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スウェーデン出身の女性画家、ヒルマ・アフ・クリント(Hilma af Klint、1862〜1944年)のアジア初となる大回顧展「ヒルマ・アフ・クリント展」が、「東京国立近代美術館」でスタートした。本展は、21世紀になってから世界にその存在を知られるようになり、抽象絵画を創案した画家として再評価が高まる、アフ・クリントの全貌を紹介するもの。高さ3メートルを超える代表作『10の最大物』の10点を含め、140点の作品群が初来日となる貴重な機会だ。
日本初でアジア初の展覧会
2010年代から世界的に注目され、突如美術界に登場したアフ・クリント。彼女はスウェーデン王立芸術アカデミーで正規の絵画技術を身に付け、卒業後は職業画家として活動する。その一方で神秘思想に傾倒し、アカデミックとは全く異なる降霊術の体験を通して、抽象絵画を制作した。


1944年の死後、20年は作品を封印すると遺言に残されていたことから、長らく限られた人にしか作品が知られていなかったが、1980年代以降いくつかの展覧会で紹介が始まった。
2018年、ニューヨークの「グッゲンハイム美術館」で行われた展覧会では、同館史上最大となる約60万人超を動員。世界にセンセーションを起こし、その表現の先駆性や緻密な体系性など、モダンアート史上極めて重要な存在として評価されている。


本展は、今日の美術界において最も興味深いアーティストの一人である彼女の、アジア初となる待望の展覧会だ。
精神世界の探究によって生まれた抽象絵画
没後70年たっても色あせることない、現代絵画と並ぶコンテンポラリーな魅力を放つアフ・クリント作品。先駆性を持つ彼女の抽象絵画は、スピリチュアルリズムや秘教的思想が基盤となる、精神世界の探究によって生まれた。


思春期から霊的世界や神智学に関心を寄せていた彼女は、神秘的霊知によって神を認識できると説く信仰である神智学協会や、キリスト教や神智学の教えを融合したエーデルワイス協会の一員となる。そこで交霊や瞑想(めいそう)によって霊性からのメッセージを受け取り、それを作品として描き続けていた。
壮大なスケールの代表作『10の最大物』
高さ3メートルの壮大なスケールの代表作『10の最大物』は、圧巻だ。幼少期から老年期へと人生を4段階に分け、男性性を表す青色、女性性の黄色、白色と色彩が徐々に変化していく。


よく見ると、絵の具の滴りや塗りむらなどがあり、スピード感が伝わってくる。展示空間は、明るく柔らかな色合いに包まれ、目も心も潤うだろう。

白鳥のシリーズは、2羽の鳥が物質の最小単を表すかのような立方体へと分解され、具象から幾何学的な表現へと変化していく世界が広がっている。
戦後、主に男性アーティストによって位置付けられていた美術史。芸術における霊的なもの、また女性画家やスウェーデン出身といった要素からマイノリティーであったアフ・クリントの作品は、これまでの美術のメインストリームの中でいまだ定義ができず、今まさに研究が進んでいる。
目移りする色彩豊かなグッズ
オリジナルグッズも目移りするものばかり。アフ・クリント作品のプリントがされた靴下やTシャツといった色彩豊かな品々は、どれもおすすめしたい。


また、関連映画として、アフ・クリント作品に迫るドキュメンタリー映画『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』が、会期中3カ月連続で「ユーロスペース」で再上映される。作品への洞察が深まる一本だ。
本展の会期は6月15日(日)まで。哲学や宗教のように壮大な体系として、肉眼で捉えることができない世界を描くアフ・クリントの世界を堪能してほしい。
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