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「世界のベストホテル」でトップに輝いたパッサラクア、かじを握る女性にインタビュー

イタリアの高級ホテルが提供するホスピタリティとは?

JQ Louise
テキスト:
JQ Louise
翻訳::
Minami Imai
Valentina de Santis
Photograph: Valentina de Santis
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イタリア・コモ湖畔にあるラグジュアリーホテル「パッサラクア(Passalacqua)」。18世紀に建てられたこの館は、松の木が青々と茂る山と輝くような湖を背景に、静かにたたずんでいる。

パッサラクアが高い評価を得ているのは、その優美な美しさのためだけではない。新時代のホスピタリティーを切り開く存在としても注目されているのだ。そのかじを握るのは、イタリアで最も成功を収めている女性ホテル経営者、ヴァレンティーナ・デ・サンティス(Valentina De Santis)だ。

サンティスはコモに生まれ、家族経営のホテルを3代目として受け継いだ。2019年にはイタリア版フォーブスの「最も成功したイタリア人女性100人(Le 100 donne italiane di successo)」に選ばれ、2021年、2022年には優れたホテル経営者に与えられる賞を受賞するなど、業界に旋風を巻き起こしてきた。

「パッサラクアは湖に浮かぶ不思議な場所です。私たちは、ゲストが『Meraviglia(イタリア語で驚嘆の意)』と『Villeggiatura(田舎で休暇を過ごすこと)』の感覚を取り戻すことを目標にしています。つまり、望むことが全てかなえられていながら、驚きと発見に満ちた場所にいると感じていただくこと。そしてまた、自宅から遠く離れていながら我が家にいるかのように感じていただくことこそ、私たちの使命なのです」と彼女は語る。

一家が、同じくコモ湖畔の「グランドホテル トレメッツォ( Grand Hotel Tremezzo)」を開業したのは1973年のこと。それ以来50年にわたり、誰もが憧れるコモ湖に欠かせない存在で在り続けてきた。

そして現在、彼女が取り組んでいるのは、オープンから間もないパッサラクアにおいて、ラグジュアリーホスピタリティーの道を切り開くことである。同ホテルは、2022年6月のオープンからたった1年で、「世界のベストホテル」のトップに輝いた。

Passalacqua
Photograph: Stefan Giftthaler

「新たなホテルを開業することは、筆舌に尽くし難い経験でした」と言う。「例えるなら、新作の舞台公演を作ることに似ているかもしれません。ディレクターは、何カ月も、それどころか何年もかけてありとあらゆる詳細を検討しますよね。隅々まで完璧でなければならないというプレッシャーを感じながら、毎晩うなされることでしょう。そしてある日突然、幕が上がり、何百という観客の目の前に立たされるのです」

城壁に守られた中にある「パッサラクア」の敷地内には、「パラッツォ(Palazz)」「ヴィラ(Villa)」「カーサ アル ラーゴ(Casa al Lago)」の3つの邸宅があり、ゲストはどこに泊まるかを選択できる。それぞれの建物の個性を尊重して空間が設計されており、スイートは全て異なるデザインだ。

サンティスは両親の方針を引き継ぎ、伝統と革新が完璧なバランスを保つよう、心を砕いている。「パッサラクアでは、リノベーションによって、歴史ある建物を宝石のようなホテルへと生まれ変わらせました。この仕事は楽しかったですね。家族と住む家のインテリアを選ぶような感覚だったのですから」

建物を取り囲む庭は静けさに包まれており、自然の中でゆったりと時を過ごすのにふさわしい環境だ。サンティスが「庭にはくつろげる居場所があちこちに設けられており、その時の気分によって、しっくりとくる場所を選んでいただけます」と話すように、ホテルの方針を体現する設計となっている。

イングリッシュローズや樹齢500年のモクレンに彩られた庭園には、柑橘類やオリーブの木も植えられていて、キッチンに季節の味を提供している。果樹園では放し飼いのニワトリに囲まれながらリンゴや洋ナシを摘むこともできる。

Passalacqua
Photograph: Ruben Ortiz

ホテルは、湖周辺の観光スポットやレストランを訪れるのに最適な見晴らしのいい場所にある。サンティスに個人的なおすすめを尋ねてみたところ、「コマチーナ島を望む景色が美しい『ロカンダ ラ ティルリンダナ(Locanda La Tirlindana)』や、ヴェネーレ湾やバルビアネッロ邸を一望できる『アル ヴェルー(Al Veluu)』はすてきですよ」と教えてくれた。

だが彼女がどこよりも推奨するのは、もちろん、自身の一家が経営するグランドホテル トレメッツォだ。ホテル内のレストラン「ダ ジャコモ アル ラーゴ(Da Giacomo al Lago)」のテラス席で、湖を眺めながら食べるランチは最高だそう。

ホスピタリティーをアップデートするという偉業をすでに成し遂げてきたサンティスだが、その情熱に接すれば、さらに先へ行こうとしていることは疑いない。

「私は、誇りを持って3代目として事業を引き継ぎ、経営しています。私の日々の目標は、先代から受け継いだ遺産に敬意を払うこと。両親や祖父母は、美しい館を愛することや、限りない情熱と敬意を持って事業に取り組むことについて、私に教えてくれました」とサンティスは語る。

パッサラクアが次に向かうところはどこだろう? この問いに、サンティスは以下のように答えた。

「パッサラクアの次の1章を書くことに心が弾んでいます。この特別な場所をさらに磨き上げるための新しいプロジェクトはすでに始まっているのです。例えば、新しいプールバーを開き、温室の近くには室内プールを設ける予定です。古い秘密のトンネルの先にできるこうした新しい施設は、スパ体験をより充実したものにしてくれるはず。パッサラクアは果てしない夢なのです」

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