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アメリカ近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)の展覧会「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」展が、東京・汐留の「パナソニック汐留美術館」で開幕した。
ニューヨークの「グッゲンハイム美術館」やペンシルベニア州の「カウフマン邸(落水荘)」など、手がけた建築群が世界遺産になり、92年の生涯で1000を超えるプロジェクトと500以上の設計を実現した、偉大なる建築家の四半世紀ぶりの大規模国内展だ。
アメリカ・コロンビア大学の「エイヴリー建築美術図書館」が進めている、5万点を超えるアーカイブ資料の最新の研究成果をもとに、米フランク・ロイド・ライト財団の協力も得て日米共同でキュレーション。7つのセクションと41のストーリーで、ライトの人生と世界の建築デザインに遺した功績をひもといている。
日本の風景や浮世絵に影響を受けた精緻で華麗な建築図面
セクション1「モダン誕生 シカゴ─東京、浮世絵的世界観」では、建築家としてのキャリア初期のライトと、当時の日本との関わりに注目する。20代半ばにシカゴの建築事務所で働き始め、1893年に「シカゴ万国博覧会」で初めて日本の文化に触れた。時はジャポニズムの時代であり日本の浮世絵に魅了されたライトは、1905年に初来日。翌年には自ら買い付けた浮世絵で展覧会を企画し「シカゴ美術館」で開催したほど、熱烈な浮世絵コレクター兼ディーラーとなり、生涯にわたって日本文化やデザインに触発されていたという。
さらには、日本で見た風景や浮世絵の構図なども参考に、風景画のようなまったく新しい建築図面を考案した。それまで建物のみで構成されるのが主流だった図面に、庭の植物や周辺のランドスケープまでも精緻(せいち)に描き込んだ。多数の貴重な肉筆図面の数々が本展の見どころの一つと言えるが、ライトが愛好した歌川広重などの浮世絵と図面のデザインやレイアウトを見比べ、共通点などを探してみるのも興味深い。
洋の東西を融合させた総合芸術の空間「二代目帝国ホテル」
ライトは1913年以降、片道1か月もかかる船旅で7度も来日し、延べ3年にわたって日本に滞在。16のプロジェクトを手がけ、8件が実現した。兵庫県芦屋市にある「山邑邸(現ヨドコウ迎賓館)」など4件が現存しているが、「帝国ホテル二代目本館(現存は博物館明治村に一部移築保存)」はその生涯の中でも最大規模の建築だった。
本展の主軸とも言える、セクション4「交差する世界に建つ帝国ホテル」では、建物の全容がわかる模型のレプリカを3Dプリンターで復元展示している。また、ライトがデザインしたホテルの椅子やテーブル、食器、テラコッタの装飾ブロックや照明が、多数の写真など当時の資料群とともに紹介されている。
帝国ホテル二代目本館は、落成披露の当日に関東大震災が起きたことでも有名だが、日本の寺院建築やメソアメリカなどの階段型ピラミッドをヒントに、洋の東西を融合させたデザインで、総合芸術としての空間を初めて日本にもたらした。ライトの存在と二代目帝国ホテルが、後進の日本人建築家たちに多大なる影響を与えたのは言うまでもないだろう。
教育へのまなざしや女性らとの協業に見える「ライトの先進性」
進歩的な教育理論を実践した叔母をはじめ、家族にも教育者が多いライトだが、自身も建築教育の拠点「タリアセン・フェローシップ」を立ち上げたり、愛弟子だった日本人建築家の遠藤新と東京・池袋に「自由学園」を設計したりと、「教育こそ民主主義の基本」と考えていた。
また、当時はまだ珍しかった女性建築士マリオン・マホニー(Marion Mahony Griffin)が、ライトの事務所でシニアデザイナーを務めていたり、幼稚園の設計を依頼した女性の施主がいたりと、先進的な思想や感覚を持ち合わせていたことも紹介している。だからこそ、今日まで語られ続け、世界遺産にまでなった建築やデザインを、数多く生み出していけたのかもしれない。
ライト建築を体感できる「ユーソニアン住宅」の原寸モデルも
数々の貴重な資料が並んだボリュームたっぷりの展示空間の中でも、ひときわ目を引くのが「ユーソニアン住宅」の原寸モデルだ。ユーソニアン住宅とは、ライトが1930年代後半から取り組んだ、一般的なアメリカ国民が住める、安価で美しいデザインの住宅。本展では、ライトが建築教育の実践の場としたタリアセンでかつて学んだ経験を持つ建築家・構造技術者の磯矢亮介が、静岡県伊豆産のスギの赤身材を使用して製作している。ソファや椅子に実際に座って撮影もできるので、ぜひ体感してほしい。
「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」展の会期は、2024年1月11日(木)〜3月10日(日)。前期は1月11日(木)〜2月13日(火)、後期は2月15日(木)〜3月10日(日)で、会期中は一部展示替えがある。
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