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漫画「もしも東京」展を楽しむ5のこと

浅野いにお、萩尾望都、松本大洋など、日本を代表する20人の漫画家が大集結

編集:
Mari Sakamoto
石塚真一『Tokyo Sound』Photo: Kisa Toyoshima
石塚真一『Tokyo Sound』Photo: Kisa Toyoshima
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総勢20人の漫画家が、それぞれの脳内に存在している「東京」を完全描き下ろし漫画作品として表現する『漫画「もしも東京」展』が、東京都現代美術館で2021年8月4日に開幕。「読む東京、歩く漫画」をコンセプトに、館内に点在する作品を巡るように鑑賞する新しいスタイルの漫画展だ。

自分にとって東京とは何か? どんなところが好きか? 個性豊かな作家たちがこれらの問いと真剣に向き合った末に生まれた傑作の数々。見覚えのある風景や人々が、少しずつ現実からズレていって、あったかもしれない「もしも」の東京に姿を変える瞬間、鳥肌が立つほどの感動が待ち受けている。漫画と東京の面白さがほとばしる本展の見どころをガイドしよう。

1. もしもの東京を気ままに歩く。

地下2階 講堂 Photo: Kisa Toyoshima
地下2階 講堂 Photo: Kisa Toyoshima

地下2階の講堂エリアは18の小部屋から構成されていて、『ピンポン』の松本大洋や『ソラニン』の浅野いにお、『伝染るんです。』の吉田戦車など、18人の漫画家が描いた「もしも東京」の世界が一つ一つの部屋に広がる。作品には番号が振られているが決まった順路はなく、心と体が赴くままに鑑賞できる楽しさがある。

松本大洋『東京の青猫』Photo: Kisa Toyoshima
松本大洋『東京の青猫』Photo: Kisa Toyoshima

1番目の部屋に展示されているのは、松本大洋が描いた『東京の青猫』。萩原朔太郎の詩『青猫』の中で詠われる東京が好きという理由から、詩に重なるように味わい深い絵が添えられている。ヒッチコックの映画『裏窓』を思わせる、都会のアパートで暮らす人々の生活をのぞき見するように細かく描かれた作品は、じっくり見ると面白い。

萩尾望都『江戸~東京300年マーチ』Photo: Kisa Toyoshima
萩尾望都『江戸~東京300年マーチ』Photo: Kisa Toyoshima

「少女漫画の神様」と呼ばれる萩尾望都は、1964年と2021年の東京オリンピックをモチーフにした『江戸~東京300年マーチ』を展示。葛飾北斎の波と虹色の東京タワーを背景に、オリンピックの競技やさまざまな東京の魅力を一枚に詰め込んだ美麗なカラー原画に注目だ。

2. コロナ禍と向き合う。

浅野いにお『TP』Photo: Kisa Toyoshima
浅野いにお『TP』Photo: Kisa Toyoshima

虚構でありながらも、まるで現実社会を写生しているかのように、しばしば読者に強い共感を抱かせる漫画。新型コロナウイルスの流行によって変化した東京の街や人々の価値観を漫画に落とし込んだ、いくつかの作品が目立った。

看板など、東京の「情報量の多さ」が好きだと述べる浅野いにおが描き下ろした『TP』がその一つだ。展示はイラストではなく、コマ割りのある漫画として、じっくりと物語を読むスタイル。サイバーパンクのような、しかしあり得そうな未来の東京が舞台で、男女の恋愛を主軸に描く。良い意味で何度も裏切りがある見事な作品なので、実際に会場へ訪れて読んでみてほしい。

小畑友紀『願い』Photo: Kisa Toyoshima
小畑友紀『願い』Photo: Kisa Toyoshima

『僕等がいた』の小畑友紀が描いた『願い』も心に残る。風に飛ばされたマスクが白い鳥になって、最後は木にとどまり、サクラになる。漫画ならではの視覚的な遊びが面白いと同時に、どこか希望と解放を感じさせる、作者の願いがこもった温かい作品だ。

3. 十人十色のタッチに目をこらす。

黒田硫黄『天狗跳梁聖橋下』Photo: Kisa Toyoshima
黒田硫黄『天狗跳梁聖橋下』Photo: Kisa Toyoshima

原画の多い本展では、ぜひ一流の漫画家たちが描く美しい線の一本一本まで目をこらしてほしい。筆の使用が特徴の黒田硫黄は、自らが親しんだ「お茶の水橋から眺める聖橋」を大きなびょうぶに描いた『天狗跳梁聖橋下』を展示。ダイナミックさと繊細さを兼ね備えた、真骨頂ともいえる筆使いが美しい。

出水ぽすか『ここにいる街』Photo: Kisa Toyoshima
出水ぽすか『ここにいる街』Photo: Kisa Toyoshima
市川春子『TOKYO20202 GOURMET/SPOT/HOTEL』Photo: Kisa Toyoshima
市川春子『TOKYO20202 GOURMET/SPOT/HOTEL』Photo: Kisa Toyoshima

特な絵柄で多くのファンを魅了する出水ぽすかのメルヘンチックで少し寂しげな東京をはじめ、安倍夜郎、石黒正数、市川春子、岩本ナオ、太田垣康男、奥裕哉、咲坂伊緒、昌原光一、松井優征、望月ミネタロウ、山下和美らの作品が一度に見られる。

4. 水上で神秘なる人間に遭遇する。

大童澄瞳『East East』Photo: Kisa Toyoshima
大童澄瞳『East East』Photo: Kisa Toyoshima

地下1階の水と石のプロムナードでは、水が敷かれた屋外の展示スペースに『映像研には手を出すな!』の大童澄瞳による『East East』が登場。アクリル板に描かれた6つの絵が、間隔を空けて水上に配置されている。大童は公式のメイキング動画で「この展示の方法はより漫画的」で「導線と距離を時間に見立てて、追うごとに変化していく」と語っており、その言葉通り、2次元の漫画を3次元で展開したような、実験的な作品になっている。

東京の建築物や街並みをモチーフにした作品が多い中で、大童は谷や川によって形成される地形や自然に着目した。作品を最初に見た正直な感想は、これらは一体何だろうという疑問と好奇心で、それぞれの絵に対する解説を読むことによって、作家の想像力の豊かさに改めて驚かされた。最も古い人間の姿を描いた『横角』と、東京という土地を飲み込んだ神秘なる人間『縦角』のデザインが秀逸だ。

5. 200個の東京を見つける。

石塚真一『Tokyo Sound』Photo: Kisa Toyoshima
石塚真一『Tokyo Sound』Photo: Kisa Toyoshima

1階の中庭には、『BLUE GIANT』の石塚真一が描いた巨大な壁画が展示されている。ほかの漫画家と題材が被らないようにしたいと考えた石塚は「海外からの東京」という視点で制作に臨んだ

壁画では、ジャズを題材とする『BLUE GIANT』の主人公が持つサックスが、東京スカイツリーや上野のパンダ、新国立競技場、アサヒビール本社など、なんと200個もの東京のコラージュになっている。細かく見れば見るほど、楽しい発見があるだろう。

 音声ガイドがおすすめ

本展の音声ガイドは無料で、各自がスマートフォンのアプリケーション「ArtStiker」をダウンロードすることで楽しめる。ナビゲーターは『鬼滅の刃』で竈門炭治郎(かまど・たんじろう)役を演じる声優の花江夏樹だ。利用する場合は、イヤホンを忘れずに持参しよう。

『漫画「もしも東京」展』は、2021年8月4日(水)〜2021年9月5日(日)開催。来場の際は事前予約が必須なので、公式ウェブサイトから確認してほしい。

『漫画「もしも東京」展』の詳細はこちら

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