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演劇型マーケット「おかしなおかね」に出店してきた

コムアイと村田実莉によるHype Free Waterの注目企画を山塚りきまるがレポート

Rikimaru Yamatsuka
テキスト:
Rikimaru Yamatsuka
作家
おかしなおかね
Photo: daiki tateyama
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10月19日・20日にかけて新宿・歌舞伎町の王城ビルにて行われた、HYPE FREE WATERが主催する演劇型マーケット“おかしなおかね”に行ってきた。というか、出店で参加した。

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

すげえ簡単に説明すると、入場料をオリジナル紙幣“ぺ〜ら”に換金し、ソレを使って遊ぶフリーマーケット的な感じだ。入場時にもらえる紙幣の量はランダムで、なおかつ大きいのとか小さいのとか箔押ししてあるゴージャスなやつとか色んな種類があるのだが、どれが低額でどれが高額かといった細かいルールは定められておらず、客や出店者はノリや相場に則ってぺ~らを使用することになる。ぺ〜らはあげても捨てても拾ってもいいし、破っても交換してもデコってもいい。価値は自分で決めていいのだ。

お金で遊ぶイヴェント

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

なるほどわからん、と唸る方も大勢あるだろうが、僕もさっぱり解らなかった。最初オファーが来たときも『何それ?』って感じだったし、ヴィデオ・ミーティングをやってもさっぱり解らなかった。当日やってみてようやく理解したのである。これは、まさに読んで字のごとく『お金で遊ぶ』イヴェントだったのだ。

初日から偽札やデコ札が横行してるわ、両替所もインチキしてるわ、お金を作るワークショップがプログラムに盛り込まれているわ、参加者たちはまるで食べ物で遊ぶ幼稚園児のように、ホビー感覚でお金を取り扱った。しかも、それでいて平和だった。監視システムもなければ、不正を取り締まるポリスもいないのに、全てがシッチャカメッチャカのままで不思議と調和していた。昔のギャグ漫画のような、ハードコア・ピースなカオスである。そのピースなカオスは、資本主義をおちょくる一種のパロディであると同時に、“お金ってなんだ?”という素朴かつ強烈な疑問をわれわれの目の前に突きつけた。

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

それはまるで社会実験の被験者になったような気分で、たとえば来場者数が増える→ぺ~らの流通量が増える→レートが変わり、インフレが起きる。といった、言葉にしてしまえばごく当たり前に思える現象を、じっさいにリアルタイムで感じるというのは非常に得難い経験だった。街とは、そして経済とは生き物なのだ。たった二日間でこれだけのことが起きるのだから、もし一週間とか、一ヶ月とかやったら、社会経済学の論文のひとつやふたつはこしらえられるだろう。

けっこう気合い入ったアンチ・バビロン

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

ロケーションも抜群に面白いし、非日常的だ。歌舞伎町のど真ん中で異彩を放ちまくる王城ビルは、ひとことでいって“カッコいい廃墟”という感じなのだが、そんな場所に段ボールで出来た怪しげな店や出し物が乱立しているのだから、さながら学祭ノリの闇市といった風情だ。虚実皮膜、ウソと現実の境目にあるようなデタラメでいい加減なその世界観は、なんだかダウナーに居心地が良かった。端的にバビロンとは人間から素直さを奪うシステムであり、それはわれわれにあらゆることを諦めさせ、独立や自由、運命さえも投げ出させてしまうのだが、“おかしなおかね”はけっこう気合い入ったアンチ・バビロンだったと思う。

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

私事だが

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

で、僕は何をやったのかというと、紙芝居そしてテキスト・ジョッキーである。僕はペガサス団という紙芝居クルーを主宰しており、これは楽器隊の即興演奏とともにセッション形式で紙芝居を行うものなのだが、今回初めてピンでやったのである。ほいでテキスト・ジョッキーとはすげえ簡単にいうと“写真で一言”の長文版だ。お客に好きな写真をairdropで投げてもらい、その写真に即興でウソの解説や出まかせのストーリーを10分そこらでデッチ上げるのである。こうして説明しても何が何やらだと思うが、まぁとにかく紙芝居/テキストジョッキーともに結果は上々で、最後の表彰式では“ぺ〜らを最も集めた者”として認定され、段ボール製の表彰状まで賜った。この表彰式もまぁ随分いい加減で、実際僕より稼いだ出店者は全然いると思うが、とはいえ幾つになっても表彰されるというのはやはり嬉しいものだ。

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

妙な人たちが変なことをしていた

まぁそんな感じで小忙しくしていたので、とても全ての店舗を見て回ったりはできなかったのだが、印象に残った出店やパフォーマンスについていくつか書いてみる。

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

まず園芸部(ファイトクラブ)。名前からして相当異様だが、出し物もかなり異様で、『ヘッドギアから脳波を拾って音に変換する機械(?)』とか『観葉植物にセンサーを取り付けて波形を分析するシステム(??)』とかあった。極め付けは店長(?)のkoki氏がやっていた『パンチ占い(???)』で、これはキックボクサーの顔を持つkoki氏が、お客の繰り出すストレートパンチをミットで受け、そのパンチの具合で占いをするというものだった。まぁ完全にインチキで、koki氏は占いなど生まれてこの方やった事がないそうだが、実際にやってみると妙な説得力があった。曰く『パンチには人格が現れる』そうで、まぁ考えてみれば楽器演奏にプレイヤーの人間性が現れるように、一発のパンチに人となりが透けて見えるというのもない話ではないのかもしれない。

それからUltCore。ここはスマブラに勝ったら、シルクスクリーンでプリントしたオリジナルスウェットを進呈するという業務形態をとっており、成程考えたものだと思ったが、店長のフミヤ氏がまぁ強い。僕は7〜8ゲームはやったが、一回も勝てないどころか、一機さえ減らすこともできなかった。二日間でたったの一回しか負けなかったそうだが、その一回はOKAMOTO’Sのヴォーカル・ショウ氏(ショウ氏は二日目に出店していた)の実弟ハミー氏だったという。

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

ぼく脳氏は、2階に上がってすぐの地べたに色々商品を展開していたが、“ニセの偽札”として本物の1000円札を出していたのは流石だと思った。ぼく脳氏の発想はいつも『その手があったか!!』と唸らされる。ほかにも『王城ビルで一時間だけ王様になれる王冠』とかも出していて、センスいいなーと思った。

ギャル電氏の“情報屋”もおもしろかった。電子工学の著書をいくつか出していて、テック系の話題に鬼強いということだったんで、AIの進化が映画業界に今後どういった影響を与えるかというのを聞いてみたのだが、AIの倫理観に着眼した話の内容も実におもしろかったし、何より単純に話がうまかった。ものすごく頭の回転が早い人で、理路整然とした言葉がポンポンと淀みなく出てきた。ぺ〜らのレートの変化を種類ごとに調査し、看板にしたためていたのもこの人で、そういう楽しみ方もあるのかとスゴク感心した。

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

僕の隣のブースだったカコマキ氏にはシンプルにめちゃくちゃ世話になった。紙芝居も見てくれたし、宣伝もしてくれたし、僕のしょうもない愚痴(腰痛いとか腹減ったとか)も無視せずに相手してくれた。人柄のいい人というのはやはりいい仕事をするもので、カコ氏の“チョコレート似顔絵”はマジでずっっっと繁盛してた。アンパンマンやらドラえもんなんかのキャラの顔面を模したチョコレートがあるだろう、アレみたいな感じで3Dの似顔絵を描くのである。これはとても良かった。

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

あとはナンチャッテ賭博場もあったし、VRもあったし、古着屋もあったし、賽銭箱もあったし、飲み屋的なのもあったし、ヘナタトゥー屋的なのもあったし、会場内BGMを選曲できるジュークボックス的なヤツもあったし、なんかもうとにかく色々あった。財布の前でマイクをくわえたまましゃがみこみ、『財布からぺ〜らを取った人 ぺ~らを入れた人 私に話していいです。私は話せません』という看板を立てていた女性がいたが、こういうパフォーミング・アートもありかぁ、と思った。とにかく、妙な人たちがずっと変なことをしていて、ものすごく不思議な空間だった。そしてその中に身を置くのは、楽しいとか面白いというより、嬉しかった。僕は二日間、まるっと嬉しかった。

新宿歌舞伎町のLes ANARCHO

おかしなおかね
Photo: daiki tateyama

いま振り返ってみるに、あのとき、あの場所ではアナーキズムが達成されていたと思う。それはイヴェント終了とともに消えた砂上の楼閣かもしれないけれど、でも、確かに存在したのだ。アナーキーとは“支配するもののない”というギリシア語が由来だ。僕は、『ルール破ってもマナーは守るぜ』という甲本ヒロト氏の言葉を思いだしていた。

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