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ラテンアメリカにおける婚姻平等、同性婚の法制化への道を考えるイベントをレポート

同性婚が全国的に法制化されたラテンアメリカ、LGBTQ+コミュニティーの現状と課題

Honoka Yamasaki
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Honoka Yamasaki
ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
Photo: Keisuke Tanigawa
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たくさんのサボテンが植えられた「メキシコ大使館」の中庭を通り、イベントが開催される建物に入ると、目の前にメキシコ、ブラジル、アルゼンチン、日本の国旗が並んでいた。2023年5月8日、ラテンアメリカにおける婚姻平等と同性婚の法制化について考えるイベント「ラテンアメリカと日本『婚姻平等 同性婚の法制化への道』」が開催された。

ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
メルバ・プリーア(Photo: Keisuke Tanigawa)

ラテンアメリカでは、シビルユニオン(*)やパートナーシップ制度の導入に続き、2009年にはメキシコシティが初の同性婚に関する法律を制定。アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、チリ、エクアドル、ウルグアイなどでも、婚姻の平等やLGBTQ+の権利が地方法や国家法に明記され、LGBTQ+コミュニティーの権利確立に向けた動きが見られている。

* 結婚に似た「法的に承認されたパートナーシップ関係」のことを指す

課題が存在する中で各国が前進し続けているのはなぜか。アルゼンチン、ブラジル、メキシコ各国の専門家と、日本のLGBTQ+団体の代表者が対談した。

ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
オタヴィオ・ガルシア(Photo: Keisuke Tanigawa)

イベントは、 駐日メキシコ大使のメルバ・プリーア、衆議院議員でLGBT議連会長の岩屋毅、駐日ブラジル大使のオタヴィオ・ガルシア、駐日アルゼンチン臨時代理大使のセサル・ロドルフォ・カンポイによる歓迎の言葉により開幕。今回のテーマでもある「ラテンアメリカにおける婚姻平等」についてトークを繰り広げるに当たり、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン各国の事例が紹介された。

ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
畑惠子(Photo: Keisuke Tanigawa)

初めに登壇した早稲田大学名誉教授の畑惠子は、ラテンアメリカ諸国20カ国中9カ国で同性婚が認められていると話す一方、11カ国では認められていないことから「二極化」を指摘。その背景には、日本にも見られる男性優位主義や伝統的な家族観を重視している風潮があるという。

ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
Photo: Keisuke Tanigawa
ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
Photo: Keisuke Tanigawa

とはいえ、メキシコシティでは13年前の2010年に同性婚が法制化し、「性的マイノリティー」を「ジェンダー・性の多様性」とする表現を使うなど、多様性の一つとしてLGBTQ+コミュニティーを捉える意識も広がっていると語った。

ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
近田亮平(Photo: Keisuke Tanigawa)

時代とともに社会全体の意識も変化していくため、その変化に合わせて法律も改正しなければならない。日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所・主任研究員の近田亮平は、ブラジルではかつて離婚が禁止されていたものの、基本的人権としての婚姻やブラジル独特の家族法論が軸となり、司法の積極的な役割により同性間の婚姻が認められたと説明する。

また、2018年に登録された同性婚は9520件で、前年比62%の増加を見せた。登録数が著しく増加したことの背景として、「息子が同性愛者なら事故で死んだ方がましだ」と差別的発言をしたことで知られるジャイール・ボルソナーロが大統領選で当選したことをきっかけに、カップルとしての権利を奪われることを恐れた同性カップルが駆け込み結婚をしたようだ。

このように、ブラジルのLGBTQ+コミュニティーを巡る問題は、寛容性と排他性が混在し、衝突していることが分かる。

ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
渡部奈々(Photo: Keisuke Tanigawa)

LGBTQ+フレンドリーの国(LGBTQ+の権利が保障されている国)として世界13位を誇るアルゼンチンでは、2010年に同性婚が合法化しただけでなく、2012年に「ジェンダー・アイデンティティ法」、2021年に「トランス公職クオータ制度」が制定されるなど、さまざまなLGBTQ+コミュニティーの権利確立に向けた動きが見られる。

早稲田ラテンアメリカ研究所・招聘(しょうへい)研究員の渡部奈々は、公職の1%をトランスジェンダー当事者に割り当てるトランス公職クオータ制度について、余儀なく売春をなりわいとさせられている多くの当事者のモチベーションにもつながると述べた。

また、アルゼンチンではトランスジェンダー当事者の平均寿命が36歳から40歳である現状を示し、トランスフォビアの深刻性も無視できない現状がある。

ラテンアメリカと日本「婚姻平等 同性婚の法制化への道」
Photo: Keisuke Tanigawa

パネルディスカッションには、虹色ダイバーシティ理事長(ERC=Equal Rights Coalitionメンバー)の村木真紀、LGBT法連合会(J-ALL)事務局長の神谷悠一が加わり、プライドハウス東京の理事・アドバイザーでMarriage For All Japanの理事を務める松中権による進行のもと、さらに深い議論が行われた。

日本では、同性婚を認めることで「伝統的な家族観が崩壊してしまう」「少子化が進んでしまう」といった反対派の意見を耳にすることがある。しかし、畑はメキシコでは法整備が進んだことで、差別意識や偏見が今まで以上に取り除かれ、実際に当事者が日常生活を送る上での満足感につながるとポジティブな影響を示した。

さらに、3カ国とも日本で懸念されている少子化の問題はさほど深刻化していないことを示すと同時に、セクシュアリティーにかかわらず子どもが欲しくない人に結婚を強いることこそが人権侵害であることも渡部が指摘。 日本でも、LGBTQ+当事者であることで生きづらさを抱える人はたくさんいる。

しかし、当事者が問題なのではなく、法律や制度が変わるべきなのだ。イベントの最後には、ドイツ大使館主席公使(ERC議長国)のクラウス・フィーツェの言葉「It’s not criminal to be gay. It’s criminal to discriminate.(同性愛者であることは犯罪ではない。差別することが犯罪なのだ)」で締めくくられた。

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