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初台の「東京オペラシティ アートギャラリー」で、インドネシアを拠点に活動する今津景の個展「今津景 タナ・アイル」がスタートした。会期は2025年1月11日(土)〜3月23日(日)まで。美術館での大規模個展は初となる本展では、インドネシアの神話、植民地主義、開発や環境汚染などを題材とした、生命力にあふれる67点の作品群から構成されている。
平面作品から巨大な立体作品まで
今津は、インターネットやデジタルアーカイブといったメディアから収集した画像をアプリケーションで加工を施しながら構成。その下図を元に、キャンバスに油彩で描く手法で作品制作をする。
2017年、アーティストインレジデンスをきっかけに、インドネシア・バンドンに拠点を移した。2022年にドイツの「ドクメンタ15」、2024年にタイの「バンコク・ビエンナーレ」に参加するなど、近年国内外で大きな注目を集めている。
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本展のタイトル「タナ・アイル」は、タナが「土」、アイルが「水」を意味し、両方の言葉を合わせると「故郷」を指す。展示は、現在生活をするインドネシアと日本という2つの土地での経験と思考に基づく。
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血液の循環で表されたインスタレーション作品『Bandoengsche Kinine Fabriek』。近年地球温暖化に伴いその範囲が拡大しているマラリアと、その特効薬である「キニーネ」の植民地主義が潜む歴史を表現している。毒々しい映画のセットのような雰囲気が印象的だ。
インドネシアで取材した開発と環境汚染
インドネシアで生活する今津にとって、先進国で繰り返される資源の収奪や、その結果生じる環境問題は現実味を持つもの。「世界で最も汚染された川」と呼ばれるチタルム川や、エビ養殖業で知られるシドアルジョ一帯の天然ガス採掘現場で起こった泥火山噴出とそこの人々の生活など、現地を取材した作品を制作している。
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あらゆる生物、骨、植物などのモチーフなどがミックスされた今津の絵画群は、地球上のあらゆる問題がつながり合っているような、または、生命の循環を感じさせるような、ハッとさせられる瞬間がある。
生命が循環する神話の世界観へ
インドネシアの神話に登場する「サテネ」という神が構える鉄のゲートを抜けると、ピンク色の床に巨大な絵画群、頭蓋骨や手の骨、身体の一部や植物を模したオブジェが配置されている。
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「ハイヌウェレ」というインドネシアの神話から着想を得たもので、ハイヌウェレはココナッツから生まれ、自分の排せつ物から金銀財宝を生み出す力を持つという女性の名前だ。その力を恐れた島民たちによってハイヌウェレは生き埋めにされるが、彼女の遺体を切断し土地に埋めると、そこからさまざまな芋が育ち、島民の食を支えたという。
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今津はこの神話を、フェミニズムや植民史などのさまざまな角度から読み解き、さらに、ジャワ島での自身の出産体験と結びつけた。ジャワ島では、子どもを産むと胎盤を専用の土器に入れ、土に埋める風習がある。今津の出産時、胎盤を埋めた庭先では、ヒトデカズラがものすごい大きさで育ったという。
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それぞれのオブジェや絵画の画面からは、循環を繰り返すもろくて強い生命のエネルギーや、土着的な力を感じさせる。ビビッドで目の覚めるようなインパクトを持つ絵画は、特に見応えがあるだろう。
今注目のアーティスト、今津が繰り広げる世界観をぜひ体感してほしい。
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