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伝統的なエジプト料理が楽しめる上に、ベリーダンスのショーまで観られるハラルレストラン「スフィンクス(Sphinx Iidabashi)」に行ってきた。
取材に訪れるまでは正直「エジプトでスフィンクスっていくら何でもコテコテすぎないか? 藤子不二雄のネーミング?」などと思っていたが(マジ失礼)、実際に店内もかなりのコテコテ具合だった。


エジプト以外の何物でもない
エジプトの知識といえば、おおよそ『遊戯王』と吉村作治とアース・ウィンド・アンド・ファイヤーぐらいのものだが、アヌビスとかバステトとかツタンカーメンとかヒエログリフとか、「エジプト」と言われて思い浮かぶイメージがあふれる内装はもう端的にキャッチーで、わかりやすくて良かった。誰がどう見ても完全にエジプト。エジプト以外の何物でもない。

けっして安直すぎるとか言ってディスってるのではない、沖縄料理屋には沖縄感があって然るべきだし、ハンバーガー屋にはUSA感があって然るべきである。専門料理店とは少なからず観光の要素を兼ね備えているものだ。
フォトスポット完備
われわれ取材班が足を踏み入れたとき、まだ店はオープン前で、スタッフが慌ただしく準備に奔走する中、オーナーのアレックス・エウィスが対応してくれた。
ミリ単位で綺麗にシェイヴされた髭、フレームの細いメガネ、仕立ての良いオールブラックのジャケット&パンツと、きっとこの人はものすごく頭が良いのだろうなという風貌で、柔和かつ早口の、非常に流暢な日本語を操りながら、店内を案内してくれた。
「ここがステージで、ベリーダンスのショーはここでやります。そしてこっちがフォトスポット」
「え、フォトスポットあるんですか?」
店の右奥には黄金の玉座がふたつ並べられており、そのまわりを前述したアヌビスとかバステトとかツタンカーメンのオブジェが取り囲んでいた。この玉座に座って「写真を撮っていいですよ」ってことらしいが、フォトスポットとしてはあまりにも厳かすぎるムードである。

アレックスによれば、この取材翌日からラマダンが始まるので、ラマダン仕様の設えになっているらしい。ラマダンといえば断食ぐらいしか知らなかったが、エジプトの一般家庭ではラマダンの飾り付けというのがちゃんとあるそうだ。
断食は日の出から日没まで行われるが、東京では朝4時半から17時15分までの約13時間がそれにあたる。なぜ断食するのかというと、信仰を深めるほか、恵まれない人たちの気持ちを理解するとか、神の恵みに感謝するとか、いろんな理由があるそうだ。
ハラルとは、そしてベリーダンスとは
スフィンクスの創業は2023年末で、営業を始めて1年3カ月になるという。提供されるハラル料理とはイスラム教の教えに基づいた料理のことで、豚肉や豚のエキスが含まれている食品は不可、アルコールは料理酒など含めすべて御法度といったルールはよく知られているところだが(ちなみにスフィンクスでは客用の酒は提供されている)、鳥や牛は決まった屠畜、加工処理でなければならないなど、さまざまな決まり事がある。

同店で提供される牛肉はすべて、名古屋産のハラル和牛を買い付けているそう。メニュー表を開くとバラエティー豊かな料理が並んでいるが、いずれも5人のエジプト人シェフによってまかなわれている。ちなみにこの日も予約で満席とのことだったが、客層の95%は日本人だ。アレックスによれば、在日エジプト人というのは全国でも2000人しかいないのだという。

で、やはり気になるのは「ベリーダンスショー」である。スフィンクスでは毎週金曜はベリーダンスショー、そして土曜日はアラビアンナイトと称して民族楽器とダンスのセッションライブが行われており、当然ながらショーの日は特に人気がある。

ベリーダンスは世界最古の踊りとも言われており、もともと古代エジプトが発祥だそうで、紀元前5世紀のエジプトの壁画にはベリーダンスを踊る女性が描かれている。かつて巫女が女性崇拝のために踊ったものだそうで、ジプシーたちがこれを世界各国に広めていった。スペインのフラメンコも、ルーツはベリーダンスにあるらしい。
というワケで食レポ
さっそく実食させてもらおうという事で、アレックスにお任せ3品を見繕ってもらった。「タジン」「コシャリ」そして「コフタ」だ。

タジンとはアラビア語で「鍋」を意味する言葉だそうで、ラムとピーマンをトマトソースで煮込んだもの。ハラル料理は肉にしっかり火を入れるので、歯応えが強い一方で肉汁は少なく、どことなく保存食のような顔つきをしている。それゆえ胃にもたれる感じがなく、爽やかな辛味と程良く香ばしいラム肉がマッチアップし、どっしりとしたうま味が広がる。

続いてコシャリ。現地の言葉で「混ぜ合わす」という意味らしいが、その名の通り、ライスとパスタとショートマカロニとレンズ豆とヒヨコ豆を、スパイスの効いたトマトソースと混ぜ合わせて食べる。
日本人がエジプトに行くと大体思い出のトップ3は「ピラミッド」「スフィンクス」「コシャリ」になるらしいが、何となく分かる気がする。ノスタルジーを刺激するというか、たとえて言うと土曜日の昼にお母さんが冷蔵庫にあるもので作った謎料理みたいな、ライブ感あふれたアットホームな味わいだ。使われている材料からしてヘルシーなのは明白なのだが、不思議にジャンクなキャッチーさがある。要するに、うまい。

で、最後はコフタ。ペルシャ語の「捏ねる」を語源とする、牛ひき肉と野菜のグリルビーフである。ソースは2種類、ゴマベースのものと、ナスペーストのバーベキューソース。さっきからめちゃくちゃ失礼なことを書いているのは重々承知の上でさらに失礼を重ねていくが、超グレード高いマクドナルドみたいな味がする。
特にマスタードソース。肉だけでなく、付け合わせのフライドポテトのルックや揚げ方、塩感もすげえそれっぽい。でもポテトも肉質が良く、グレードが高い。筆者は元々ジャガイモ農家だったのでジャガイモについては一家言あるつもりだが、良いイモを使っている。

この3品で、カメラマンと筆者、育ち盛りの30代半ばが2人がかりで食べても「お腹いっぱい」のボリュームだった。ちなみにコシャリが2,250円、タジンが2,850円、コフタが3,150円だ。
衝撃のベリーダンスショー
実食を終えたのち、いよいよ本日の目玉であるベリーダンスショーだ。ショーが始まる19時半の少し前に再入店すると店内は満席大わらわ。客層としては30~40代が多いだろうか? 時間になると、特にアナウンスとかが入るでもなく、蛇使い御用達みたいなアラブ音楽が突如として流れ出し、ディズニープリンセス系の嘘みたいな美女がステージに颯爽と現れた。

感想だが、シンプルに凄かった。これほどアイソレート(分離)されたダンスを見たことがない。手指の一本一本が独立して動いているし、腰なんかそれ自体が意志を持った軟体生物みたいだ。曲線美というか螺旋美というか、徹尾なめらかでしなやかな、凄い技巧のムーブが延々と続く。90度のけぞってみせたり、重力を感じさせないスプリットを繰り出したり、体幹のすばらしいこと。

楽曲はどんどんアップテンポしていき、それに合わせてダンスもますます激しくなっていく。最後にかかっていたアラビアンドラムンベースみたいな曲がいい曲だったのでShazamしたところ、エジプトのアコーディオン奏者ハサン・アブード・エル・セウドの『シク・シャク・ショク』という曲だった。
これはベリーダンスショーでよく使われる超クラシックなキラーチューンらしくてリミックスとかも出ているらしい。パーカッションの抜けが非常に良いのでクラブユースとしてもイケるだろう。『シク・シャク・ショク』って言葉は特に意味がない造語らしく、そこもかなり気に入った。
楽しかったとしか言えない

ショーをたっぷり堪能したのち、店をあとにした。押し付けがましくないファミリアな暖かさと、気合い入りすぎてない特別感、そして目から耳から舌から味わうエキゾチカ。この体験はひとことでいって楽しい。
家族とか友達とかパートナーとかとにかく気心の知れた面々と行って、「うおー笑」と言いながら盛り上がってほしい。
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