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1ドル(約114円)のスライスピザといえば、自由の女神、セントラルパーク、ブロードウェイなどと同様に、「ニューヨークの文化」であると言っても過言ではない。しかしこれが今、消滅の危機に瀕しているようだ。
ニューヨーク・ポスト紙が最近報じたところによると、ピザの製造コストが高騰。従来からあるサプライチェーンの問題、アメリカ全土での労働力不足、食品コストの上昇なども要因となり、店にとって「1ドルピザ」の提供が難しくなっているという。
最も顕著にその状況が分かるのが、ニューヨークで最も有名な「99ドルピザ店」の一つとして知られてきた2 Brothers Pizzaだろう。同店は現在、看板には「1ドル」と表示しているが、実際はスライスを1.5ドル(約171円)で販売している。
スタテン島にあるMona Lisa Pizzeriaのオーナー、レニー・ジョルダーノは、こうした問題の根本は、パンデミックで職を失った人々に連邦政府などが給付金を支給していることで起きているインフレ、人手不足だと指摘する。
「人々は働かず家にいることを選びました。そのため、働き手が見つからないのです。人手不足を生んでいる最大の要因は、インフレです。(雇用のための費用が上がり)大企業でさえ、注文に追いつくための人手を集めるのに苦労しています」
ジョルダーノは自分の店でもこの傾向に気付いていた。「求人広告を出したのは2、3カ月前。ある女性が時給20〜25ドル(約2,280〜2,850円)を要求してきたので、私はそんなに払えないと答えました。大企業が人手を確保するために、時給17〜25ドル(約1,940〜2,850円)を払っているようなのです」と、今人手を確保することの難しさを教えてくれた。
人手が不足すると、あらゆるものが割高になる。もちろんその中には、比較的入手しやすいピザの材料も含まれる。2021年10月末、ジョルダーノはFacebookの投稿で、生き残りのために行った値上げについてこう説明している。
「食材費高騰の中、営業を続け、最高品質の商品を使い続けるために、残念ながら値上げを余儀なくされています。毎週お店のために購入しているアイテムは200アイテムほど挙げられますが、そのどれもが50%から200%に値上がりしているのです」
例えばそのリストの中にある生ニンニクは、2020年10月には1ガロン(約3.8リットル)当たり8ドル(約912円)ったのが、今では38ドル(約4,334円)に上昇。同様に揚げ油も14.50ドル(約1,650円)から42.50ドル(約4,845円)に値上がりした。また、この変化は食材だけに関係するものではない。以前は1束16ドル(約1,824円)だった、ピザの箱が今は30ドル(約3,420円)になった。
ジョルダーノは「99セントピザ」を販売したことはないが、わずか2年前に2ドル(約228円)だったスライスを、50%増の3ドル(約342円)で販売することを余儀なくされている。
ジョルダーノは「お客さんや働く人たちに申し訳ないから、全てのものの値段が下がることを願っています。社会保障年金をもらっている人が500ドルを持って買い物に行き、(何も買えずに)手ぶらで帰ってくるようなことが起こってる」と現状を嘆く。
残念ながら、事態は好転する前に悪化するかもしれない。ジョルダーノは、パスタと小麦粉に関する大幅なコストアップを説明する手紙を顧客に送る準備をしている。そのことについて、ジョルダーノは「ガソリンの値段が上がったんだ。今までは、輸入食材の容器をここに持ってくるのに、3,000ドル(約34万2,270円)かかっていたのに、今は8,000ドル(約91万2,729円)になってしまった」と話す。
懸命な努力しながら、店主はついつい昔を懐かしむ。「私は30年前にここに移住し、一生懸命働いて3人の子どもを大学に入れました。そして今、あえて言いたい。『アメリカンドリームはもう起きないのか?』。まったく悪い時代だ」
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