[title]
19世紀スペインを代表する画家、フランシスコ・デ・ゴヤ(1746〜1828年)の版画「戦争の惨禍」全点を公開する展覧会「真理はよみがえるだろうか:ゴヤ〈戦争の惨禍〉全場面」が、「国立西洋美術館」で2024年5月26日(日)まで開催されている。
ゴヤは、18世紀から19世紀にかけて活動したスペインの画家。代表作に「カルロス4世の家族」「裸のマハ」「着衣のマハ」などがある。版画も数多く制作しており、今回の展示では、版画集「戦争の惨禍」の全場面を公開する。
繰り返される暴挙や愚行について版画集から見つめ直す
「戦争の惨禍」は、1810〜20年頃に制作されたと考えられているが、ゴヤの存命中には公開されず、没後35年を経て1863年に80点からなる初版が出版された。同館は1993年度にその初版を収蔵し、2017年度には、初版には含まれなかった2点の作品も収蔵。しかし、半数近い37点はこれまでに展示したことがなかったという。本展示が、初めて連作全点と連作外の2点を合わせた計82点を紹介する機会となる。
「戦争の惨禍」で題材にしているのは、ナポレオンがスペインに侵攻、樹立した王政と、フランスに反発するスペインとの間で、1808〜14年に展開されたスペイン独立戦争だ。スペイン人とフランス人、あるいは親仏派と反仏派のスペイン人とで繰り広げられた戦いの光景や飢餓、苦しむ民衆の姿、そして政治風刺を描きながらも、フランス対スペインという図式を超え、戦争という非常事態に生み出されるさまざまな暴挙や愚行を暴き出している。
なお、本展示のタイトルは、80番目の作品「彼女はよみがえるだろうか」からとったのであろう。この「彼女」とは、79番目の「真理は死んだ」で描かれる「真理」を指すものだからだ。聴覚を失い、戦争に翻弄(ほんろう)されるゴヤの、失望と期待がない交ぜになった胸中を示唆するとともに、現在の私たちが向き合うロシアのウクライナ侵攻をはじめとした諸問題もほうふつさせる。
さらに、この作品を同館が収蔵する前年の1992年には、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争が勃発している。あるいは購入当時の学芸員も、本展示と同様の同時代の問題をゴヤの作品に重ねて見ていたかもしれない。その意味で、ゴヤの作品に描かれている出来事はアクチュアルな問題であるだけではなく、ずっと繰り返されてきた出来事だということをも思い知らされるのだ。
もちろん、そうした問題を考えずに作品をただ楽しんでみるのもいいだろう。国内で全場面を所蔵する美術館はほとんどないのだから。
関連記事
『国立西洋美術館でパレスチナ人虐殺反対のパフォーマンス、警察による介入も』
『都内5つの美術館・博物館で入館料が無料になる「Welcome Youth」が今年も実施』
『坂倉建築研究所デザインの新綱島駅直結の商業施設「SHINSUI」が誕生』
『「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024」が開幕、5の見どころを紹介』
東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら