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2024年6月25日、美術家の内藤礼(ないとう・れい)による展覧会「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が上野の「東京国立博物館」で開幕した。エルメス財団と共同で企画された本展は、9月7日(土)からは「銀座メゾンエルメス フォーラム」でも連携した個展が開催される。東京国立博物館では9月23日(月・祝)まで、銀座メゾンエルメス フォーラムでは2025年1月13日(月・祝)までの会期となる。
「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」をテーマに作品を制作しているという内藤は、「佐賀町エキジビット・スペース」で発表された1991年の個展「地上にひとつの場所を」で注目を浴び、1997年には「第47回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」の日本館でも同名の個展を開催する。鑑賞者が一人ずつ作品と向き合うという条件下での鑑賞スタイルは、世界最大規模の国際展でも踏襲され、大きな話題を呼んだ。
近年では、2018年に「水戸芸術館現代美術ギャラリー」で開催された「明るい地上には あなたの姿が見える」、2020年に「金沢21世紀美術館」で開催された「うつしあう創造」など、国内でも大規模な個展が開かれており、若い世代からも再び支持を集めている。瀬戸内の「豊島美術館」に恒久展示されている「母型」は、特によく知られた作品だ。
活動の当初から、ともすれば見落としてしまいそうな、非常に細やかな表現で知られる内藤だが、ドイツ・フランクフルトの「カルメル会修道院」で1997年に開催されたインスタレーション「Being Called」は、内藤の制作において新たな態度を呼び起こすものとなった。古い修道院で何百年も前に描かれた宗教画に触れる体験は、「かつて生きた人の証(あかし)」というものを、揺るぎない確かさで内藤に感じさせたことだろう。
「Being Called」で内藤は、確かに生きていた「死者」たちが安らげるようにと、304個もの小さな枕を、透き通ったシルクオーガンジーで一つ一つ縫い上げる。「鎮魂」というと重々しく聞こえるが、内藤の作品から怖さを感じることはない。むしろ、「死」と「生」とが一体となって融け合うような、不思議な安らかさに満ちている。
「生まれておいで 生きておいで(come and live - go and live)」と名付けられた本展も、そうした「不可分な生と死」を感じさせるものとなっている。「Being Called」展で作られたのと同様の「死者のための枕」(2023年)という作品が出品されている点も興味深い。まさに「かつて生きた人の証」が集められる博物館という場所が会場に選ばれたことは、決して偶然ではない。
本展では、同館に収蔵される縄文時代の出土品らを優しく受け止めるようにして、内藤自身の作品が展示・構成されている。「自然・命への畏れと祈りから生まれた」縄文の土製品に、内藤は「自らの創造と重なる人間のこころ」を見いだしたという。
作品制作が、信仰や生活と切り離すことのできない根源的な営みだった、はるか遠い時代。長い時間が流れて、何かを作ることの意味が大きく変わってしまったと思える現代にあっても、「作ること」すなわち「生きること」に対する祈るような思いが、人々の心の奥底にはあるのではないだろうか。内藤によるフラジャイルな作品は、そんな切実さを伝えているかのようだ。
空間の隅々までに意識を向け、作品の一つ一つと静かに対話するように鑑賞することが求められる本展について、あえて詳細な説明をする必要はないだろう。会期中は学校の夏休みなどもあり、常設展などの混雑も予想される。できることなら平日の昼下がりなど、ゆったりと鑑賞できる時間帯に訪れることをおすすめしたい。
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