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武蔵五日市駅から徒歩10分ほど歩いた、山のふもと。そんな都会の喧騒(けんそう)から離れたエリアに、2023年10月12日(木)、築149年の有形文化財と古民家を改修したフレンチレストラン「ラルブル(L’Arbre)」がオープンする。
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シェフを担うのは、西多摩の出身であり、帝国ホテルのメインダイニング「レ セゾン(Les Saisons)の元スーシェフ、松尾直幹だ。「フランス料理×風土×文化」をテーマに、「東京和牛」や「東京軍鶏」といったあきる野産の食材のほか、自ら畑を耕作して作った環境に負荷のかからない野菜やハーブを使用したフランス料理を提供する。
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ベースになる建物は、明治初期に建てられた「小机家住宅」。日本の職人たちが西洋の建築に憧れ、それに似せて造った擬洋風建築の一つである。同建築が建てられたのは幕末から明治初期のわずかな期間で、今となっては大変貴重な建物なのだ。
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従来の木造建築に西洋建築の意匠、時にはアジアの要素を融合したデザインが特徴的で、ラルブルも外観は洋風、内観は純和風と和洋折衷な装いである。
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店内に一歩足を踏み入れると、当主の小机三左衛門が愛好していたというウサギが象徴的に描かれている、しっくいを用いて作ったレリーフ「鏝絵(こてえ)」が出迎えてくれる。同モチーフは階段のレリーフをはじめ、建物の随所に登場するので注目してほしい。
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和を基調とした趣のある文化財エリアには半個室、個室の2種の部屋を設置。天井にはウサギに合わせて「月」をイメージして揃えたという、群馬県沼田市を拠点に活動する指物師・吉澤良一が手がけた金箔(きんぱく)を燻(いぶ)した照明が輝く。
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古民家エリアはモダンで温かみのある空間にフルリノベーション
奥の古民家エリアには、臨場感たっぷりのシェフの手捌きや香りなどを楽しみながら食事が満喫できる、巨大な一枚板のカウンター席が7席ある。テーブルの脚には以前この部屋で使われていた暖炉の石を活用しており、どこか温かみがあり、ほっとできる雰囲気の空間となっている。
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料理はコースメニュー(要予約)が中心で、9,900円、子ども1,650円(以下全て税込み)から楽しめる。月ごとに旬の食材に応じて入れ替わるが、おすすめはディナーの「フルコース」(1万7,600円)。シェフ自ら畑に入って栽培した無農薬の自家栽培野菜や地産食材を使った、目にも美しいフランス料理を10皿提供する。
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中でも幻の豚肉といわれる、八王子産の「TOKYO X」を低温調理した料理「TOKYO Xと車エビ」は、じっくりと味わいたい逸品だ。口の中でほろほろと崩れる肉とふっくらとしたクルマエビ、シェフ自ら育てた島カボチャの自然な甘みが病みつきになる。レモングラスがほんのり香るアサリのだしをベースにしたエスプーマは、うま味がぎゅっと凝縮されており、その滋味に心を奪われる。
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美麗なデザート、「小笠原菊池レモンとシャインマスカット」も見逃せない。爽やかなジャスミンの香りをまとわせたジュレと酸味の穏やかな「菊池レモン」を使用したメレンゲ、あきる野産の新鮮なマスカットが、絶妙なハーモニーを奏でる。自家栽培したエディブルフラワーや金箔のあしらいもまた美しい。
土・日曜はコースのみの提供となるが、木曜日は環境負荷を極力抑えるため、コースで使用しなかった食材を活用し、カレーやビストロ料理をはじめ、曜日限定の「気まぐれメニュー」(2,200円)が予約なしで味わえる。リーズナブルに本格派の料理が堪能できる機会なので、ぜひ足を運んでみよう。
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また、緑に囲まれたテラス席も今後、設置予定だ。目の前には桜の木があり、春は華やかに咲き誇る花々を鑑賞しながら優雅に食事を堪能できる。秋は紅葉も望めるそうなので、これからの季節に訪れてみてほしい。
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自身で育て上げた無農薬の野菜やハーブ、あきる野の地が育んだ豚や鶏。そんな東京ならではの食材を使ったフランス料理を提供することで、生産者とゲストの橋渡しをするような役割を担いたいと松尾は言う。
「僕はもともとこの周辺エリアの出身なので、畑に出向き自身で野菜を作ることも自然な流れでしたし、都市部のようにあらゆる食材が揃わなくても豊かな食事がかなうと思っています。この地に根付くものを活用し、東京産の食材のおいしさを多くの方に届け、地域の文化を未来へつないでいきたいですね」
古き良き伝統と文化を守りつつ、新たな空気を吹きこむことで新しい東京を発信していく「ラルブル」。ここに一歩足を踏み入れれば、今まで知らなかった多彩なあきる野の魅力に触れることができるはずだ。
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