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今注目の旅行トレンド「ミステリートラベル」とは?

スカンジナビア航空の企画に参加した筆者が体験レポート

Laura Hall
テキスト:
Laura Hall
翻訳::
Time Out Tokyo Editors
A collage of images depicting mystery trips including a suitcase, a departure board and an aeroplane
Photograph: Shutterstock/Time Out
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朝のデンマーク・コペンハーゲン空港。出発案内板では9時25分発の便の行き先が「不明なシェンゲン圏内の都市」と表示されており、搭乗券には「架空の場所」と記されている。スーツケースに詰めた服の選択が間違っているかもしれないことなど、いくつかの懸念はあるが、この旅に対する興奮は抑えきれない……。

筆者が参加した、スカンジナビア航空(SAS)主催の「未知の目的地」旅行は、こうして始まった。この種では同社初の開催となったこのミステリートラベルでは、最終目的地が厳重に秘密にされており、搭乗する180人の乗客は行き先を全く知らない。事前情報は行き先の気温は20度で、水着を持参するべきということだけだった。

「昔は旅行が冒険でした」と語り始めたのは、SASの広報部長であるアレクサンドラ・カウクジ。「しかし現在では、それは商品化されてしまいました。では、どうすれば再び特別なものにできるのでしょうか?」

この4日間のミステリートラベルは、SASが自社のマイレージプログラム会員向けに企画。ポイントで参加が可能で、バイオ燃料への貢献も組み込み、ホテルの宿泊は追加料金で手配できるようにした。

すぐに人気を集めて、6000人からの応募があった。SASは実施前からミステリートラベルを特典オプションの一つとしていずれ追加することを検討していたが、初回の成功を受けて、今後は定期的に提供する予定だという。

ミステリートラベルとは何か

ミステリートラベルとは旅行トレンドの一つで、ヨーロッパやほかの地域で広がりつつある。グループや個人旅行者が、行き先を知らないまま購入(または応募して当選)する航空券やパッケージ旅行のことをいう。

2024年初めにハンガリーの航空会社であるウィズエアーが、35人の顧客に未知の目的地への一生に一度の旅を提供。到着地はトルコのアンタルヤだった、という企画が話題になった。

このような旅をするために、必ずしも航空会社のスーパーファンである必要や、ラッキーな当選者になる必要もない。

例えば、ドイツのフランクフルトやミュンヘンからの出発が可能であれば、ルフトハンザドイツ航空が販売する「ルフトハンザ・サプライズ」により、好みの旅行タイプに応じたランダムなフライトを予約できる。

スペイン資本のオンライン旅行会社のOpodoはミステリーブレイクセクションで、未公開の場所への格安のフライトまたはフライト+ホテルオプションを扱う。高級旅行会社のBlack Tomatoも、勇敢な探検家たちに向けて「ゲット・ロスト」パッケージで未知の荒野へ向かうことを提案している。

また、イギリスからヨーロッパのどこかへの3~5日間のミステリーシティブレイクを240ポンド(約4万9,565円)から売り出している、ミステリートラベルに特化したsrprs.meというサービスもある。

サービスを拡大するJournee

ロンドンを拠点に個人向けのミステリートラベル旅行を販売しているのが、Journee。顧客は、まずアンケートに答えて自分の好みを詳しく伝える。アウトドア派かどうかや、歴史的な名所、魅力的な村、美術館にどれくらい興味があるかなど、質問はさまざまだ。

自分の絶対に譲れない条件も伝えることができる。「セグウェイには絶対乗りたくない」「蒸留所のツアーが苦手」「体に接触するスパトリートメントは断固として拒否」といった条件のほか、行きたくない国全体を除外することもできる。

アンケートの結果に基づいて、顧客にとって未知の目的地が選ばれた後は、フライトとホテルの手配もしてくれ、観光の提案も受けられる。

「我々の創業者たちは、人々が同じ目的地に行き、同じことをして、旅行の本当の魅力を見逃していることに対するフラストレーションを認識し、このサービスを立ち上げました」とJourneeのアンナ・クラークは説明する。その需要は非常に強く、Journeeは2023年末にはイギリスを飛び越えて、アメリカの4つの空港から出発できるミステリートラベルも追加した。

ミステリートラベル増加の背景

「ただ時間を取り戻したいだけです」と、SASの企画でアテネに到着したアン・メッテ・ペトリに、なぜ参加を希望したのかを尋ねたと、こう答えた。この旅の最大の魅力は、彼女の最も貴重な財産である時間を最大限に活用できることにあったのだ。

ミステリートラベルへの関心の高まりは、休暇の予約がどれほど煩わしいものになっているかを物語るものだ。2023年の調査によると、平均的な人でも旅行前に少なくとも141のウェブページを閲覧しているという。指先に無限の選択肢がある今は、無数の場所をリサーチできる。自由だと感じていたものが、決して満足できない終わりのない迷路と化してしまうこともあるのだ。

また、パンデミック後の旅行はこれまで以上にストレスが多く、複雑化した。この情報過多とあらゆる面の過剰さは、何の役にも立たないのである。加えて、世界とその隅々にまで広がるインフルエンサーをスマートフォンでいつでも見られる今の世の中では、発見すべき新しい領域はほとんどない。

結果として、好奇心旺盛な旅行者が発見すべき最後のフロンティアがあるのかもしれないと、ミステリートラベルに関心を寄せているといえる。

行き先が気に入らなかったら?

冒頭で紹介したSASのミステリートラベルで、筆者が期待していた行き先はフィレンツェ。ほかの参加者が思い浮かべていたのはマルタやモンテネグロ、イビサなどだった。

そのため、機内で「アテネへ向かう」と聞いた時は、個人的にがっかりした。首都よりも、しかもすでに大人気の都市よりも、もっと変わった場所への期待が高かったのだ。ただ、それは少数派の意見といえるかもしれない。実際、 前の週にもアテネへ行った乗客の親子から、不満の声はほとんど聞かれなかった。 

ミステリートラベルにおいて、楽観主義と前向きな心構えは重要だ。確かに失望することもあるかもしれないが、それは参加者が直面するリスクの一部。その中で最善を尽くすしかないだろう。

Journeeのような多くの会社は、旅行者の好みにマッチするよう努力している。ただ、彼らが思う目的地や旅行のタイプに縛られる必要はない。そうでなければ意味がないからだ。つまるところミステリートラベルは、自分でコントロールするのが好きな人には向かない旅行スタイルといえるだろう。

計画がないことを楽しむ

筆者の場合、アテネでの自由行動日の翌日は、ほかのグループと一緒にオプシンアクティビティに参加した。最初は何の脈絡も計画もなく新しい場所にいることに違和感を覚えたが、それ自体が目的なのだと理解できると、その感覚は消えた。

その後の日は、「タイムアウトアテネ」をざっとチェックし、国立庭園を散策。オレンジがたわわに実った木にインコを見つけ、アクロポリスのふもとの白壁の通りをぶらぶら歩いた。計画がないことで、日向ぼっこをしている猫のような気持ちになり、自分を楽しむという、奇妙な贅沢さを感じた。結局、自分自身のためにだけに使った日となったのだ。

ミステリートラベルと持続可能性

ミステリートラベルには、持続可能性を重視していないとの批判が集まっている。飛行機での移動を促進し、サステナブルな意思決定に関しては顧客に選択肢を提供していないためだ。

確かに、行き先が分らなければ十分な準備もできないし、最も確実な選択肢をチョイスすることも、もっと言えば、何がサステナブルになるのかを知ることもできない。

筆者にとっても、それは大きなマイナス点だった。観光地のアテネではあったが、持続可能性に配慮したホテルを予約でき、穴場スポットへのツアーも手配してもらえ、とても助かった。

ミステリートラベルへ持っていくべき物

ミステリートラベルを企画するほとんどの会社や航空会社は、天候の見通しとパッキングのヒントを教えてくれる。一般的には、あらゆる事態を想定するのがベストだ。旅行する季節を考慮し、重ね着できる服を入れ、4日間の旅行相当のパッキングをするのがいいだろう。

行く先々には店があるだろうから、どうしても必要であれば、そこで買えばいい。筆者の旅のワードローブは、パンツに履き慣れた靴、そして重ね着という都市部での休暇に合いそうなものとなった。

ミステリートラベルをリピートするか?

SASのミステリートラベルでは、娘と参加していたデンマーク人学者、キムとアテネ郊外の農場にあるロングテーブルを囲んだ。彼らと語り合ったのは、この旅行が昔イビサ島やマヨルカ島に行ったパッケージツアーに似ていると感じたこと、団体旅行の楽しさを忘れていたこと。それが修学旅行のように感じられた。

これは予想外だった。おそらく、発見という行為に身を委ねるとこうなるのかもしれない。

ミステリートラベルに参加して、旅行前のリサーチが多過ぎると、旅行中に最も必要なもの、つまり新しい場所に行く純粋な楽しみから遠ざかってしまうことを思い知らされた。またこのような機会があれば、ぜひまた参加するだろう。

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