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焼き鳥の伊勢廣が創業100周年、京橋本店は移転オープン

「鶏肉を最もおいしい状態で食べられる」場所としてあり続ける専門店

テキスト:
Genya Aoki
伊勢廣 京橋本店
Photo: Keisuke Tanigawa
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2021年、焼き鳥専門店である伊勢廣が創業100周年を迎えた。京橋本店が、建物の老朽化と京橋エリアの大規模再開発の影響を受け、通りを挟んだ向かいの本店ビルに移転開業したのは2020年10月のこと。

1世紀という節目の年、多くの人から選ばれ続けてきた同店が大切にしてきたものや、移転オープンした京橋本店に込められた思いを、3代目店主の星野雅信に聞いた。

焼き鳥専門店としての理想的な給排気システムを開発

伊勢廣 京橋本店
Photo :Keisuke Tanigawa


5階建ての新京橋本店の中で最も特徴的なのは、焼き鳥に特化した革新的な空調システムだろう。もうもうとした炭煙が客席に回らないようにしながらも、備長炭から立ち上る煙の芳醇(ほうじゅん)な香りを損なわないようなっている。この給排気システムは、実に基準量の1.5倍の総換気量を誇る。「密」を回避できるウィズコロナのために生み出されたかのように見えるこの仕組みは、2017年から構想し始めたもの。実際の営業時を再現したテストキッチンを特設、実験を繰り返し、徹底的に研究して完成した店舗が未曽有の時代のニーズと合致してしまったのだ。ひとえに「焼き鳥をもっとおいしく快適に楽しんでもらう」という点を考え抜いたシステムが、コロナ禍でも安心・安全を与えてくれる場所になったのである。

受け継がれているのは「鶏肉を最もおいしい状態で食べてほしい」という思い

伊勢廣 京橋本店
ランチで人気メニューの『やきとり丼』(Photo :Keisuke Tanigawa)


大正10年(1921年)、初代である星野白久(ほしのあきひさ)が当時では牛肉と並ぶ高級食材だった鶏肉の小売店を創業、ほどなくして併設した焼き鳥専門店が今に残る伊勢廣である。厳選された素材を生かし、熟練の職人が姥目樫(ウバメガシ)備長炭で焼き上げるスタイルと、鶏一羽を丸ごと使ったコース料理やレシピは形を変えることなく今日に受け継がれている。その根底にあるのは初代の頃から変わらぬ「鶏肉を最もおいしい状態で食べてほしい」という思いだと星野は語る。そのために、調味料に至るまで口に入る全ての素材を厳選し、手間を惜しまず仕込み、ベテランの職人が丁寧に焼き上げたのが「伊勢廣の焼き鳥」である

その象徴的なメニューが『団子(つくね)』だ。つなぎが一切入っておらず、モモ、ムネ、首などさまざまな部位の「粗挽肉」に麻の実と塩でアクセントをつけたもので、鳥は十分な飼育日数をかけた食肉専用のメス鶏を使用。毎朝届いた丸鶏をさばいて、新鮮な状態で提供している。味付けは塩のみだが「味を乗せるのではなく、肉の中にあるうま味を引き出す」という、フレーク状に結晶化した塩をまぶしてある。

一口かみ締めるごとに、それぞの部位のうま味が次々に弾ける。途中で串からほろりと崩れてしまうが、これが最もおいしい焼き加減なのだそう。つなぎを使わなくても型崩れしない下ごしらえと絶妙な焼き加減があって初めてできる一串。抜群の素材だけでなく、それを生かすために習得された、さりげなくも驚くべき技術がそろってこそ、伊勢廣の味なのだ。

「素材に関しては、ことさら同じものを使い続けようとはしていません」と星野は言う。売り込みにくる素材も多く、全職人でブラインドテイスティングをするが、変えた食材は米と合ガモのわずか二つだけ。「どれほどの労力を費やした味付けであっても、最上の素材に勝るものはない」という初代の信念が、継承されている点の一つである。

焼き台に毎日立ち続け、20年を数える職人に「毎日焼き鳥を焼く中で一番の楽しみは何か」と尋ねると、「やっぱり目の前でお客さんがおいしいと喜んでもらえることですね」と客をしっかりと見て答えた。現在、勤続45年以上のベテラン3人を筆頭に、次代を担う新人教育も精力的に行っている。これからも伊勢廣のファンは増え続けそうだ。

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