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2018年から全国10カ所を巡り、27万人が会場に足を運んだ展示『蜷川実花展 ―虚構と現実の間に―』。その11会場目となる東京での大規模展が、2021年9月16日から上野の森美術館にて開催されている。
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巡回中の4年間の月日のなかでもアーティストとしての活動が大きく変化したことから、今回の展示は他の会場と異なり、大きく様変わりをしているという。彼女自身のキャリアでも最大規模ともいえる展覧会は、「虚構」と「現実」、「生」と「死」が相対する、穏やかなカオスを秘めていた。
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極彩色の植物を通して観る「虚構」と「現実」
「Floating Layered Visions」というネオンサインが鈍く輝くエントランスを抜けると、待ち構えているのは、あたかもこの世のものとは思えないような極彩色を発する、鮮やかな生花の写真である。『Blooming Emotions』は、自然のあるがままに咲いている花ではなく、人が鑑賞するために育てられた植物をとらえたシリーズだ。
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その一方で、次のエリアにあるシリーズ『Imaginary Garden』では、造花やインクで色付けされた花を、まるで血が通っているかのように撮影している。しかも、床や壁一面が激しい色合いの大判プリントで囲まれているのだ。鑑賞者である私たちは、どちらが本物(有機物)で、どちらが偽物(無機物)か、見分けがつかなくなる。
都市の骨格と向き合い続けた生と死の世界
虚構と現実が入り混じる世界をくぐり抜けると現れるのは、蜷川と親交の深い女優やモデル、アーティストたちのポートレイト。そして2階へ上がった先には、蜷川自身が2013年に撮影した『Self-Image』に2019年の新撮を加えたセルフポートレイトシリーズが広がる。
映画『ヘルタースケルター』撮影中、滞在先のホテルで自分自身の写真を撮ることで、自我を保っていたという蜷川。セルフポートレイトシリーズを軸に、展示作品の内容は、より彼女の外側から内側を写し出したような作品へと変化していく。
パラリンピック選手を映し出した『GO Journal』シリーズの先へ待ち受けているのは、コロナ禍により喧騒が引いていく東京の世界を描いたインスタレーション『TOKYO』。東京は彼女の生まれ育った場所であり、彼女が大切にする人々が生きる都市である。
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スライドショーには144枚もの作品を使用。実は、蜷川が東京をテーマとした作品を撮るのは初めてのこと。コロナ禍に見舞われ寂静としたランドスケープから、彼女自身の「東京の輪郭」の捉え方が伝わってくる。
彼女自身のさらに内側を描き出したのが、父である蜷川幸雄が病に倒れ、死に向かう1年半の日常を撮影した『うつくしい日々』だ。彼女の展示には珍しく自身のテキストを交えながら、「逝く人の目で撮った」かのような霞がかった写真が続く。 徐々に明るくなってゆく視界の先には、1階の『Imaginary Garden』と対照的に、柔らかな色合いで壁と床一面を囲った『光の庭』。まるで生と死、虚構と現実という対比を、フロアを挟んで体感するかのような作りである。
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鑑賞者は彼女の最深部に到達する
やがて、あらゆる対角線をつないでいった中心部にある「蜷川実花自身の内側」に、鑑賞者は到達する。淡い光をくぐり抜けた先にあるのは、蜷川自身の今までの映画作品で用いたセットや小道具、彼女の私物に埋め尽くされた『Chaos Room』だ。
ここには映画『ヘルタースケルター』や『さくらん』で用いられた小道具や資料、コンテなどが積み上げられている。まるで彼女の脳内をのぞき見ているかのような情報量の多さに、頭がクラクラしてくるだろう。
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気持ちが火照った状態で、ありとあらゆる「虚構」のパワーを強く浴びたまま、鑑賞者は「現実」の世界へと引き戻される。 アートだけではなく、広告やデザインなど、さまざまな文脈から親しまれている蜷川の作品を、よりその内面に迫りながら、体感的に鑑賞できるのが今回の見どころだ。
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ぜひスマートフォンや雑誌ではなく、オリジナルプリントから発せられる作品の力強さを全身で受け止めてほしい。
会期は2021年11月14日(日)まで、上野美術館にて開催。入場料は一般1,800(1,600)円、大学・高校生1,600(1,400)円、中学・小学生600(500)円。なお、平日は日付、土曜、日曜、祝日は日時指定制となるので注意しよう。
※()は前売り料金
『蜷川実花展 ―虚構と現実の間に―』公式ウェブサイトはこちら
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