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新宿の東京オペラシティ アートギャラリーで、2021年12月19日(日)まで『和田誠展』が開催されている。和田誠(1936〜2019年)はイラストレーター、グラフィックデザイナー。たばこ『ハイライト』のパッケージデザインや『週刊文春』の表紙イラストレーションといえば、その独特な描写がすぐに思い出せるのではないだろうか。これらを手がけたのが和田で、大規模な回顧展は没後初となる。
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1936年に大阪で生を受けた和田は、多摩美術大学図案科(現グラフィックデザイン学科)で杉浦非水に学んだ。卒業後は、広告制作会社のライトパブリシティに入社、68年には独立した。
映画やエッセイ、アニメーション、作詞、編集などジャンルの枠を超えて創作活動を行い、その活躍は多くの人が知るところ。さらには落語や演劇の台本、訳詞や作曲なども手がけ、受賞歴も報知映画賞新人賞、ブルーリボン賞、菊池寛賞、毎日デザイン賞、講談社エッセイ賞など幅広い分野にわたっている。
同展は、その仕事を「和田誠になるまで」「ライトパブリシティの時代」「谷川俊太郎との絵本」「似顔絵」「映画監督」「和田文学」など30のトピックに分けて構成。約2800点もの作品や資料を通して生涯を時系列で追うとともに、その才能と仕事、人柄の全貌に迫る。
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書籍と原画だけで約800点にもなり、1977年から42年にわたって表紙のイラストレーションを手がけていた『週刊文春』2000冊分の展示風景は圧巻だ。ちなみに『週刊文春』表紙は、現在も和田の作品。2000回到達を機に、過去の傑作選を表紙に採用するアンコール企画を続けてきたが、没後も事務所の承諾を得て使い続けている。
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幼少期に描いた絵日記や絵物語、漫画も見逃さないでおきたい。これらを観れば、和田は子どもの頃から私たちが知る和田であったと感じられるはず。大学時代に、当時デザイナーの登竜門といわれた日本宣伝美術会(日宣美)賞を受賞した手描きのポスター『夜のマルグリット』も印象的だ。
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ほかにも、色指定紙、モチーフにしたオブジェ、活動初期に製作したアニメーション、映画の脚本や絵コンテなども紹介されており、見応えたっぷり。見るだけでもなかなかの時間を要する圧倒的な展示に、「いったいこの人はどれだけの仕事をしたのか」と思いを巡らせてしまう。
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底知れぬ和田の才能や知らなかった新たな一面を発見できるとともに、自分が昔好きだったアイドルやかつて見た映画や芝居のポスターなどに出合って、忘れていた昔の自分とも対峙(たいじ)できるだろう。決定版ともいえる500ページ超の図録もおすすめだ。
なお同展は、2022年から23年にかけて、熊本市現代美術館、北九州市立美術館分館などの巡回を予定している。
テキスト:長谷川あや
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