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東京藝術大学の芸術資源保存修復研究センターは、日本を代表する現代美術作家であり東京藝術大学教授の日比野克彦のアトリエを、まるごと保存するプロジェクト『文化財保存の課題に挑戦!現代美術作家のアトリエを「まるごと保存」』をスタートした。2021年9月30日(木)までクラウドファンディングサイトで出資を募っている。
同プロジェクトはマンション建て替えに伴い、2021年8月に失われた日比野のアトリエをまるごと保存する試み。2022年10月1日までに、玄関タイルや床材の保存処置、資料のデジタル化やアーカイブ作成、オーラルヒストリーの収集などの完了を目指す。
第1目標金額は300万円、集まった費用は各種研究費に当てられてる。リターンは、日比野が使用していた物品や内装の一部などを提供する「アトリエ共有コース」や、オンライン講座、ワークショップ体験、文化財の科学調査入門キットなどで芸術資源の保存を体験できる「保存修復コース」などを用意している。
近年、文化財保存における現代美術作品や近現代建造物の保存、収蔵庫不足の問題などが活発に議論されている。このプロジェクトは芸術作品の保存、修復におけるさまざまな課題を含んでおり、諸問題の解決に対しての波及効果も狙っている。
近現代建造物の保存問題
近現代に建築された建造物は材料や工法についての研究が十分とはいえず、老朽化が進むと安全面を考慮して解体されてしまうことが多い。また、壁画や装飾など建造物と一体となった内装は取り外しが困難であったり、費用がかかるため、解体時に失われることが多々あるそうだ。
同プロジェクトのアトリエは日本を代表する建築家、芦原義信の設計によるマンションで歴史的価値が高い。日比野の痕跡となる玄関タイルや、アトリエの床に散った絵の具や壁の落書きをそのまま保存することで、地域史などの社会的研究や日比野の作家研究などにも役立てる。
現代美術作品に使用される素材やフィルム類の保存問題
現代美術作品の制作では、伝統的な画材ではなく身近にある素材が使用されることがあり、日比野も段ボールを素材とした作品を多数発表している。これらの素材の長期的な保存性はまだ明らかになっていない。プロジェクト期間内に各資料について状態調査を行うことで、必要に応じて適切な保存処置の手法などの確立に貢献するだろう。
収蔵庫の不足問題
日本博物館協会が実施した収蔵庫の状況調査によると、収蔵庫の容量不足に関する問題は現状、看過できない状況となっており、今後、アトリエに存在する全てのものを移動し、保存していくことは場所の制約もあり困難だ。そこで本プロジェクトでは、各資料の記録を取った後、生活用品などの一部の資料についてはリターンという形で支援者へと資料を引き継ぐことで、アトリエの保存、共有を行っている。
得られた成果はさまざまな研究領域の発展にも寄与する内容を含んでいる。クラウドファンディングという形で芸術資源の保存活動を知るきっかけにしてみては。
『文化財保存の課題に挑戦!現代美術作家のアトリエを「まるごと保存」』の詳細情報はこちら
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