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タトゥーコンベンションとして、2005年から行われている由緒正しきイヴェント「KING OF TATTOO」。TOKYO HARDCORE TATTOOのKATSUTA★氏が主宰し、2017年に一度幕を下ろしながらも2020年に復活を果たした。 今年は3月24~26日にかけて行われたのだが、本稿はその初日の模様をリポートしたものである。
歴史あるタトゥーコンベンションで開催地が新宿のライブハウスロフトということで、内心ちょっと緊張しながら取材へ赴いたのだけれども、実にピースなイヴェントだった。会場内ではさまざまなスタジオや彫り師(ロバートフェルナンデスや彫師美漸、ノブ、SABADO、彫ぎんら)がブースを出し、グッズを販売したりその場でタトゥーを彫っていたりして、のどかな活気に満ちあふれていた。
プログラムには弾き語りやトークショーなんかも挟み込まれていたりして、本当に祭りのようだ。客層も幅広く、金髪モヒカンのパンクスもいれば、頭頂から爪先まで彫り物の入ったふんどし一丁の人もいるし、子ども連れのファミリー層もチラホラ。
入っているタトゥーも和彫やアメリカントラディショナルやブラック&グレーなど本当にさまざまで、会場のあちこちで「これ最近◯◯さんのとこで入れたやつ」「すげえー。超かっけえー」とか言ってタトゥー談義に花を咲かせている光景が見られた。まったくピースフル極まりない。
最初に会場に足を踏み入れたとき、ステージ上では彫り師を囲んでインタヴューが行われていたのだが、これもまた実にグッドヴァイブス。段取りや進行をガチガチに固めているワケではないようで、スタッフがフロアに下りて彫り師の方を半ば強引に登壇させたりしていて、さながらAMラジオの公開収録のごときノホホンぶりである。いい意味での手作り感覚だ。
ステージ上ではオフスプリングやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやクラッシュといったバンドの楽曲が薄く流れていたが、パンクの基本理念であるDIY精神がしっかり息づいているイヴェントだなァと思った。
面白いタトゥーを見せ合うコンテスト、 そんなもん最高に決まってる
目玉のひとつがタトゥーのコンテスト。我こそはという来場客を募ってステージに上げ、審査員の眼鏡にかかった入賞者には豪華副賞が当たる……。というモノなのだが、まず最初に行われたのは『ファニータトゥーコンテスト』だった。その名の通りタトゥーの「面白さ」を競うコンテストで、これは実際かなり面白かった。
『ウォーリーをさがせ!』のウォーリーのタトゥーというほほえましいものもあれば、頭がブチ割れた警察官の横でパトカーが燃えてるタトゥーというかなりデンジャラスなものもあった。『何でこのタトゥーを入れたんですか?』という問いに『警察が嫌いなんで』と薄笑いを浮かべながら答えていてかなり最高だった。
個人的に面白かったのは、自分がかつて住んでいた団地のタトゥーを肩から腕にかけて入れていた「せやねん氏」である。彼は上体に大きくトラのタトゥーを入れていたのだが、なんと両乳首が真っ黒に彫られていた。僕の友人で、乳頭に小さい星マークのタトゥーを入れているヤツがいるのだが、そいついわく「乳首にタトゥーを彫るより痛いことはない」そうで、それを鑑みるとマジで大変な気合いの入りっぷりだと思う。
刺青美女たちが発散するエロス
続いて行われたのは『ガールズタトゥーコンテスト』だ。読んで字のごとく女性限定のコンテストだったのだが、端的に、全身にびっしりタトゥーを入れた女性が発散するエロスというのはすごい。何かイケないものを目の当たりにしたときの、ざわめくような高揚を覚える。
鮮やかでしなやかで艶やか、視神経と脳を繋ぐ部分が喜んでいるのが解る。絢爛に彩られた背中や脚がステージ上であらわになるたびに、フロアのあちこちから「すげえー!」とか「やっべー!」とか声が挙がり、盛り上がっていた。
渋谷から来たというギャルが、両腕に彫られた花のタトゥーを「これはなんの花ですか?」と聞かれたとき「わかんない。全部お任せしてるんで」と屈託のない笑みを浮かべて答えたりしていて、これまたかなり最高だった。
最後に行われたコンテストは『ベストオブデイ』というもので、これはその日に会場内で彫ったタトゥーを見せるというものだ。ニット帽にハーフパンツ姿の青年が入賞を果たしていて、6時間かかったといっていたが、「6時間でこんなの彫れちゃうのかよ。ハンパねえな」と思わせる素晴らしいタトゥーだった。
愛好家たちに話を聞いてみた
一通りコンテストを堪能した後、出場者の方にも少し話を聞いてみることにした。ファニータトゥーコンテストに出場していたフカヤショウイチである。なんでも福島から来ており、コンテストでは女子高生のタトゥーを披露。『女子高生が好きだから』というかなり危険なセリフをはいていたフカヤだったが、その実かなり癒やし系のキャラクターだった。
赤髪ロン毛という往年のハードロック、ヘビメタファンのような風貌だったので、「バンドとかされているんですか?」 と聞いたところ、オールディーズロックンロールのバンドをやっているという意外な回答が返ってきた。永ちゃんやコニー・フランシス、マックショウのコピーなどをやっており、普段はギターのリペア職人をしている。クレヨンしんちゃんのタトゥーがよく似合う、朴訥なナイス・ガイであった。
さらにもう一人、声をかけてみた。本稿でも前述したせやねんである。チカーノ風のルックスが一見強面だが、実に気さくに話に応じてくれた。真っ黒に彫り込まれた乳首について尋ねると「僕は乳首が立体的なんですけど、これ以上やったら取れちゃうって言われたんで2日に分けて彫ってもらったんですよ」と笑いながら教えてくれた。
今まで入れたタトゥーの中でもダントツで痛かったそうで、工程自体は20分程度だったものの体感では2時間ぐらいあったらしい。「アメリカンネオトラディショナルが好き」というせやねんのタトゥーはどれも精緻で美しかった。そして、タトゥーをひとつひとつ指しては丁寧に解説してくれた彼の目もまた美しく、それはさながら少年のようにピュアな輝きを放っていた。
僕は今のところタトゥーを入れていないが、人類にとってタトゥーが極めて自然で有意義なものであることは知っている。新陳代謝によって数カ月スパンで身体を更新しやがて死に至る我々人類にとって、タトゥーとは永遠性を獲得するための営為である。
今回のイヴェントを通して僕が実感したのは「やっぱタトゥーってかっけーな」という小学生レヴェルの感想だ。だが、かっこいいことや美しいことや面白いことを追求するのは人間の本懐であり、生きる理由である。タトゥーに対する偏見が色濃く渦巻く我が国で、本イヴェントを企画、運営し、ピースで刺激的な空間を作りあげたスタッフの方々に、心より敬意を表する。これからもずっと続いてほしい。
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今年のポスターは信州彫英が手がけた
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