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一人で行く新婚旅行? 「シングルムーン」が台頭

セルフケアに重点、たとえパートナーがいたとしても

テキスト
Gabriella Ferlita
翻訳:
Time Out Tokyo Editors
in rose petals, next to some sunglasses, a passport, a bottle of champagne and some flip flops
Image: Time Out / Shutterstock
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旅へはいつだって行きたいと思っている。

しかし、友人たちは金欠か多忙のどちらかであり、計画を立て始めたとしても、日程や目的地、現地で何をするか、宿泊先のどれ一つとして意見がまとまらない……。こんな経験のある人は多いのではないか。

グループチャットの中だけで終わらずに、旅が実現すること自体がもはや奇跡に等しい。順調そうに見えても、返金不可の予約を済ませた後にドタキャンする者が出るのは、もはやお決まりの展開といえるだろう。

いっそのこと、ほかの誰をも考慮しない旅にして、そこにほんの少しの贅沢を添えてみるのはどうだろうか。行きたい場所へ、望む時に、思う存分好きなことができる――それが、新しい旅の選択肢「シングルムーン」だ。


もちろん、一人旅は新しいことではない。イギリスやオーストラリアでは、大学進学前の学生たちが東南アジアでバックパッカーをしながら「ギャップイヤー」を過ごすことがよく知られている。

最近では、中高年層の一人旅がますます一般的になってきている。旅行業界メディアであるSkiftの「State of Travel 2024」によると、世界では55〜65歳の旅行者の27%がレジャー目的の一人旅を楽しんでいるそうだ。これに対して、Z世代はわずか4%、ミレニアル世代は16%だという。

同メディアによると、2023年には「solo travel(一人旅)」の検索数が2018年の倍増を記録した。さらに、イギリスの旅行会社Away Resortsのインサイトマネジャー、ダン・ドハーティの予想では、2025年はシングルムーンの需要がさらに大きく増加するという。それを裏付けるように、いくつかの旅行会社がすでにこのブームに便乗している。

ツアーオペレーターのG Adventuresは最近、「単なる一人旅ではなく、自分自身のために旅行する」ことをサポートする商品企画「Solo-ish Adventures」をスタート。Flash Packでは、30代から50代の一人旅の高級グループツアーの需要を満たしている。

WeRoadも、モルディブや日本などの高級な観光地における四つ星および五つ星ホテルのプライベートルームを提供。SevenTravelでは、一人旅向けのオーダーメイドの豪華な休日をプロデュースしている。

旅行者の間で「自分へのご褒美」として上質な旅行を求める傾向が明らかに高まっているといえる。しかし、一人旅はどのようにして低価格から高級へと変わったのか、そしてなぜ今このタイミングでその変化が起きているのだろうか。

セルフケアの大切さを教えてくれるシングルムーン

これまで一人で世界を見て回ることは、勇気ある少数派の楽しみであり、「独立」や「自己発見」の象徴として推奨されてきた。しかし、今では通過儀礼と見なされ、その価値に「セルフケア」が加わったといえる。特に、自己ニーズを後回しにしがちな女性にとっては、自分を優先する機会として、なおさら重要視されている。

「私は産後うつになったとき、一人旅を始めました」と、2人の子どもの母親であるバルティ・リムはタイムアウトのインタビューにこう答えてくれた。 「実際、それが回復のきっかけとなりました。自分を取り戻す方法だったんです」

彼女がキプロスへ初めて一人旅に出たのは、上の子が3歳、下の子が11月の時。ほかの親たちはリムが「シングルムーン」に出かけたことを「自己中心的」と非難したが、その旅は彼女に家族生活で必要な自信を与え、さらなる成長や変化をもたらしたのだ。

「夫は、帰ってきた私に変化を感じたと言っています。その後、コロンビアへバックパッカーとして行き、イギリスで週末に一人旅もしました」と彼女は続ける。

「私には一人で過ごす時間が絶対に必要です。夫は、私のメンタルヘルスのために非常にサポートしてくれます。生活は忙しいですが、この一人の時間が私にとってどれほど大切かは分かっています——誰からも何も求められることがない、まさに自分だけの時間なのです」

「私が聞くところによると、彼女たちのパートナーや家族はこういったタイプの休暇に興味がないようです」と話すのは、リトリート旅行を企画しているYoga Retreats & Moreの創設者であるフローレンス・アシャリー。彼女はメインの顧客である一人旅を楽しむ中年女性たちが、自分自身のケアの必要性をますます認識していることに気付いている。


こうした休暇には、1日1、2回のヨガセッションに加え、文化的な場所の訪問やリラックスする時間が含まれる。アシャリーによると、顧客たちは自分のニーズを優先するためなら、一人旅を選ぶことをいとわないという考えだという。

「ここ数年で変わったのは、顧客の女性たちの意識です。時間の貴重さを実感し、自分自身を大切にするために必要なことをしなければならないと感じているのでしょう。かつては美容や健康のためのリトリートは贅沢と見なされていましたが、今はそうではありません」

誰かと行く必要はない

旅行団体であるRoad Scholarの2024年の報告によると、同社のツアー参加者のうち、一人で旅行する人の最大85%が女性。少なくとも60%は既婚者でありながら、配偶者とではなく単独での旅行を選択しているそうだ。

Canvas8のシニア行動アナリストであるアンナ・ワレツコは、この「文化的変化」が進んでいることに注目している。「特にラグジュアリーな一人旅やシングルムーンといった一人旅の人気が急上昇しており、特に女性の間で顕著です」

ワレツコはタイムアウトに対し、「女性は今や、一人旅を孤独の象徴ではなく、自立、自己愛、探求の行為として受け入れています。それは単に一人でいることを目的とするものではなく、新たな視点を得て、自己肯定感を高め、一時的に離れた人間関係への理解をより深める旅でもあるのです」と語る。

「ベビームーン」や「ミニムーン」といった例が示すように、「ムーン」を付けることで商品化しやすくなる傾向があるのは事実だ。しかし、「シングルムーン」が象徴しているのは、結婚や恋愛を理想とする価値観(旅行商品における厄介な一人参加での追加料金の問題につながる)からの脱却だ。そして、パートナーがいなくても「ハネムーン」の特典を存分に楽しめるという発想を肯定しているのである。

シェフ兼フードライターのエリーシャ・ロッシュは、自らを「シングルムーンの達人」と称する。2015年に子宮頸がんを克服した後に仕事を辞め、半年間バリを旅したことがきっかけで、このシングルムーンに魅了されるようになったという。

「ロックダウン中、モルディブのハネムーンリゾートに滞在していました。島で唯一の一人客で、宿泊したのは海の上に建つカップル向けの水上ヴィラ。ベッドの上にはバラの花びらがちりばめられていて、思わず笑ってしまうような体験でした」

ロッシュはそれ以来、毎年必ず一人旅をすることを誓っている。たとえ恋人ができてもそうするつもりのようだ。「私の年に一度の一人旅は聖なるものであり、たとえパートナーに出会ったとしても、続けるでしょう。この旅のスタイルでは、自信が大きく高まり、さらに多くの冒険ができると思うからです」

マヤ・リアズは「シングルムーン」を利用して南アフリカのケープタウンで「一生に一度の休暇」を過ごした。「友人たちは誰も一緒に行きたがらなかったので、自分だけで行くことに決め、本当に贅沢な旅行にしようと思った」と彼女は振り返る。

このハネムーンのような休暇で、リアズは初めてのサファリツアーに出かけ、ロビン島を探訪。一人でヘリコプターに乗り、初めてライオンズヘッドに登った。さらにスイートルームに宿泊、飛行機はビジネスクラスにした。「それは夢のようでした。自分が一人だからといって、予算を抑えた旅行には行きたくなかった」と彼女は言う。

そして、世界を旅するあなたも彼女と同じように考えるべきだろう。2025年の今、学ぶべき教訓があるとすれば、人生はあまりに短い、だからこそ世界を見るのを待つべきではないということだ。

特に、最高の相棒、つまり自分自身との旅ならなおさらである。

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