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在日クルド人家族の現実を活写、「マイスモールランド」が5月6日公開

主演は嵐莉菜、ベルリン国際映画祭に出品受賞

Emma Steen
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Emma Steen
Former writer, Time Out Tokyo
My Small Land
Photo: © ︎2022 'My Small Land' Production Committee
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日本における難民申請者の暗い現実を知る人は、ほとんどいないだろう。こうした状況を覆すべく、茨城県出身の映画監督、川和田恵真はデビュー作である『マイスモールランド』を製作した。この作品は、2022年2月のベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞のスペシャルメンション(特別表彰)を受賞、5月6日(金)には日本で上映される予定になっている。

川和田は、是枝裕和の『三度目の殺人』(2017年)でアシスタントディレクターを務めた30歳。初の長編作品ながら、『ドライブ・マイ・カー』の四宮秀俊も加わって、社会的な問題を取り上げた素晴らしい作品に仕上がっている。

この作品は、クルド人難民の日本における実体験をもとにしたフィクションとして、日本の厳格な移民政策の残酷な側面を伝える一方で、制度の不備に翻弄(ほんろう)される人々を生き生きと活写している。非常に狭いコミュニティー内に生きる人々の個人的な物語ではあるが、そこでテーマになっているアイデンティティや多文化主義、家族、青春などは多くの共感を集めることだろう。

My Small Land
Photo: © ︎2022 'My Small Land' Production Committee

主人公は、在日クルド人である17歳の高校生サーリャ(嵐莉菜)。幼い頃から日本で育ち、現在は埼玉県で父と妹、弟と共に暮らしている。学校の先生になるのが夢で、大学受験に向けて準備している最中だ。しかし、父マズルムの難民申請が何の説明もなく不認定になり、家族の在留カードが無効になったことで、彼女の人生プランは狂い始めていく。

My Small Land
Photo: © ︎2022 'My Small Land' Production Committee

こうして家族の生活は一変。マズルムは働くことができなくなって、在留資格を失った家族は埼玉県から出られなくなってしまう。家族のために奮闘する弁護士が、難民の再申請を勧めるものの、サーリャを取り巻く環境は次第に耐え難いものとなっていく。やがて、彼女は同じコンビニエンスストアでアルバイトをしている聡太(奥平大賢)に話を打ち明けていくようになる。

My Small Land
Photo: © ︎2022 'My Small Land' Production Committee

作中では、『MOTHER マザー』でデビューした奥平の向こうを張って、嵐が初出演にして見事な演技を披ろうしている。嵐だけでなく、嵐の実の父と弟、妹もこの作品のオーディションを受けて合格、サーリャの家族として選ばれている。嵐とその家族はクルド人の家系ではないが、これは、この映画によって実際の在日クルド人難民のアイデンティティーが、潜在的にせよリスクにさらされないようにとの川和田の配慮でもあるのだ。

My Small Land
Photo: © ︎2022 'My Small Land' Production Committee

この映画では、人生の大半を日本で過ごした外国人であるとは一体どういうことであるのかを、余すところなく伝えている。サーリャは日本に帰化しているにもかかわらず、いまだに見知らぬ人から母国への帰国を促されたり、外国人というレッテルを貼られたりしている。

川和田が嵐をサーリャ役にふさわしいと考えたのは、彼女に国籍を聞いた時だった。嵐はドイツ人、イラン人、ロシア人、イラク人、日本人の血を引いており、「最初は日本人だと答えたかったが、多くの人は自分のことを日本人だと思わないだろうと考えたらそう答えることにちゅうちょしてしまった」と述べたという。こうしたアイデンティティの葛藤による微妙なニュアンスや、その複雑さを理解できるような人こそが、サーリャ役に適任だと思ったからだ。 

My Small Land
Photo: © ︎2022 'My Small Land' Production Committee

嵐の妹と弟を撮影する際には、川和田は是枝の流儀にならったという。子役のリアルな反応を捉えるために、撮影前に台本を渡さないことにしたのだ。例えば、一家の目の前で在留カードに穴が開けられる衝撃的なシーンでは、ショックを受けた嵐の姉弟から即興でセリフを引き出すことにも成功している。 

My Small Land
Photo: © ︎2022 'My Small Land' Production Committee

本作品は、ロシアによるウクライナ侵攻で世界の難民問題が深刻化しているタイミングで公開される。日本の難民支援に欠けている目を背けたくなるような現実だけではなく、人類が一つになるために必要な思いやりの心など、この作品は多くのことを教えてくれるだろう。

『マイスモールランド』の詳細はこちら

原文はこちら

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