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新国立劇場バレエ団が「2021/2022シーズン」の開幕演目として、2021年10月23日(土)〜11月3日(水・祝)、『白鳥の湖』を上演する。マリウス・プティパ、レフ・イワーノフの振付に、名振付家のサー・ピーター・ライトが改訂振付と演出を施して1981年に発
「やはり『白鳥の湖』は古典の中でも、バレエと言えば必ず名前が上がる名作中の名作ですよね。私にとってはコール・ド・バレエ、4羽の白鳥、(花嫁候補の)プリンセスなどほとんどの役を踊り、初めて主役をいただいた思い入れのある作品でもあります」と吉田は言う。
吉田が長く活躍したバーミンガム・ロイヤル・バレエの芸術監督であり、吉田を手塩にかけて名プリマに育てた張本人とも言うべきライト。彼の『白鳥の湖』はどのような作品なのだろうか。
「ピーターの作品は、個々のキャラクターがはっきりしていて分かりやすいのが特徴です。演劇の国ならではというのでしょうか。いろいろなところがロジカルでリアリスティックなので、オーソドックスな『白鳥の湖』以上に観ていて共感していただけると思いますし、ダンサーとしてもとても演じやすいんです」
実際、通常は描かれない、ジークフリート王子の父王の葬儀から場面は始まり、父を失って落ち込む王子を励まそうと周囲が酒を飲ませると王子の母が叱るという場面も。これだけ厳格な母のもとにいれば、王子が自由を求めて森に入り、運命の相手に出会うのも納得というもの。このように説得力のある描写、趣向が細部にまで施されている。
「現役時代、この作品ではピーターからずいぶんと注意を受けました。しかも、『今回は気持ちよく踊れたな』という時に限ってダメ出しをもらったり、『今日はちょっと調子が今ひとつだったな』と思ったら『良かったよ』とほめていただいたりと、混乱することが多かった作品でもあります。
私は記憶にないのですが、公演の際、ダメ出しをされた私が『ピーターは私が嫌いなんですね!』と泣いたことがあったそうで(笑)。若い時はテクニックに偏りがちで、しっとりと見せなければならない白鳥が苦手でしたし、黒鳥に関しても、ピーターは私から技術の先にあるものを見たかったようなんです。そしてそれは今、私がダンサーに求めるものでもあります」
吉田がダンサーに問うのは、ただテクニックを見せるのではなく、物語の中でどう演じ、踊るのか。
「例えば32回転の見せ場でも、それで何を見せるのかが大切です。感情の高まりをきちんと表現してほしい。コール・ド・バレエにしても、きれいにそろうのも大事ですが、白鳥の娘たちそれぞれが、演じる、表現するという意識を持ち、一人一人しっかりと『見えて』ほしいのです。
『白鳥の湖』は奥が深くて、踊れば踊るほど怖くなったり、難しく感じたり、毎回発見があります。私自身、この作品と共に成長してきましたので、ダンサーにもそのことを感じながら、丁寧に踊ってほしい。そしてお客さまに、ドラマをじっくりと味わい、楽しんでいただきたいです」
テキスト:高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。『エル・ジャポン』『AERA』『ぴあ』『The Japan Times』や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン『ONTOMO』で聴覚面から舞台を紹介
http://blog.goo.ne.jp/pluiedete
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