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感度の高いオンリーワンの小店がさりげなく店開きしている刺激的な顔を隠し持つ谷根千(谷中・根津・千駄木エリア)。その外れ、不忍通りと道灌山(どうかんやま)通りが交差するT字路近くに2022年4月16日、ファンアゲイン(FUNagain)がオープンした。ここは、家具と雑貨を扱うリサイクルショップだが、いわゆる従来のリサイクルショップではない。
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ビームス(BEAMS)やエストネーション(ESTNATION)でレイアウトと商品構成を担当し、今も第一線で活躍する店主の高島大輔と、シップス(SHIPS)でバイヤーを務める中山良子が夫婦で営む店である。従来の仕事の傍ら、長年温めてきたアイデアを実現した場なのだ。
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家具を扱う以上、ある程度の広さが確保できて、かつ品物にマッチする店と場所を捜していたところ、折よく見つかったのが今の場所。使い込んだ白いキャンバストートのようなビルの壁面からして味わいがあり、扱う品々とよくマッチ。なるほど、街並みに悪目立ちせずシックな存在感を放っている。
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その昔、地元クリエーター御用達の喫茶店だった頃の痕跡を残す店の内装もいい。元厨房(ちゅうぼう)のレジコーナーや、年月を重ねた組み木の床をそのまま生かし、むき出しにした壁面や天井に家具や食器、版画、つり下げたラグマットの束などが、適度な間を置いてセンス良く並ぶ。
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古物を扱う店は得てして暗く、雑多な雰囲気になりがち。しかし同店は、正面奥の壁面を鮮やかなピンクに塗りつぶし絶妙な差し色に仕立てている。アクリル素材の棚と時代物の木製ショーケースが違和感なく並び、食器類を色ごとにまとめて分散して展示するなど、センスを駆使して明るくヌケのいい空間を作り出す。店内レイアウト歴戦のプロである高島の面目躍如だ。
「チープ・シック」のライフスタイルをインテリアに
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「長く洋服業界で働いてきて苦手だったのが『これはどこそこで生まれたディテールで、時代背景がこうだからそのアイテムと合わせるのは違う』みたいな教え。プロとして背景に詳しくいるというのは、理解できる。けれど、その知識にとらわれ過ぎて思考停止になっているのでは?と思うこともあって。インテリアにも同じようなことが多かれ少なかれあります。
こういう苦しみは、人の目や先人の作ったルールや価値観を気にしすぎることで生まれていて、それによって楽しくなくなっているのだとやっと最近気付きました。FUNagainはそういったジレンマから解放されて作ったお店です」
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従来の価値観や流行に左右されることなく、お気に入りを見つけて身に着け、長く楽しもうという「チープ・シック」のライフスタイル。1970年代に開花して、デニムなどの仕事着からミリタリー、古着やTシャツを日々の着こなしに取り込み、当たり前のものにしてしまったそのファッション哲学を継承しつつ、それを今日のインテリアの世界で展開しようという試みである。
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店で扱うのは、国内各地のリサイクルショップなどを探して賄う国籍や年代不問の品々だ。高島が直観で良いと感じた掘り出し物をセレクト。家具類は日常使いできるよう調整してあるが、表面の傷などは味としてそのまま残してある。カリモク特注品の1人掛けソファが2万2,000円(税込み、以降全て同様)など、リサイクルであるゆえに価格が手頃なのもうれしい。
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左手奥の小スペースは現在、閉店した画廊から譲り受けた版画コーナーとなっている。価格は額付きで平均4万円。それとは別に、デザイン性の高いレコードジャケットもインテリア用品として潔く提案する(1枚2,000円)。フットワークの軽さと、バラバラになりそうな品々を一つにまとめ上げる編集センスは見事というほかない。
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一部の品を除き、大半がこういった手の届きやすい価格なので、商品の回転は速い。特定の品に狙いを定めず、「店で出合った商品との一期一会を楽しむ」ぐらいの気持ちで行くのがおすすめだ。そして何よりもここは、店主の高島大輔、中山良子夫妻のセレクトセンスを生活に接ぎ木できる学びの場でもある。店内を見て回るだけでも収穫があるだろう。
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