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どこか懐かしさを感じさせ、穏やかに人々の記憶に語りかける。そんな風景画を描く小西真奈は、現代の日本において風景画の可能性を広げている画家の一人だ。
「府中市美術館」では、そんな小西の個展「小西真奈 Wherever」が2025年2月24日(月・祝)まで開催している。大型作品13点を含め、2000年代と2010年代の作品で構成された本展では、小西によるどこでもないどこかの風景画が広がる。
作家自身による展示構成
小西は、アメリカの美術大学で学んだ後に帰国。2006年の「VOCA賞」を受賞し、評価を確立した。本展では、3つのスペースの展示構成も自ら行い、設営自体が絵を描いているようだったという。
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明るい光の表現とフリーハンドの線で表された油彩画や、輪郭だけ残すような描き方の鉛筆画が展示され、清々しく気持ち良い空間が広がる。
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記憶のアルバムをめくるような展示
今年に描かれたものは、小西が多摩地域にアトリエを構えていることから、同地域になじみのある場所が数多く登場する。この数年の間、出産やパンデミックで隔離生活を余儀なくされた小西は、自宅近くの公園や植物園などの身近な景観を捉えた。
「都立神代植物公園」は数多く描かれ、温かさと晴々しい雰囲気を醸し出している。反射する水面や青々とした緑、澄み切った空が生き生きとし、その中に自身の子どもや人物が描かれている時もある。
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写真を元に描いていることから、特定の場所でありながら、誰にとっても懐かしさを感じさせるのも小西の風景画の魅力だ。作品一点一点には、遠い記憶をたどり、アルバムをめくるような感覚がある。
静寂に支配される画面
阿蘇や岩手県の浄土ヶ浜といった日本国内の景色は、2004〜2009年の間に制作された。現場で写真を撮影した後、アトリエで写真を元に描き、どこかに数人の人物が入っているのが特徴だ。
川辺や岩場など、壮大な自然の風景が描かれた作品群は、そこに音が存在しないような静寂に支配されている。実際の場所を精緻に描いているはずなのだが、異界を感じさせ、どこでもないような神秘的な場所に見える。
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VOCA賞を受賞した宮城県のキンカザンでの作品は、霧がかった山から神聖な空気が醸し出されている。そのまま画面上に吸い込まれそうな魅力も放つ。
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時が止まったような絵画群はいつまでも観ていられるようだ。街中の喧騒(けんそう)から離れ、ぼーっとしたい時に足を運びたくなるような本展。ふらりと訪れてほしい。
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