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「読書の時間」は日常生活では意外なほど手に入れにくい。フヅクエ(fuzukue)は何にも邪魔されずに思う存分読書を楽しむための、「静けさ」が手に入ることをコンセプトにした店だ。このたびフヅクエの西荻窪店が2021年6月15日にオープンした。2014年の初台への出店を皮切りに、西荻窪店は3店目となる。
店内では読書に集中できる環境を維持するため、読書以外の行為、例えば動画視聴や勉強などは行えない。その在り方は読書版の映画館と捉えてもらえばよいだろう。
読書に集中するための配慮として、コーヒー1杯のような少額のオーダーで長居しても気兼ねなく過ごせるよう、同店は変動席料制を導入している。長時間滞在の場合には注文金額に応じて席料が減少し、4時間を超えない限りは合計で最低2,000円ほどの利用料になる形だ。そうすることで、とことん読書に専念できる環境を確保できる。そのほかにも、1時間程度の短時間のみ利用できるプランもある。ユニークな料金体系なので、必ず事前に公式ウェブサイトを確認してほしい。
「読書に集中する空間」は店だけでなく、客を含めた皆で作り上げているため、店内ではいくつかの気を配るべき項目がある。そうした点も記載されているので一読し、より充実した読書時間を過ごしてみよう。
場所は西荻窪駅から上井草方面に抜ける北銀座通りを12分ほど歩いた、静かなマンションの中にある。駅前の喧騒(けんそう)から離れた、本とじっくり向き合うには「ちょうどよい」ところに店を構えているのだ。
西荻窪の店舗を運営する酒井正太はフヅクエを誕生させた阿久津隆の著書、『本の読める場所を求めて』に感銘を受け、「読書する空間」であるフヅクエに携わろうと志した人物だ。同店のインテリアは酒井のこだわりが大きく反映された、心地よい空間が展開されている。
家具が醸し出すインテリアの雰囲気は、温かみのあるシンプルな造形の落ち着いた印象。設計には、解体された古民家の部材に新しい価値を見いだす古材と古道具の店、リビルディングセンタージャパンが関わっており、古材を用いた趣のある床板は、その思想が発揮された意匠である。
昭和の頃によく見かけた、さまざまな模様の型板ガラスがはめ込まれた窓枠は見ているだけで楽しい。酒井自ら集めた特徴的な照明器具も、空間の良いアクセントだ。
窓際には3人掛けと1人掛けのソファがそれぞれ配置してある。店の中ほどには、ゆったりとした個人用ソファが備え付けられたカウンター席、そして店の奥のくぼみには隠れた『籠もり席』も用意。店の奥へ行くにつれて、他人との距離感が近い開放的な空間から、自分だけの空間へと変化していくレイアウトになっている。
読書の供として、飲み物や食事も用意している。メニューはかなり充実しており、酒はビール、ウイスキー、カクテル、ラムなど多種多様な種類を取りそろえる。なかでもラムには要注目。近所にあるバー ラムヘッド(Bar rumhead)がセレクトしたとっておきのメニューが並んでおり、ロン サカパを用いた『とってもおいしいキューバリブレ』は、酒井おすすめの酒だ。そのほか、芸術家に愛されたペルノなど薬草系の酒も並ぶ。
同店はコーヒーにもこだわっている。深入りのオリジナルコーヒーブレンド『フヅクエ時間ブレンド』はイートインだけでなく、豆でも購入できる。
食事はケーキのような軽食から、『おみそ汁の定食』といったしっかり食べられるものまで幅広い。おすすめは『スパイスカレー』だ。カルダモンの爽快さが特徴的な味付けが楽しめる。また、同店の飲食物は手作りのものが多い。レシピから調理までこだわり抜いて作られている逸品ぞろいだ。
本を読むための至れり尽くせりがそろった、本を読める店フヅクエ 西荻窪店。騒がしい日常から抜け出し、自分だけのリラックスタイムに入り浸ってみては。
テキスト:大橋洋介
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