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東京・白金台の「東京都庭園美術館」で、今年も年に一度の建物公開展がスタートした。開館40周年という節目を迎える2023年は「邸宅の記憶」がテーマ。ここで暮らしていた朝香宮家の人々に焦点を当て、宮邸時代の家具や調度品を用いた邸宅空間の再現展示や当時の写真、映像資料、衣装などが展示されている。
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アールデコ様式が取り入れられた建築の魅力
本館は、1933年に朝香宮家の本邸として竣工。1920~30年代、欧米を中心に世界中で流行したアールデコ様式が至る所に取り入れられた建築は、宮内省内匠寮が設計し、主要な部屋の内装をフランスの室内装飾家アンリ・ラパンが担当した。さらにアールデコ期を代表する作家、ルネ・ラリックやレイモン・シュブらの作品も採用された。
非常に良好な保存状態のまま、当時の世界観を現在に伝えていることから、2015年には国の重要文化財に指定されている。
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建物公開展は、桜と新緑が美しいこの季節に開催。展示資料や室内装飾の保護のため閉められている窓のカーテンが開け放たれ、時間や天候によって表情を変える室内空間の写真撮影が可能になる(フラッシュの使用や動画の撮影は禁止)。各部屋には、宮邸時代の様子を伝えるモノクロ写真とともに、実際に使用されていた家具や美術品、調度品が置かれ、当時の日常を垣間見るかのような鑑賞体験が楽しめる。
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4年ぶりにウインターガーデンが公開、新たな試みも
用途や使う人に合わせた室内は、一部屋ごとにすみずみまで見どころがつきない。照明や床の木材、タイル、扉、ラジエーターレジスター(暖房器器用カバー)など、細部まで堪能してほしい。通常非公開の3階「ウインターガーデン」は、2019年の建物公開展以来、4年ぶりに公開されている。
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本展の新たな試みとして、特徴的な壁面やタイルの素材やディテールを、実際に手で触れて鑑賞できるコーナーが登場。多言語・点字表記の解説資料も備えられ、「広く多くの方に少しでも豊かな鑑賞体験を提供したい」という美術館の意図を感じた。
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朝香宮家の華麗な交流を貴重な品々から知る
本館と渡り廊下でつながる新館では、修復後初公開となったワードローブや着物などの所蔵品に加え、国内各地に所蔵されている工芸や調度など、精巧で極めて美術価値の高い、貴重な品々があわせて展示されている。
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特別出品された「ボンボニエール」は、過去最大規模となる200点以上が並ぶ。元々はヨーロッパで用いられた手のひらサイズの小さな菓子の器だが、日本では明治以降、彫金や彫刻、漆芸など、日本の伝統技術を駆使した皇室独自の文化として発展。今日まで御慶事を記念した引き出物として継承されているのだ。
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ツルやカメ、ウサギなどの動物や、松竹梅などの植物、雅楽に用いられる鼉太鼓(だだいこ)や琴、戦時下を思わせる戦闘機まで、多種多様なモチーフのをじっくり鑑賞したくなるだろう。
会期中だけの特別メニューなど用意
新館にあるミュージアムショップでは、金平糖専門店の「銀座緑寿庵清水」のボンボニエールや、久邇宮朝融王(くにのみやあさあきらおう)が創作された、宮家御用達の「久邇香水(くにこうすい)」が購入できるほか、敷地内のレストランで限定コース、新館のカフェでも特別メニューを提供している。
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東京都庭園美術館の40周年を記念した特設ページでは、本館第1階段の意匠をモチーフにした記念ロゴや、これまでの歩みが紹介されているほか、プロジェクションマッピング「FUTURE ART TOKYO2023」などのイベントの開催告知が行われる。
明治から守り受け継がれてきた貴重な邸宅の美術館のこれからが、ますます見逃せない。「建物公開2023 邸宅の記憶」の会期は2023年6月4日(日)まで。
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