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『メタ観光街歩きツアーin鐘ヶ淵&東向島』が2021年11月21日に開催された。これは、情報社会における新たな観光の形として提案されている「メタ観光」を促進する、墨田区を舞台にしたイベント『すみだメタ観光祭』の一環で、メタ観光とは観光を情報として楽しもうというもの。
地域の文化資源の見えない価値(アニメ聖地、インスタ映え、微地形など)をオンライン地図『メタ観光マップ』に落とし込んで可視化。昔から存在していた文化価値を再発見するとともに、今まで観光として捉えていなかった場所や視点も観光として見直す目的で企画された。
同モニターツアーには、11人が参加。同イベントで作成中の『メタ観光マップ』をもとに、キュレーターガイドが鐘ヶ淵と東向島エリアのツアーコースを作成、案内した。同エリアを選んだ理由は、現状「観光スポット」として認知されていない場所でも十分楽しめることを体験してもらうためと、墨田区というと東京スカイツリーにばかりスポットが当たっている状況を打破したいという思いからだそう。
14時から16時で23カ所を巡る情報量たっぷりの行程だが、東白髭防災団地、暗渠(あんきょ)や路地尊など地元住民でも知らないような場所ばかり。キュレーターは全国通訳案内士の村田多恵が務めた。彼女は、訪日外国人向けの観光ガイドを手がけるノットワールドで、文化体験ツアーなどに長年携わってきた人物だ。
まず、鐘ヶ淵駅で同エリアの説明をした後、旧商栄会商店街を歩く。このエリアはカネボウが紡績会社として1887年に創業した地である。1889年に紡績工場が完成し、企業商店街として発展していった。人気テレビ番組『出没!アド街ック天国』でも紹介されたことがある八百屋、肉のブッチャーや、レトロな外観の小沢理容店などを巡る。
同エリアには至る所にすれ違うのにも苦労するような狭い路地が走っている。これは、自治体の復興政策を待たず、中小企業や問屋が隙間に建物を建ててしまったためだとか。
歴史、団地、防災マニアなどあらゆる視点で街を楽しむ
話は変わるが、墨田区には同区ゆかりの人物である葛飾北斎による浮世絵が飾られた『北斎パネル』が、街中に16枚展示されているのを知っているだろうか。すみだ北斎美術館が企画したもので、いずれも墨田区の風景が描かれている。同ツアーではその中の4枚を発見し、鑑賞した。パネル巡りを含む歴史散策を楽しみつつ、1982年に完成した巨大防災施設である東白髭防災団地では、団地や防災マニアの目線へと視点を移す。
非常時は竃(かまど)に変わるベンチやトイレになる謎のマンホール集積地など、知っていたらちょっとうれしい豆知識が盛りだくさん。職人が肩を並べるレトロな町工場、白髭東共同利用工場や、公園内にあるシンボリックな火消しの纏(まとい)のモニュメントも見逃せない。
次は、文化財としての価値を持つ梅若塚がある木母寺を訪問。梅若丸の哀話である「梅若伝説」は能の『隅田川』をはじめ歌舞伎、浄瑠璃、オペラでも演目の題材になっている有名な逸話だ。ほかにも落語の名人、三遊亭円朝が1889年に建立した三遊塚などもあり、多様な芸の聖地でもあることを知る。
源頼朝挙兵の折、治承4(1180)年、水神の霊験に感じて社殿を造営したと伝えられている隅田川神社では、水の神様らしく狛犬(こまいぬ)の代わりに石亀が鎮座している。関東大震災、第二次世界大戦の2つを奇跡的に乗り越えた由緒正しき神社で、手を合わせた。
白鬚橋は花見、建築、アニメ、漫画の聖地など多彩な価値を持つ
日本映画スタジオ発祥の地である日活向島撮影所の跡地を訪れ、1914年に設立された墨田区のシンボルの一つである白鬚橋を眺める。この橋は、道路橋の天才橋梁(きょうりょう)家とも呼ばれる増田淳が手がけたもので、当時は民間の橋だったため渡るには通行料が必要だった。花見の名所としても有名で、宇田川国貞の錦絵『春色隅田堤の満花』でも描かれている。
また、漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』のファンなら、白髭橋が出てきた話を印象的なエピソードとして覚えている人もいるだろう。最近では、アニメ『荒川アンダー ザ ブリッジ』でも度々登場した。
専用の待合室があることで有名な老舗ステーキ店、レストランカタヤマや、孤独のグルメでも紹介された出来たてのきびだんごが食べられる吉備子屋などここでしか食べられないグルメも、もちろん網羅されている。
『新・東京八景』の一つである路地尊
微地形である旧墨堤で狭あい道路沿道のセットバックが行われた建築を眺めつつ、水路跡や暗渠を巡る。ジグザグな路地のただ中には、路地尊の会古路地(エコロジ)がある。これは墨田区が災害対策の一環として区内に整備している雨水利用施設であり、建築家の隈研吾と選ぶ『新・東京八景』にも掲載。路地が多く、消防車が入ってこられないという課題を住民たちがアイデアを出し合って作ったという、同エリアを象徴するものだ。
最後に、向島で最も人気がある観光地、向島百花園を訪れた。同園は、庶民のための「民営の花園」で、草木が主役なのが特徴的。『福甘酒』というスイーツが名物で、ここもまた浮世絵のモデルになっている。
観光ツアーといえば、一つの文脈で巡ることが一般的で、こうした複数文脈でツアーを組むという試みはほとんどないそう。しかし、参加者の多くは戸惑うことなくツアーを受け入れ、質問を交えながら楽しんでいたように見えた。
完成する『メタ観光マップ』では、今回紹介しきれなかった「風景の見立て」や電線も加えた複数レイヤーの要素1500以上を集めて構成する。完成披露は12月4日(土)を予定。今から完成品が楽しみだ。同日には、『観光会議「メタ観光マップで考えるこれからのすみだ」』も開催。マップ作成に関わった専門家、アーティストらによる報告やマップ紹介やパネルディスカッションを行う。新しい観光形態をぜひ体感してみよう。
『観光会議「メタ観光マップで考えるこれからのすみだ」の詳細情報はこちら』
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