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2024年2月、障がい者と風俗店を結ぶマッチングサイト「ハーモニーリンク」が公開された。主に男性障がい者の射精介助や性介助を行える店舗を調査し、掲載している。
同サービスを運営するDELICIOUSは、飲食店・一般企業のウェブサイトや動画の制作を主な事業にしており、これまで障がい者や性風俗産業には関わりがなかった。一体なぜ特殊なポータルサイトを制作することになったのか、代表の大山圭太に聞いた。
介護をする側の人を助けたい
ハーモニーリンクは、大山が長年ITに携わる中で感じていた「社会で困っている人をITの力で助けたい」という思いを形にした、完全自社発信のサービスである。数年前に、障がい者の性問題に取り組んでいる人のブログ記事を読み、自身の経験が重なったのがきっかけだったという。
母親が認知症を患い、近くに住む兄と姉が世話しているのを見て、母親だけでなく、介護をする側のストレスやプレッシャーも相当重いと実感した大山。しかし、家族なのだから親の世話するのが当然と思われがちで、気持ちを吐き出し、受け止めてくれる場所がないことも多い。
同サービスのためにリサーチをしていく中で、障がい者の介助は、食事、家事の手伝いだけでなく、母親や姉、父親が性処理をしているという話を聞き、「介護する周りの人を助けたい」という思いが募った。
障がい者自ら、もしくはヘルパーなどが風俗店にコンタクトして性サービスを受けている実態もあるようだが、障がい者とその家族が性の問題を十分に解決できているとは言い難いのが現状だ。
ハーモニーリンクは、設計に当たって、障がい者本人だけでなく支える家族にも配慮を行い、スマートフォンから安心してアクセスできるUI(ユーザーインターフェース)を重視。デリケートな性について、障がい者にとっても介助者にとっても助けになるような事業を目指している。
障がい者も当たり前に性欲はある
インタビュー中、大山が繰り返し説いたのは、「障がい者にも性欲はある」ということだ。ハーモニーリンクの公開は、そのことを多くの人に知ってほしいという側面が大きい。
障がい者といっても、身体障がい・精神障がい・知的障がいなどがあり、その中にもそれぞれに程度の差があって、ひとくくりにできるものではない。中には肌が敏感で、健常者と同じサービスをすると皮膚がすり切れてしまう人もいるという。
障がい者の性介助においてはする側も、される側も、こうした情報を互いに共有することが求められる。少なくとも店舗側は、そうした客側の事情を前提にしてサービスを提供する必要があるように思えるが、必ずしもそうはなっていないと大山は語る。ハーモニーリンクが目指しているのは、両者の溝を埋めることである。
4月5日時点で、ハーモニーリンクに登録しているのは、北海道・三重・愛知・静岡・岡山の9店舗。大山たちは全国の風俗店に参加を呼びかけているが、賛同する店舗はまだまだ少ないのが現状だ。
特に東京は、人口や風俗店の多さからも重要なエリアなので重点的に声かけをしているが、掲載にはなかなかつながらないそう。健常者の利用だけで利益が生まれるので、「対応しにくい障がい者を積極的に受け入れる必要性を感じていないのでは」と大山は推測している。
障がい者の性問題は国が取り組むべき
厚生労働省によると、日本にいる障がい者は、推計約1160万人に上る。身体障がい者は約436万人、知的障がい者は約109万人、精神障がい者は約614万人を数える。実に日本の人口の9.2%に達し、およそ10人に1人が何らかの障がいがあることになる。
大山は、障がい者の性問題は社会福祉として国が取り組むべきと訴える。ホームヘルパーと同じく、男性に射精介助をする「性介助士」制度を大山は想定しているが、現状において、国が主体となって風俗従事者を障がい者に派遣することは考えにくい。そこに至るまでは民間でサポートしなければならないだろう。
障がい者の性に関する問題は、取り立てて新しいわけではない。2012年から続くNHK Eテレの番組「バリバラ」は、障がい者の性の悩みをたびたび取り上げてきた。また、脳性まひや筋ジストロフィーなど重度の障がいを持つ男性に「射精介助」を行う「ホワイトハンズ」の活動や、障がい者の「性の介助」を描いた河合香織のノンフィクション書籍「セックスボランティア」(新潮社、2004年)などが話題になったこともある。
それでも、性にまつわる話題がタブーにされがちな日本において、障がい者の性問題が表面化することはまれで、浮かんでは忘れられていく。しかし、繰り返すが「障がい者にも性欲はある」。ゆえに、この社会課題が消え去ることはない。
ハーモニーリンクは現在掲載無料のサービスだが、ゆくゆくは手数料収入や介護事業を行う企業からのスポンサードなどを得て、ビジネスとして確立させたいと考えている。同サービスが需要に応え、持続することこそ、障がい者の性問題の社会的認知を高めることであり、「性介助士」制度が社会の俎上(そじょう)に載る礎を築くことになるのだ。
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