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好きな服を着たい、あの人になりたい、我を忘れたい……。性別や年齢、仕事に関係なく別のアイデンティティーに変身できるドレス、袖を通すだけで気分が高揚するようなお気に入りの衣服、自信や勇気をくれるアイテム。ファッションは、あらゆる人の内なる欲望や願望、葛藤を表し、それぞれの情熱や憧れ=「LOVE」を受け止める存在であるといえる。
そんな、衣服を着ることに対しての人の愛着に焦点を当てた「LOVEファッション─私を着がえるとき」が、「東京オペラシティ アートギャラリー」で、2025年4月16日〜6月22日(日)の会期でスタートした。
ファッションのさまざまな「LOVE」の在り方を紹介
18世紀から現代までのさまざまな衣服74点と装飾品15点を中心に、現代アート作品40点ほどを加え、約130点の作品で構成された本展。会場を「自然にかえりたい」「きれいになりたい」「ありのままでいたい」「自由になりたい」「我を忘れたい」の5章に分け、ファッションに見られるさまざまな「LOVE」の在り方を紹介する。


冒頭では、当時の人々の美意識が凝縮した18世紀のドレスや男性のベストが登場。非常に緻密で見事な刺しゅうは、貴族社会の華々しさが伝わる。

また、横山奈美のネオン作品『LOVE』は、本展の象徴的な作品だ。「言葉にもし体があったら、ネオン管に近いのではないか」と考え、自身が書いた「LOVE」の文字をネオン管にしたという。
人間の願望が詰まった剥製や毛皮
「自然にかえりたい」という願望は衣服にも現れる。人類最初の衣服は自然界からもたらされ、自然の素材やモチーフは長い歴史の中で用いられてきた。

鳥の剥製が付いた19世紀後半の帽子には、自然への敬愛や自然を身にまといたいという、人間の情熱や欲望がダイレクトに感じられる。

豊かさや権力の象徴であった毛皮は、現在では動物保護をうたわれるもの。1920〜30年代の猿の毛皮のコートから、フェイクファーやエコファーへの移行からは、毛皮の温もりや肌触りに対する人間の執着が見て取れる。

そんな毛皮たちと並ぶ現代アートは、小谷元彦による本物の「人毛」を使ったドレス。生き物のような雰囲気を放っているので、じっくりと見てほしい。
川久保怜の代表的作品が集合
「きれいになりたい」という美への憧れは、どんな時代も尽きない。「ディオール」「バレンシアガ」の1950年代のオートクチュール作品からは、身体美への欲望が付き添う。そして、「ジル・サンダー」「ヨージヤマモト」などの彫刻的な現代ファッションからは、「美しさ」が多様に展開する。


「コム デ ギャルソン」の体の一部分に大きなコブが付いたようなドレスは、川久保怜の代表的作品だ。素材の下に「膨らむパット」が潜んでおり、さまざまな部分に動かせる。胸や肩、腰とは異なる箇所で膨らむコブは、個性的な美にフォーカスしている。

また、「自由になりたい」の章でも、国や性別を超越した「時代を超えていくものを作りたい」という川久保による、2020年春夏コレクションが勢揃いし、圧巻だ。
デザインを極限まで削ぎ落とす「ありのままでいたい」という願望
「ありのままでいたい」の章では、デザインを極限まで削ぎ落とした「ヘルムート・ラング」のミニマルなデザインや下着ドレスが登場。現代アートでは、松川朋奈の絵画群とヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)の写真作品が並ぶ。


松川の作品は、子育てとの葛藤といった、それぞれストーリーを持つ女性の身の回りのものが描かれている。作品から物語を想像しながら、鑑賞してほしい。
我を忘れるファッションの世界へ
最終章の「我を忘れたい」では、一瞬のときめきや喜びを与えてくれるドレスやジャンプスーツがずらりと整列。黒い壁の中、さまざまな素材・デザイン・色合いが結集し、ファッションの魔法にかかったような気分になるだろう。


「ヨシオクボ」のヘッドピースは、クマと獅子舞がモデルを覆う。「トモ・コイズミ」のジャンプスーツは、フリルとリボンが全身を包み、ガンダムのモビルスーツのような作品だ。

また、唇が体を乗っ取った「ロエベ」のドレスなど、着ることの非日常性や、何かに取りつかれることも表現する。

そんなファッションの魔力のような空間とともにするのは、AKI INOMATAによるヤドカリの作品。ベルリン、ニューヨークへとヤドカリが「宿」を旅する作品で、魅力めいた服が色あせた瞬間や人間の際限ない欲望を示唆している。

人々を魅力する幻のような、または執着にもなる麻薬のような、底知れなさを持つファッション。心ときめいたり、興奮を与えてくれたりする衣服は、摩訶不思議(まかふしぎ)で、やはり心引かれるものがある。現代アートとセットで堪能してほしい。
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