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公演の場としてのニューヨークのストリート、現状と課題

コロナ禍で定着した『Open Streets』利用者のインタビューで探る

Anna Rahmanan
テキスト:
Anna Rahmanan
Senior National News Editor
West Side Comedy Club
Photograph: Courtesy of Felicia Madison
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ニューヨークでいつも何かが起こっている場所といえば、路上だろう。この街の「ストリート」は、どこもユニークな体験と興奮にあふれている。少し歩けば新しいレストランの看板を見つけられ、アート展のポスター、ライブのフライヤーもたくさん目にする。そして、愛を求める孤独な都会人のメッセージに触れることもできる。

この街の通りは、我々をドアの向こうに隠された場所への探索へと誘い、飲食店へと導いてきた。独特の雰囲気に包まれたブロードウェイの劇場、最愛の人と出会った隠れ家のような酒場も、通りを進んだ先にあったのだ。

しかし、世界的なパンデミックが発生。悲しいことにこの1年間はこの街でも、安全かつソーシャルディスタンスを保つため、プライベートな空間にとどまるか、屋外の広い場所へ出るという、選択肢しかなくなった。長年にわたって私たちをドアの奥へ誘い込んできた通りそのものが、まるで私たちに「ここでじっとしてて」と、建物の中へ入ることを拒んでいるようにさえ思えた。

その一方で、コロナ禍のニューヨークでは、道路利用のハードルを下げる『Open Streets』のような取り組みが発展。路上はキャバレー、バーレスク、コメディー、ダンス、展示会などのイベントの会場となり、レストランは店先を広げた。最近の法案で『Open Streets』が恒久化されたことを考えると、屋外での文化体験が増えるトレンドは今後も続くだろう。

こうしてニューヨークのストリートは、芸術や文化のための最も魅力的な舞台として脚光を浴びることになった。しかし、ストリートを使う側はこの変化を喜んでいるのだろうか? 路上でのショーは屋内のものと同じように成功するのだろうか?など、いくつかの疑問が浮かぶ。ニューヨークのストリートにおける文化活動の現状や課題を当事者へのインタビューを通して探った。

Guilty Pleasures
Photograph: Amber Ink Photography

「街が閉鎖されたことで、私たちはよりクリエーティブになれました。創造する際に壁があると、それに立ち向かおうとして、既成概念にとらわれずに考えられるようになります。もしパンデミックがなかったら、バーチャルショーをやったり、ストリートをパフォーマンススペースにしたりすることは考えられなかったでしょう」

パンデミックの間、アップタウンの歩道でパフォーマンスを行ったGuilty Pleasures Cabaretの共同設立者であり、共同ディレクターのアンドレア・パレッシュは、こう語ってくれた。

パレッシュたちの積極的な取り組みが成り立ったのは、「歩行者」のおかげもあったという。ニューヨークはアメリカの都市の中でも、圧倒的に歩行者が多い。パフォーマーたちにとってみれば、彼らは「観客」なのだ。そのことについてパレッシュは「この街にはすでに観客が組み込まれています。それがニューヨークのユニークな点。周りには常に人がいるのです」と表現している。

アップタウンにあるWest Side Comedy Clubのブッキング担当兼新人担当ディレクターであるフェリシア・マディソンも、「観客」に恵まれていることについて、自身の体験を教えてくれた。「屋外で準備をしていると、ショーのチケットについて尋ねてくる人がいます。人々がふらりと立ち寄ってくれる、そんな環境があるのです」

West Side Comedy Club
Photograph: Courtesy of Felicia Madison


Pinc Loudsというバンドのリードシンガーであるクラウディも、文化的好奇心が旺盛な人々が徒歩で移動するニューヨークでは、屋外でのパフォーマンスは効果的だと実感している人の一人だ。このバンドは何年も前から路上で活動しているが、
コロナ禍にはその活動をさらに強化。特にトンプキンス・スクエア・パークでは多くのファンを獲得したという。

「屋外で演奏するのは本当に素晴らしいことです。私はいつも無料でライブを見てもらうのが一番だと思っています。屋内のライブハウスにはたくさんの長所がありますが、基本的には自分を見に来てくれた人たちのために演奏することになります。街、つまりリアルなニューヨークのために、あらゆる年齢層の人に向けて、通りの真ん中で演奏することは、屋内でのライブより感動が大きいです」

路上活動を続けてきたクラウディは最近の変化の一つとして、パンデミック以前に多くあった公共の場でのパフォーマンスについての制限規定が、地元警察の努力によって緩和されていることを挙げる。「例えば、これまで公園ではアンプを通して出す音は禁止されていました。しかし警察も、人々が音楽を必要としていること、ミュージシャンが屋内で演奏できないことを知っているので、今ではそうした規制は少し緩くなっています」

Guilty Pleasures
Photograph: Amber Ink Photography

このようにクリエーターたちは全体的に、屋外でパフォーマンスすることの大きな利点として、街にすでに潜在的観客が存在していることを挙げている。新たなファンの獲得がほぼ約束され、偶然通りがかった多くの人々に関心を持ってもらうことが比較的簡単だからだ。興味深いことに、こうした幅広い潜在的ファンへの露出が多い場所での活動にメリットがあるということは、パンデミックでアートにまつわる活動の場がZoomのようなオンライン・プラットホームへ移り始めた頃、多くの業界関係者が気付いたことでもある。

ただ、前途のコメディークラブの運営に携わるマディソンは、Zoomについては次のような印象を持っているという。

 「Zoomは大好きでした。今も新人タレントが登場するショーやオープンマイクショーをZoomで公開していて、これからも続けるでしょう。なぜなら時間の節約になり、パフォーマンスを間近で見られ、(中略)アメリカや世界中のコメディアンに会うことができるからです。もしZoomがなかったら、何人かのコメディアンに会うことはできなかったでしょう。これからも、Zoomやオンラインショーは利用されていくと思います。でも、舞台や観客の生の笑い声を聞けることには、それ以上の魅力があります。ドラッグみたいなものですよ」

 アクセス性の良さはZoomだけでなく、ニューヨークのストリートにも存在する。一方で、ストリートでのパフォーマンスには課題が多い。マディソンが運営するような既存ヴェニューが屋外でプロジェクトを行うこと、特に『Open Streets』プログラムに参加できることは、エキサイティングであるが、屋外パフォーマンスの実現には常に問題が山積みだ。マディソンはそのことについて、「大変な作業です。全てを消毒して、テーブルを運び出して、警察に届け出て、通りを閉鎖しなければなりません」と苦労を漏らした。

Guilty Pleasures Cabaretのパレッシュは、「私たちは基本的に路上に劇場を作る作業をしているので、発電機、カーテン、ダンス用ステージ、椅子などを用意しなければなりません。基本的には、スペースの利用許可だけが出ているだけなのです。準備など制作面も全て支援してくれる何らかのプログラムがあれば良いと思います」と支援拡大への希望を語った。

パレッシュと一緒にGuilty Pleasures Cabaretを運営しているブリジット・ボーズは、自分たちが使用許可を取得した通りを閉鎖するために必要なバリケードを、警察署まで毎回取りに行っているという。彼女はこれは市の職員がやるべきことだと考えているのだ。

バンドで路上パフォーマンスをしているクラウディにとっては、「荷物が多いので、以前は地下鉄や駅の近くで演奏していましたが、結局、ワゴン車を買いました」と話してくれたように、ライブを行うために機材の移動が大きな負担となっている。

West Side Comedy Club
Photograph: Courtesy of Felicia Madison

簡単にいかないのは明らかだが、業界関係者の多くは制限を緩和し、パフォーマーたちの負担に配慮するよう、さらなる支援を市に求めている。その中で要望リストのトップに挙げられているのが、『Open Streets』のガイドラインではまだ認められていない、屋外パフォーマンスの場でのアルコールやドリンクの提供だ。

パレッシュは「私たちができるのは、チケットの販売と寄付金の募集だけです。今は、ちょっとしたお菓子や飲み物、自分たちのオリジナルグッズも売ることはできません。私たちは、それが可能になればいいと思っています」と現状を教えてくれた。

クラウディは路上ライブの規制が緩和され、音楽の世界に定着することと、ストリートパフォーマーに求められる許可証の手続きがもう少し簡単になることを願っている。「私たちは2回許可を申請し、どちらも却下されたことがあります。この部分でもっと市の助けが欲しいです。私たちはもちろん許可ありきでパフォーマンスをするので、少なくとも実際に許可を得るのが容易になったらいいと思います」

しかし、たとえ『Open Streets』プログラムを全面的に見直したとしても、屋外での活動がパフォーマーたちを成功させる唯一の確実な方法になるわけではないと考えている人は多いようだ。

マディソンは「コメディアンとしては、屋内の環境の方がいいんです。屋内は笑い声が壁に響き渡り、伝染していきます。屋外では撮影している人がいて、問題になったこともあります。私たちはそうした人に撮影を止めてもらうように言いに回らなければなりませんでした。コメディアンは屋内を好むと思いますが、屋外でのショーにもマーケットはあると思います」

実際に街が再開した時、どうなるかは分からないが、もしこのまま屋外パフォーマンスのトレンドが強く続けば、ニューヨークのストリートは、街にある屋内パフォーマンススペースを補完するような存在になるといえるだろう。ニューヨーカーはこれまでの2倍の量の文化を楽しむことができるようになるはずだ。この十数カ月、私たちに創造的な場所が不足していたことを考えると、この数字は喜んで支持できる。

私たちはニューヨークがもうすぐ本格的に復活することは確信しているが、街での体験は以前から慣れ親しんできたものとは少し違うものになるかもしれない。しかし「違い」こそが、弾力性に富んだ美しい都市であるニューヨークを特別にしているものといえるのではないだろうか。

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