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埼玉県飯能市の自然豊かな「メッツァビレッジ ムーミンバレーパーク」の森の中。宮沢湖のほとりに2025年3月1日(土)、次世代を開くアートを発信する現代美術館が誕生する。その名も「ハイパーミュージアム飯能」だ。
アート作品を「未来からやってくるコンテンツ」と捉え、ハイパーな才能を持つアーティストと協働し、時代に一石を投じる同美術館。8月31日(日)まで行われるオープニング展「ヤノベケンジ 宇宙猫の秘密の島」では、自然に溶け込む作品のストーリーに没入し、アートの面白さを今一度発見する、驚くべき体験が待っている。
ぶっ飛んだアーティストのハイパーな才能を
同館の館長に就任したのは、日本のアート業界を第一線でリードする、アートプロデューサーで編集者、京都芸術大学教授の後藤繁雄。閉塞(へいそく)を破り超えていくアートの思考や、才能に期待が高まる時代の先が見えない現代で、それを担うのは「ぶっ飛んだアーティスト」の「ハイパーな才能」だという。

アートにおける「キャラクター」や「ストーリー」を重要視し、AIを駆使したテクノロジーを取り入れ、自然とデジタルの新しい表現を探る現代美術館を目指す。

最大規模で最高傑作のヤノベケンジ展
オープニング展を飾るのは、世界的な造形アーティストであり、ストーリーテラーのヤノベケンジ。約80点から成る時代性とヤノベの個人史をクロスする館内展示と、外の立地を生かした巨大な造形『宇宙猫島』で構成される。
企画・キュレーションを手がけた後藤は、一般的に難しいという印象を持たれる現代アートのイメージから離れ、周囲の森を活用・増幅させてくれるような想像力を持つアーティストとしてヤノベを評価し、本展を協働した。

今年で作家活動35周年を迎えるヤノベは、1997年にチェルノブイリを訪問。時代のカタストロフをいち早くユーモラスな形態でアート化し、目次録な作品に取り組んできた。ビジョンや物語を用い、強烈なインパクトを持つ彫刻やキャラクターで知られている。本展は、自身にとって最大規模で最高傑作とのこと。この場所が「想像力を与えてくれた」とヤノベは語る。


作品を楽しむコツは、ヤノベの空想から始まり、作品群に通底するストーリーだ。現在も展示中で、後藤が展示プロデュースも務めた、「ギンザ シックス(GINZA SIX)」での巨大作品『BIG CAN BANG』。この作品は、地球に生命と文化をもたらした「宇宙猫」というバックストーリーを持つ。本展はそのスピンオフで、人類にとって美術はどういうものかといった問いを、使者の宇宙猫が作品を通して伝える 。

また、これまでの活動を振り返り、現在につながるまでの立体・原画・特別映像も並ぶ。カラーで描かれたものは、AIによる制作。宇宙からやってきた猫もAIも、外側から提示されたものとして、今一度美術を考え直すという意味が込められている。
ボートでたどり着く『宇宙猫島』
一度見たら忘れられない、本展のために作られた湖に浮かぶ『宇宙猫島』。ボートに乗って、周囲50メートルの人工島である作品にたどり着く美術館は、世界中探してもないだろう。2人乗り用の足こぎボートで自ら漕ぎ出し、行き着くのは、宇宙猫がグランピングする島だ。


宇宙猫が生活したという島の隠れ家の中には、壁画が描かれ、『モナ・リザ』や岡本太郎などの作品の「宇宙猫バージョン」が配されている。

人類が生まれる前、『太陽の塔』の形をした宇宙船で、飯能市に不時着した宇宙猫。孤独な生活の寂しさを紛らわすため、隠れ家で壁画や作品を制作した。すなわち、「この世に存在する壁画や名作は、宇宙猫が制作したものが起源」というストーリーなのだ。

物語に身体的にも没入させる、ヤノベのアーティストとしての力と、想像力の底知れなさを実感せざる得ない宇宙猫島。単純に冒険のようで楽しく、元気にもなるだろう。
そして、この宇宙猫を「宇宙に還す」というNFTアートプロジェクトが、同展の終わりを迎える2025年夏に予定されている。NFTチップが入った宇宙猫をバルーンに積み、茨城県大洗海岸から成層圏まで飛ばすという壮大な計画だ。ヤノベの空想の産物は、宇宙で地球を見上げながら完結を迎える。
「ハイパーキッズプログラム」やここだけの宇宙猫グッズ
アーティストとともに考えた、ファミリーで体験できる「ハイパーキッズプログラム」にも同館は力を入れる。自然を散策しながら現代アートに触れる機会を提供するため、初回は森を散策しながら、宇宙猫の顔を完成させる仕掛けを盛り込んだ。

石に刻まれた絵を紙の上から色鉛筆などで擦ることで、形を浮かび上がらせるという技法「フロッタージュ」を活用し、プリミティブな要素を取り入れている。

また、土産にもぴったりな、ここでしか手に入らない宇宙猫グッズも必見だ。ぜひ宇宙猫を家に連れて帰ってほしい。ビュッフェを提供するカフェテリアでは、宇宙猫島を眺めながらゆっくりと過ごせるだろう。

作品鑑賞だけでなく、島への冒険や森での散策を通して、アートの面白さを実感できるハイパーミュージアム飯能。現地で自身のイマジネーションを刺激してほしい。
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