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2月9日より西麻布台にオープンしている体感型美術館「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」に行ってきた。僕ごときが説明するまでもないと思うが、チームラボとはプログラマーやエンジニア、数学者や建築家や編集者など様々な分野のスペシャリストを擁するデジタル・コンテンツの制作クルーである。
アプリ開発やインフラ構築など多岐にわたる事業を展開しているが、その中でもいちばん有名なのがプロジェクションマッピングを多用したデジタル・アートだ。まぁここまで知ったような口ぶりで書いたが、僕はチームラボの作品をこれまで体感したことはなかった。「マジいいよ」という評判はかねてから耳にしていたし、ティザー映像を観て“何コレすっげー!”とか思ったりもしていたが、ずっと足を踏み入れる機会を持たぬまま、今日こんにちまで生きてきたのである。
五感を駆使している感覚
んで、実際に体験してみてどうだったかというと、面白かった。とにかくスケールがやばいし、幻想的なビジュアルにも静謐な興奮を感じたが、 なにより、頭や身体がリフレッシュされるような感覚をおぼえた。コレには少々驚いた。
無数のセンサーやプロジェクターがリアルタイムでコンピュータ駆動される超サイバー空間であるからして、ものすごおおおおおおくSFな世界観を想像していたのだが、じっさいの手触りはむしろ、オーガニックなものだった。 山の奥深くに入ったときのような、五感を駆使している感覚があった。
たんに見て触れるだけでなく、フロア毎のコンセプトに沿って調香師が作ったアロマの香りが漂っているわ、幻想的な音楽が薄いヴェールのようにたちこめているわ、供されるドリンクにも仕掛けが施されているわで、もう空間そのものがこちらの五感にたえずアクセスしてくる。
美術館特有のしかめつらしい緊張感はここにはなく、自然の中にいるときと同種の開放感がある。そして壮大でイマジネイティヴな光の交錯は、たんに一方通行的に提示されるのでなく、全方位的に相互作用しながら変化している。
触れたり歩いたり立ち止まったりすると、こちらの動きに合わせて壁や床にエフェクトが現れるし、各フロアも単独で成立しているのでなく、あらゆるエフェクトが行き来しているのだ。つまりはボーダレス、境目というものがないからして常に影響しあっており、おなじ瞬間は二度とない。これは、わたしたちが生きる現実世界のトレスでもある。
積極的に、そして能動的に
万物は影響し合いながら存在している。バタフライ効果、あるいは“風が吹けば桶屋が儲かる”というように、わたしたちの振る舞いはたとえそれがどれほど微弱な動作であっても、確実に世界に影響を与える。だが、普段の暮らしにおいて、それを肌で実感するのはむずかしい。
『自分がただここにいるだけで、なにかしらに影響を与える』『いまこの瞬間は二度とない』という事実を、わたしたちはすぐに忘れてしまう。だが、そのフィードバックをめちゃくちゃファンタジックにブーストしたこの美術館は、そうした事実をまざまざと体感させてくれる。 「わたし」と「世界」の関係性を自覚させてくれる。その結果、鑑賞者はとても積極的になり、能動的にふるまう。
僕も初めこそおっかなびっくり壁に触れては『オー』なんていっていたが、最後のほうではあちこち動き回り、変化するエフェクトを子供のように楽しんでいた。紙に描いた魚が映像として投射されて壁面を泳ぐとか(“Sketch Ocean”)、タッチパネルで選んだ景色をスワイプするとそれが周囲に投影されるとか(“Infinite Crystal World”)、鑑賞者はあらゆる手段で作品にふかくコミットすることができる。
これは対話型鑑賞のひとつの究極系といえるかもしれない。
対話型鑑賞とは、前情報を得ずにアートと向き合い、作品が主張するものを自分なりに受け取るというものだが、鑑賞者が主体的に意味や価値を見出していくという点において、チームラボの発想はきわめて突出している。それでいて、ひじょうにコンセプチュアルだ。
ハードコア過ぎるボーダレス精神
さきほどボーダレスといったが、これはたんに作品空間と鑑賞者が融和しているというだけでない。たとえば『ニルヴァーナ』という作品があるのだが、これは極楽浄土のイメージだ。
伊藤若冲を強烈にポップに、かつほんの少しサイケデリックに味付けしたような桃源郷的な世界観は、かなり“あの世”感が強いのだが、要するにコレは“現世とあの世の境目も取り払っちまおうぜ。ボーダレスなんだからさ”ということなのだろう。かなり気合いの入った、些かハードコア過ぎるボーダレス精神である。
その精神性は高いレヴェルで会場を律しており、70以上あるという作品群はどれもこれもコンセプトに忠実で、ほころびやチグハグさは見当たらなかった。一貫したトーンとマナーが全空間に行き届いていた。携わるスタッフ全員が同じ目的を高精度で共有していなければ、この厳粛なまでの一貫性は出ないだろう。
『よく思いついたな、こんなん』『よく作ったな、こんなん』と、感嘆を通り越してちょっと呆れてしまうほどだ。まさしく、プロフェッショナル集団が編み上げた理系芸術である。『ポップ』とはこういうことであろう。
新感覚/新空間
最後に、きわめて野暮なフレーズを用いるが、この美術館は新感覚だ。 プログレッシヴな技術で、プリミティヴな欲求を刺激し、子供のころの感覚を思い出させてくれる。鈍磨した意識や身体をリフレッシュさせてくれる。 会場を出ると、いつもより少しだけ視界が明るく開けていて、風の肌触りが快かった。 六本木の真ん中でこんな気持ちになれることはなかなかないだろう。
※チケットは、タイムアウト東京のパートナーサイトで予約可能だ
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