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今ではすっかり定着した仕事を続けながら旅を楽しむワーケーション。場所を変えることで気分転換になり、作業も進む。暮らすように長期滞在するのもいいだろう。
さて、古来から日本では湯治という保養文化がある。日常からひとき離れ、自然に囲まれた温泉地で繰り返し入浴することで心身を整える。その湯治により、ワーケーションをさらに快適なものにしようというのが湯治ワークだ。
120年続く百年ゆ宿 旅館大沼が推奨するのはプチ湯治。通常、持病の治療や体質改善を期待する湯治は1週間、2週間と温泉地に滞在するものだが、忙しい現代人のために3、4日の湯治も提案している。5代目湯守が湯治初心者にもアドバイスし、不調を整える温泉療法をアドバイスしてくれるというものだ。
百年ゆ宿 旅館大沼は、鳴子温泉郷の東鳴子温泉に位置し、最寄り駅は鳴子温泉駅の隣にある鳴子御殿湯駅。中心地へも歩いて行ける距離だ。その名の通り、伊達が治めていた頃には藩主が湯治に訪れる御殿湯として栄えていた。
館内に7カ所ある温泉は、美肌効果の高い重曹泉を中心に多彩な泉質に恵まれている。中でもプールのように広く、豊かな湯量のある薬師千人風呂は圧倒される迫力だ(混浴だが、女性専用の時間帯もあるので安心)。
予約の必要がなく、空いているときには何度でも入浴できる貸し切り湯や、蒸気で体をほぐすふかし湯などもあり、数日滞在しても飽きない。送迎車で2分の距離にある離れの貸し切り庭園露天風呂、母里の湯(もりのゆ)もあるので、非日常の湯治ワークを堪能できるだろう。
特筆すべきなのは、温泉旅館にありがちな「ご馳走」だけでなく、1汁5菜のヘルシーな軽めの夕食のプランもあり、3泊以上になると食事のつかない自炊も選択可能ということ。暮らすように滞在する湯治ワーク向けなのだ。さらには大広間をカフェのようにスタイリッシュなラウンジに改装し、仕事に集中できる空間にした。
筆者自身も2020年10月にこの旅館で湯治ワークを経験した。観光目的の移動を控え、宿の中でゆったり過ごすことで仕事がサクサクと進んだ。離れの貸し切り庭園露天風呂で心も体も開放されて、魂のデトックスができ、まさに心身を整えるプチ湯治となった。
もう一度訪れた時には3、4泊して、仕事用の資料を持ち込み、文豪気分で缶詰めになるつもりだ。以下では実際に訪れた体験をもとに、鳴子温泉郷が湯治ワークに最適である、その魅力を挙げてみたい。
1. 日本にある10種の泉質のうち8種が湧いている
鳴子温泉は泉質のデパートだ。同じ旅館内や隣同士の旅館でまったく違う湯を楽しむことも可能。街をあげて立ち寄り湯を奨励しているので、仕事に疲れたら、湯めぐりチケット(1,300円)を手に入れ、気分転換に散歩を兼ねて湯めぐりをしてみては。
2. 駅前徒歩圏内に温泉旅館が並び、アクセスも抜群
鳴子温泉郷の宿のほとんどが最寄り駅から徒歩圏内に位置する。東北新幹線の古川駅からJR陸羽東線で約40分と、都心からも行きやすい。急に早く帰らなくてはいけない事態が起きた場合でも、公共機関で帰りやすいので安心だ。
3. 適度な見どころと名産
作業に集中したいワーケーションでは、見どころが多すぎる観光地は時には毒ともなりうる。せっかく来たのだから名所を回り、グルメを満喫しよう、などといった誘惑に負けてしまいそうになる。コンパクトな規模で山に囲まれた鳴子温泉郷は、その点ではちょうどいい。
徒歩圏内のエリアで気軽に湯巡りできて、米どころ宮城の炊き立てご飯、山菜や川魚など山の幸を取り入れたヘルシーな食事で体を整える。誘惑に負けて、胃もたれせず、飲みすぎ、食べ疲れを避けられる環境だ。栗がまるごと入った甘さ控えめな栗だんごが疲れた頭をいやしてくれるに違いない。
これからはワーケーションが進化した湯ーケーションの時代となるかもしれない。鳴子温泉郷で、リラックスと仕事、そして心身を整える湯治の全てをかなえよう。
テキスト:間庭典子
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