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洪水で店舗が水没し、暴風雨で家が失われるような「大都市水没」が起きるかもしれないという予測は誰もが聞いたことがあるはずだ。気候変動危機は悪化の一途をたどっており、建築家や都市プランナーは今後数十年で、都市設計の方法を全面的に見直す必要もあるだろう。
全く新しい都市が必要になるかもしれないと考える人もいる。その多くがインスピレーションを求めるのが海だ。例えばデンマークのスター建築家、ビャルケ・インゲルスは、『Oceanix City』という水上浮遊都市コンセプトを考案。率直に言ってばかげているように見えるが、この巨大な六角形の津波に強い都市は、海底に停泊され、熱、電力、水を自給することが可能。浮いているため、周囲の環境の変化に合わせて動くことができる。
アムステルダム、マイアミ、ベネチアなどの沿岸都市が直面している大きな問題は、状況が悪化した場合、気候危機を乗り切るためには、これまでの街の構造そのものを変えなければならないということ。しかもその変化は「常に」求められる。ただそれを実行しようと思うと、市民は大混乱に陥り、多くの遺産や歴史も失う。だからこそ、インゲルスのような起業家精神にあふれた人物が、水上の都市を商機ととらえて、プロジェクトに参画しているのはよく分かる。
『Oceanix City』は想定人口が1万人で、世界のどの大陸にも付け加えることができる仮想コンセプトだが、インゲルスはマレーシアのペナン島沖に、持続可能性と生物多様性を実現する都市を建設するという実際のプロジェクトも手がけている。
その名は『BiodiverCity』。3つの人工島で構成された広大な敷地には、1万8000人もの住民の受け入れが可能だ。建物は全て組み立て式か現地生産で、自動車は一切禁止され、エリア内の移動は自動運転式の公共交通でまかなえるという。
こうした計画には、大都市に住む人々のほんの一部しか住めないという明確な落とし穴があるようにも思える。しかし専門家たちは、気候変動危機による影響を軽減する方法として、水上浮遊都市を楽観視している。
アムステルダムを拠点とするNLÉ社を経営する建築家のクンレ・アデイェミも水上のクリエーションに積極的だ。学校やコンサートホールなど、水位の上昇に合わせて動く浮体式建物を、すでにいくつか作った経験を持つ。
「水を利用することは、将来の都市にとって大きな課題となるでしょう。水の豊富さと不足の問題は、特にアフリカではすでに建築的実践が行われています」とアデイェミは述べている。
しかし、アデイェミにとって、今の状況はただ暗いばかりではないようだ。彼は、これを「水と陸と人間の関係」を強化するチャンスだと考えている。浮遊都市は単に、課題や出遅れた感がありながら進められている気候変動対策の一つというわけではないのだ。私たちと地球との距離を縮めてくれるものになるかもしれない。
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