる「ワクチンパスポート」だ。
ニューヨークのワクチンパスポートは、『Excelsior Pass(エクセルシオール・パス)』という名称。発行条件を満たしていれば、ウェブサイトで自身の情報を入力することで、ワクチン接種済み、検査の陰性などを証明する「QRコード」付き証明書が発行される。
取得した証明書は、iOS版やAndroid版の『Excelsior Pass Wallet(エクセルシオール・パス・ウォレット)』アプリ上で表示できるほか、スクリーンショット、プリントアウトしたものを利用することも可能。主要な球場やアリーナ、集会の人数制限を超えた結婚式やイベントの会場、アートやエンターテインメント施設へ入場する際に利用できる。
このサービスはすでに、2021年2月27日にバークレイズ・センターで行われたバスケットボールの試合、3月2日にマディソン・スクエア・ガーデンで行われたアイスホッケーの試合で実証実験が行われている。
エクセルシオール・パスは、アメリカにおけるワクチンパスポートの最初の導入事例。つまりニューヨーカーは今、実験台にされていると考えることができるかもしれない。
エクセルシオール・パスはどんなワクチンパスポートなのか、見てみよう。
エクセルシオール・パスの取得方法
ニューヨーク州が運営するエクセルシオール・パスのウェブサイトにアクセス。証明書を受け取る資格があるかどうかを確認した後、名前、生年月日、郵便番号、最後にワクチンを接種した日や種類、または、最後に受けて陰性だった検査の情報などを入力して、QRコード付き証明書を取得する。
エクセルシオール・パスを得るための資格
過去10日間の検査において、新型コロナウイルスの陽性反応が出ていない上で、以下のいずれかの条件を満たしている必要がある。
・ニューヨーク州内でのワクチン接種を完了しており、最後の接種から14日以上経過している
・過去3日間以内にニューヨーク州内で受けたPCR検査の結果が陰性だった
・過去6時間以内にニューヨーク州内で受けた抗原検査の結果が陰性だった
エクセルシオール・パス・ウォレットアプリの仕組み
ウェブサイトで個人情報を入力すると、(ダウンロード済みの)エクセルシオール・パス・ウォレットアプリにQRコードが表示されるようになる。このアプリは事前に承認された複数の検査会社の検査データと連動。イベント会場などでは、訪れた人のQRコードを読み取ることで、入場を管理することができる。また同時に、写真付の身分証明書(名前と生年月日が記載されているもの)の提示も求められる。
エクセルシオール・パスを利用する場合もマスクの着用は必要か
はい。イベント感情などへの入場後も、ソーシャルディスタンスを確保する、マスクなどで顔を覆う、手洗いや消毒の実施など、健康に関するガイドラインに従う必要がある。今のところ、ワクチンを接種した人が、ワクチンを接種していない人にウイルスをうつさないという証拠はない。ワクチンパスポートは、イベント会場や店舗へ入るために仕組みだと考えよう。
ワクチンパスポートはイベント会場や店舗にどのように役立つか
劇場、バー、レストラン、そのほかの事業者にとって、営業再開がより簡単で安全にできることが期待されている。
経営者などがメンバーになっている非営利団体、パートナーシップ・フォー・ニューヨークシティの代表兼最高経営責任者(CEO)であるキャサリン・ワイルドは、「ニューヨークのビジネスコミュニティーは、この街の労働力がオフィスに戻ってくること、エンターテインメント施設やレストランが安全に再開されることなど、多くのことを望んでいます。エクセルシオール・パスは、我々の州の経済回復を加速させるエキサイティングな新しいツールとなるでしょう。このツールは、ニューヨークが雇用を回復し、パンデミックを乗り越えるために先進的なアプローチをとっている証拠でもあります」と述べている。
ニューヨーク州ホスピタリティ&ツーリズム協会の会長であるマーク・ドーアは、「エクセルシオール・パスは、新型コロナウイルスの危機からの脱却に向け、観光業界が安全に仕事を再開するために必要としている、革新的かつ前向きな考え方の好例です。アメリカ初となる州政府運営のワクチンパスポートの導入により、我々の会員企業が州の指導の下で安全にイベントを開催することが容易になり、そしてエクセルシオール・パスが会員とそのお客さまに活用されることを楽しみにしています」と語った。
今後、エクセルシオール・パスの使用は「マスト」になるのか
いいえ、これは任意となっている。ただし、イベント会場や店舗では、ワクチン接種や検査の証明を何らかの形で求められることはあるはずだ。その際には、印刷した書類や別のアプリなどで証明する必要が出てくるだろう。エクセルシオール・パスでは、使用上の障壁を減らすため、証明書をウェブサイトから印刷することも可能。
プライバシーはどうなる?
エクセルシオール・パスが求める情報は以下の通り。
名前、生年月日、郵便番号、ワクチン接種情報(場所、種類、接種日)、検査情報(場所、種類、検査日)※一部は該当する場合のみ
これらの情報を提供する前に、「情報開示の許可」に同意する必要がある。
入力された情報についてニューヨーク州は、個人のデータは常に安全かつ秘密に保たれるとしている。ただ、データがニューヨーク州と提携している第三者によってホストされる可能性はある。この場合、第三者による情報の使用は、エクセルシオール・パスサービスのみ限定。入力された情報は、サービス利用者との連絡や接触確認に使われる。
エクセルシオール・パス・ウォレットアプリは、IBM社のDigital Health Passソリューションに基づき構築されており、医療情報や個人情報を共有することなく、新型コロナウイルスのステータスを「安全に確認」するようになっているという。
ニューヨーク州では、「ブロックチェーンや暗号化などの安全な技術がエクセルシオール・パス全体に組み込まれており、データは保護され、検証可能であり信頼できるものになっています。アプリ内で個人の健康データが保存されたり追跡されたりすることはありません」とサービスの安全性に自身を持っている。
しかし、Gothamist/WNYCが取材したある専門家は、アプリのプライバシーポリシーには、データがどのように追跡され、安全に保管されているかが記載されていないこと、また違う専門家も、アプリの安全性についての概要の記載がないと主張している。
弁護士であり、プライバシー権の擁護団体であるSurveillance Technology Oversight Projectの創設者、アルバート・フォックス・カーンは、基本的に、利用規約には個人の情報に警察や移民局がアクセスすることはないとの保証がないことについて、次のように述べている。
「実際自分の携帯電話に入っているほぼ全てのアプリが、ユーザーのプライバシーをどう扱うかについて、エクセルシオール・パスよりも詳細な技術情報を示しています。IBMとニューヨーク知事は、バズワードでにぎやかすのはうまいようだが、暗号モデルの説明はないし、セキュリティーや仕様についての詳細な説明もない。その上、エクセルシオール・パス自体が、人々の健康状態や名前だけでなく、生年月日までも開示されてしまうという、信じられないような内容になっています」
エクセルシオール・パスはいつから使うことができるのか
マディソン・スクエア・ガーデンやオールバニーのタイムズ・ユニオン・センターなど、多くのイベント会場が今後数週間のうちにエクセルシオール・パスの使用を開始することを発表している。4月2日(金)からは、小規模なアート施設、エンターテインメント会場でも使えるようになる予定。
ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモは、「ニューヨーカーは公衆衛生のガイダンスに従えば、新型コロナウイルスを撃退できることを証明しています。革新的なエクセルシオール・パスは、個人情報の守りながらウイルスに対抗し、より多くのビジネスを安全に再開するための新しいツールの一つです。『公衆衛生か経済か』という問いは誤ったものであり、答えは両方でなければなりません。毎日多くのニューヨーカーがウイルスを接種し、公衆衛生に関する主要な指標がこの数カ月間で定期的に最低値を更新し続けるなか、アメリカ初のワクチンパスポートとなるエクセルシオール・パスは、科学的根拠に基づき、また十分注意しながら、街の再開を進めるための次なるステップを告げるものなのです」
関連記事