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この1月は、酒を断つ「ドライジャニュアリー」にトライしてみただろうか。禁酒生活を実践し、想像以上にその良さを感じてしまったとしても、心配することはない。アルコールとの関係を見直す人はますます増えている。完全な禁酒を選択するにしても、「ソバーキュリアス」というあえて飲まないライフスタイルを取り入れていくにしても、酒を飲まないことが当たり前になりつつあるのだ。
そうしたトレンドをけん引しているのが、Z世代。イギリスの飲酒行動に関する最近の調査では、16〜25歳の若者が、アルコールを飲む可能性が最も低いグループであることが示されている。アメリカでは2020年の調査で、2002年から2018年の間に、完全に禁酒している大学生が20%から28%に上昇したことが分かった。
では、彼ら酒を飲まない新世代にとって、旅とはどんなものなのだろうか。
これまで、若者の一人旅における「社交」はバーやビーチパーティー、ボートクルーズなど、酒が飲める場所や機会に支えられてきた。グループ旅行業者が18〜30歳向けに企画する典型的な旅行には、ナイトライフやクラブの時間が盛り込まれているのが常。宿泊先のホステルにはもちろんバーがあり、パーティーやパブ巡り、カクテルナイトなどのイベントはたとえそれが一晩であっても、見知らぬ旅の仲間を親友に変えるものだった。
しかし、酒を飲まない体験の需要が高まるにつれ、旅行業界なども人々の飲酒習慣の変化に注目し、より良く、健康的に旅を満喫するための選択肢も増えている。「ノンアルの旅」のための考え方を見てみよう。
「シラフ仲間」を見つける
ローレン・バーニソンは、酒を飲まない旅行者にとって「楽しい」とは何かを考え直したことがきっかけで、We Love Lucidという旅行会社を設立。アルコールなしの生活を試みる人が増えていることを背景に、少人数グループの旅行を企画している。
彼女は世界中を旅する中で、酒を飲まない人が参加できるアクティビティがいかに少ないかを実感し、このコンセプトを思いついたという。同社が提供するのは、リハビリや回復を目的とした「禁酒リトリート」とは異なり、ウェルネスやマインドフルネスの要素を抑えた、人とのつながりや冒険を優先した旅が中心だ。
ローレンは「私たちが提供しているのは、ウェルビーイングのリトリートに代わるもの。これまでパーティーでさんざん遊んできたとしても、多くの人はアドレナリンを出したいと思っています。ですので、冒険旅行に力を入れています」と言う。同社が最近企画した旅では、シラフの旅行者がスペイン南部のサーフタウンであるタリファを訪れ、ハイキング、ウインドサーフィン、タパス作り、水泳などを体験したそうだ。
もちろん、アルコール抜きの旅に予約しなくても、旅先でこれらのことを全て取り入れることはできる。しかし、ローレンの旅行会社の企画は、大酒を飲むツアーやホステル滞在に代わる有意義な選択肢となっている。酒を飲まない旅行者にとっては、同じ志を持つ人々とつながることが重要。酒中心のツアーやソーシャルアクティビティでは、そのようなことはあまり達成できないからだ。
ローレンはこう続けた。「自分が酒を飲まない人間で、食事のたびにテーブルのみんながワインに夢中になっている状況に直面したと想像してみてください。しかも、数時間後の会話の質は言うまでもありません。正直、つまらないんです。酒を飲まない人、もしくは禁酒に興味がある人が集まり、体験を共有できれば、そこには本当の意味での帰属意識が生まれるものなのです」
「バー=酒」と思わない
ナイトアウトは、休暇には欠かせないもの。しかし、ノンアルの旅を考えている人にとって、酒がないことでそれが犠牲になると心配するかもしれない。しかし、「ノンアルのナイトライフ」が従来のバーメニューの片隅にあるモクテルをはるかに超えて進化し、酒を出さないバーもあちらこちらにできている。
例えばダブリンには、「人々が意識がある状態で交流できる場所」をうたうウェルビーイングバー「The Virgin Mary」がある。日本の未来的バー「0%Tokyo」では、ASMRサウンドに合わせて、クリエーティブなカクテルやCBD入りの軽食を楽しむことができる。
ロンドンのコベントガーデン地区に最近オープンした「Club Soda」は、イギリス初の「マインドフルドリンキング」のための常設施設を自称。バー、ショップ、テイスティングルームを併設し、週末は遅くまで営業している。この店では二日酔いの心配や無意味な会話なしで、親密なカクテルバーの雰囲気を楽しめる。
それは、クラビングでも同じ
シラフでいるからといって、クラブに行くことを諦める必要もない。もちろん、ダンスフロアで暴れている友人にとって、運転者できるあなたは重宝されるかもしれないと、いうつもりもない。
ベルリンで開催されている「Sober Sensation」は、ヨーロッパのアンダーグラウンドレイブシーンを「精神に作用する物質」を一切を取らずに体験できるパーティーとして知られている。2013年から世界各都で開催されている伝説的な早朝ダンスパーティー「Daybreaker」のように、太陽が出ている間にレイブに浸れる方法もある。
ナイトライフを再定義する
もちろん、禁酒は多くの人のナイトライフをまったく新しいものにする。
昔々、海外にいる若いイギリス人が楽しい時間を過ごすのに必要なのは、巨大な金魚鉢グラスのカクテルとレイズのポテトチップスだけだった。しかし、今の若い旅行者は、より文化的な体験を求めるようになってきている。彼らにとってナイトライフとは音楽、演劇、食事、アフターダークツアー、深夜営業のカフェなどを指すのだ。
ロンドンのナオミ(32歳)は、旅先におけるノンアルのナイトライフをすでに実践している。「お酒を飲まない私は、夕方から夜にかけてのツアーやアクティビティをチェックするのが大好きなんです。そうすれば、一日に全てを詰め込まなければならないというプレッシャーもなく、太陽が出ているときにリラックスできます」
「私の経験では、夜になると、その場所ならではの見方ができることが多いですね。雪の積もったカナダの渓谷をヘッドランプで照らしながらハイキングしたり、プエルトリコの生物発光する湾でカヤックをしたことがあります」
朝を生きる
酒を飲まないことの最大の魅力は、何と言っても二日酔いがない、充実した長い一日を迎えられること。ノンアルの旅では、バー以外の旅先の魅力も発見できる。多くのシラフの旅人にとって、早起きして有意義に過ごす時間は、ナイトアウトに勝るとも劣らないのだ。禁酒をした人の多くは、「FOMO」(Fear of Missing Out)を感じるどころか、それがいかに世界を見る経験を豊かにしたかを絶賛している。
Instagram(@500daysofsober)で禁酒の旅を記録しているニョミ(28歳)は、自身の体験を次のようにシェアしてくれた。
「禁酒して旅行することで、新しい体験に目が向くようになったのは確かです。以前は、ビールの値段やバーを中心に旅行を計画していました。今は二日酔いもなく、朝日を見ることもでき、さらに夕日を見る元気もあります。時間、お金、エネルギーを探索に費やすことができるようになったのです。話題性を追い求めたり、嫌な気分になったりする代わりにね。そして一番いいのは、旅の出来事を全て覚えていることです」
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