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本気で遊ぶレコードショップ「ELLA WAREHOUSE」が下北沢に開店

12インチ特化110円から、新たな実験を通しオーナーが得た発見とは

テキスト:
Nozomi Takagi
ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
Photo: Kisa Toyoshima
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2022年11月5日、下北沢に新たなレコードショップ「ELLA WAREHOUSE」が誕生した。「レコードで遊ぶ」をコンセプトに、12インチシングルレコードを1万枚以上揃えた同店。シンプルな料金体系からも、DJをはじめ多くのレコード好きに注目されている。 今回、運営元であるCARASCOの代表取締役・葛原繁喜に、同店をオープンするに至った経緯と狙いについて話を聞いた。

ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
Photo: Kisa Toyoshima

若いDJたちが集まる「12インチシングル」特化の店舗

2016年から幡ヶ谷のビンテージレコードショップ「ELLA RECORDS」を経営するCARASCO。今年11月に新たにオープンしたELLA WAREHOUSEは、同社の社員に加えて、現役でDJとして活動するスタッフたちが運営に携わっている。

小田急線・京王井の頭線の下北沢駅から徒歩1分という好立地。古着屋の複合施設「東洋百貨店」横の外階段を最上階まで上るとELLA WAREHOUSEの入り口にたどり着く。本店をオープンするに至ったきっかけについて、葛原は次のように語った。

ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
Photo: Kisa Toyoshima

葛原:もともとこの場所で、2018年から「ELLA RECORDS 下北沢店」を経営していたのですが、コロナ禍が原因で一度お店を閉めていて、しばらくは事務所として使っていました。2022年、やっと人が街に戻り始めたのでリスタートすることにしたんです。

ただ、単純にELLA RECORDSのコピーを作っても意味がない。そこで、都内でもまだ存在しない「12インチシングル」に特化した、低価格帯の店舗にチャレンジしてみようと思いました。

12インチシングルは、両面合わせて2〜3曲程度しか収録されていない。それでいてレコード棚の場所を取るからこそ「大型のレコードショップへ行ってもコーナーが閑散としていることが多い」と葛原は語る。購買層の像が読めなかったが、あえて絞り込むことで新たなターゲットが見えてくることに期待したという。

葛原:僕らが見えないところに層があるかもしれない、という実験の意味合いもありました。正直、お店を開けるまでは「そもそもお客さんが来るのか」すら分からなくて(笑)。ただ、確実に「お金をあまり使いたくない人」はいると思ったんです。だから価格の手頃さは担保しながらも、誰もやっていないことに挑戦してみよう、と。

ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
Photo: Kisa Toyoshima

その結果、幡ヶ谷のELLA RECORDSには広い世代のレコード初心者やライトな層、訪日外国人観光客が訪れることが多いのに対し、ELLA WAREHOUSEでは若いDJが中心となって集まるようになりました。

初心者は12インチに手を出しにくいからこそ、ライト層は少ないかも……と予想はしていたんです。でも、幡ヶ谷の客層よりも若い世代が多いというのは、我々も想定外でした。

店側が客をコントロールしない柔軟さを意識する

店舗の営業日は毎週金〜日曜日の13〜20時。当初は月〜火曜日定休の週5日営業を行っていたが、「営業日を限定した方が店頭に並ぶレコードの品揃えをガラッと変えられる」ことから、途中で営業形態を変更したという。

開店して2カ月弱が経過した現在。オープン前に店舗の前で並んで待つ人の姿もあれば、仕事帰りに立ち寄る会社員の姿もあるという。2〜3時間程度は店舗に滞在し、じっくりと試聴をしながらレコードを吟味する客が多い。

ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
店舗はキャッシュレス対応をしており、クレジットカードとICカード各種が利用できる(Photo: Kisa Toyoshima)

価格帯はいたってシンプルで、A(1,100円)、B(550円)、C(110円)の3種類。全価格帯のレコードを試聴することができる。

葛原:12インチシングルは、DJにとっても「使える絵の具」を増やす感覚で手に取れる存在だと思っています。今はサブスクリプションサービスの普及も相まって「シングル単曲だけを楽しむ」聴き方も浸透している。だからこそ、より受け入れられやすい土壌は整っていると思います。 ただその面白さに気付いてもらうためには、金額的なハードルを下げ、実行しやすくすることが重要。そして「これだけ買ってたったの1,500円なんて」という瞬間を味わってもらいたいんです。

価格設定については「わざと価格にエラーが生じるようにしている」と葛原。下北沢というレコードショップの密集する地域での出店だからこそ「2,000円以上の価値があるレコードを、あえて1,100円で出すこともある」という。

葛原:「価格帯をもう一段上げて2,000円台のレコードも置こう」みたいな案も出たんです。でも、2,000円以上のレコードはほかの店舗でも購入できます。だから潔く、高いレコードは置かないようにしました。

その上で、例えばほかの店舗に行けば2,000円で売られているものが、我々の恣意(しい)的なバグでELLA WAREHOUSEの店頭に500円で並んでいたら、夢があるじゃないですか。そうやって「行ったら必ず1枚は良いレコードが買えるかも」と期待させるようなお店にしていきたいです。

またレコードのジャンル分類にも、スタッフたちによる「恣意的なバグ」を起こすための余白を用意している。

ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
Photo: Kisa Toyoshima

店頭には、サブスクリプションで音源を探しにくい1980〜1990年代のハウス、テクノ、R&B、ディスコ、ヒップホップ、ドラムンベースを中心に、1万点ほどのレコードが並ぶ。ほかのレコードショップと比べ、「ざっくり」とコーナー分けをしていることがELLA WAREHOUSEの特徴だ。

葛原:近年の若いDJは「ハウス」や「テクノ」などのジャンルを意識せず、ジャンルを横断して音楽を聴く傾向にあります。だからこそ、ヒップホップやR&Bは様式美もあるからこそジャンル分けを厳密にしなければいけませんが、それ以外のジャンルに関してはある程度アバウトに分けています。

従来のレコード屋では、お店側がジャンルやセレクトを提示し、お客さんをコントロールするのがスタンダードでした。しかしELLA WAREHOUSEでコントロールするのは内装と価格、そして「圧迫感のない環境づくり」だけ。最近のトレンドなどはお客さんに委ねることに徹することにしました。お店側が上から目線になり、曲の聞き方や買い方をオーガナイズしないように気をつけています。

1年間限定での「実験の場」を若いDJたちが作っていく

ジャンル分けや価格にゆとりを持たせながら営業を続ける本店。葛原は新たな実験を通し「お客さんに勉強させてもらっている」と語る。

葛原:「若い人の現場ではこういう聴き方をしているんだ」「今はこういう曲がトレンドなんだ」と、発見が多いです。若い人が集まるのは、価格の安さも要因ではあると思うのですが、現役の若いDJが中心となって運営していることも大きいかなと。

レコード屋を何十年も経験している私が「レコード屋とはこういうものだ」と定義し始めることからスタートしていたら、今のELLA WAREHOUSEにあるような自由さはなかったのでは、と感じます。

残念なことに、ELLA WAREHOUSEは1年間限定の店舗だ。「もったいないと思われるうちが華」だと笑う葛原。終着点をあらかじめ決める代わりに「1年間でさまざまな企画にチャレンジしたい」と語る。

ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
DJとして活動するスタッフたちの仕事量が増えないよう、レコードのシールに記載するのはジャンルと品番、価格ランクのみ。楽曲の解説などもあえて記載しない(Photo: Kisa Toyoshima)

葛原:先日はC(110円)のレコードを一律で10円にする「10円セール」を開催しました。予想以上に熱量があって、我々も楽しかったです。ただ恒久的な運営を意識し、お金もうけを追求し始めると、そういったチャレンジには踏み込めないんですよね。実験の場だからこそ「どうすればお客さんが喜んでくれるか」に意識を集中させ、機能していけたらと思うんです。

ダンスミュージックを扱うお店である以上、大事なのはお祭り感。「これをさすがに何年も続けられないよ!」と言われるようなサービスを続け、1年間は本気で楽しみ、燃え尽きた状態で終わろうと思います。

そして来年以降については……少なくとも若い子たちがダラっと集まり、レコードを好きなだけ試聴して帰るような空間をまた作っていきたいですね。

ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
Photo: Kisa Toyoshima

なお、12月28日(水)には、新着レコードが2001枚詰まったモノリスが店舗に出現するイベント「2001枚放出の旅」を開催するという。若いDJが中心でありながらも「レコードで遊ぶ」ことの楽しさが感じられる点では、初心者にも優しいように感じる。レコードショップが取り組む「本気の遊び」にぜひ「乗っかって」ほしい。

ELLA WAREHOUS エラ ウェアハウス
Photo: Hayato Watanabe

「2001枚放出の旅」
日時:12月28日(水)17〜21時(4時間限定)※年内最終営業日
場所:「ELLA WAREHOUSE
店内に新着レコード2001枚が詰まったモノリスが出現。来店した客は各々モノリスを解体して新着レコードを掘ることができる。

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