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ダンスカンパニーDAZZLEが魅了する期間限定のシアターを紹介

お台場に誕生した日本初の常設型イマーシブシアター

Photo: DAZZLE Venus of TOKYO 公演画像
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ダンスカンパニーのDAZZLEがプロデュースする、日本初の常設型イマーシブシアター、ヴィーナス オブ トーキョーVenus of TOKYO)が、お台場ヴィーナスフォートの一角に誕生した。イマーシブシアターとは、観客が演者と同じ作品空間に身を置き、自らの意思で移動しながら物語に参加するもの。果たしてどんな世界になっているのか? その模様をレポートする。

「すべてのカテゴリーに属し、属さない曖昧な眩さ」をスローガンに、ストリートダンスをもとにしたスタイリッシュな動きや美意識あふれるダークな世界観、言葉(文字や録音)を多用した物語などで独自の世界を展開するダンスカンパニーのDAZZLE。廃病院一棟をまるごと使った『Touch the Dark』(2017)を皮切りに、東京ワンピースタワーの全フロアを舞台にした『時の箱が開く時』(2018)、建物一棟を使用した『SHELTER』(2019)、京都南座での『サクラヒメ~『桜姫東文章』より~』(2020)と、継続して挑んできたのが、イマーシブシアターだ。

Photo: DAZZLE Venus of TOKYO 公演画像
Photo: DAZZLE Venus of TOKYO 公演画像

このコロナ禍で、演者と観客が入り交じるイマーシブシアターを実施するに当たり、DAZZLEが培ってきたノウハウは大いに生きている。もともとDAZZLEのイマーシブシアターでは、世界観を守るために観客に全身「黒い服」の着用を推奨するとともに黒いマスクを配っていた。キャストが実際にはしゃべらず録音の音声によるセリフやナレーションで進行するのも、観客が少人数の数グループに分かれてキャストの誘導に従って静かに移動するのも、従来通りである。

つまり、図らずともDAZZLEのイマーシブシアターは感染症対策にマッチしており、現実的な事情でDAZZLEの美学を曲げることなく今回の『Venus of TOKYO』を制作できたというわけだ。

さて『Venus of TOKYO』の舞台は、東京の秘密クラブ『VOID』。ここでミロのビーナス像の失われた左腕が出品されることになる。この左腕には、人間のさまざまな欲望をかなえる黄金のリンゴが握られていたと言い伝えられており、なんとそのリンゴも併せて出品されるのだ。観客もまた、会場に入る際、場内で通用する紙幣『1万VOID』を渡され、12人ずつのA~Eのグループに分けられた上でオークション会場に案内される。観客はこの1万VOIDで開演前にバーカウンターで飲み物を買うもよし、何度も本作に通ってお金をためてオークションに参加するもよし、とさまざまな楽しみ方ができる。

Photo: DAZZLE Venus of TOKYO 公演画像
Photo: DAZZLE Venus of TOKYO 公演画像

やがて、ベルが鳴って開演。白い衣装を着て能面を着けた主要登場人物が姿を現す。やがて面を取った彼らと黒衣のクラブスタッフらのダンスによるオープニングに続いて、観客は、出演者たちの案内でグループごとにクラブ内を見るよう促される。キッチン、VIPルーム、アトリエ、医務室などの各スペースを巡るうち、見えてくるのは、さまざまな思惑を抱いてオークションに集った人物たちがうごめく姿だ。富豪、盗賊、医師、写真家、鑑定士、奴隷として売られた少女、未来から来た女、贋作(がんさく)家……。

ひとしきり見て回ったところで、オークションがスタートする。いくつもの高額な品物が競り落とされ、クライマックスはビーナス像の左腕と黄金のリンゴだ。果たして、落札するのは誰なのか? と、ここで、ハプニングが勃発。リンゴが行方不明になり、オークションが中断し、観客は場内を自由に周ることを許される。

Photo: DAZZLE Venus of TOKYO 公演画像
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ここからは、同時多発的に登場人物たちが暗躍し始める。それをどこまで目撃できるかは観客次第。ピンとくる人物の後をつけるなり、気になるスペースに行ってみるなり、自由だ。ストーリーを追うという意味では、誰かに照準を絞るのがいいかもしれない。それでも全てを一度に見るのは不可能だが、キャストの行動を自分だけが見届ける瞬間もあるなど、その日その時だけの特別な体験が約束されている。開場時のビーナス像と、上演中のフォトスポットでのみ、写真を撮ることも可能だ。

Photo: DAZZLE Venus of TOKYO 公演画像
Photo: DAZZLE Venus of TOKYO 公演画像

なお、観客のA〜Eの各グループにはプレミアムチケットの観客が2人入っている。プレミアムチケットを購入した人だけが持つプレートをかざすことで見えるものがあり、そうして手に入れた情報から、結末を変えることができるのだという。それだけに、目の色を変えて何かを追い求める観客もいるが(そうした観客のおかげでいろいろなことが見えたりもする)、筆者のように何もわからないまま漫然と見ても楽しめるので安心してほしい。

本作にも出演しているDAZZLE代表の長谷川達也は、「DAZZLEのこれまでのイマーシブシアターは既存のスペースを使い、それに合わせて物語を作っていましたが、今回は居酒屋だったスペースを、ゼロからDAZZLEの世界に作り直しました」と語る。世界を舞台に活躍するクリエーティブスタジオ、Whateverのデジタル演出、avexの最先端サウンド制作チーム、Sound edgeによる多重音響空間、ブランド『DRESSEDUNDRESSED』による衣装、石草流いけばな家元後継の奥平清祥が会場内装花を担当するなど、各分野の一流クリエーターたちが集い、ハイセンスな空間が出来上がっている。その美しさの中で、人間のダークサイドが浮かび上がるのだ。

Photo: DAZZLE
Photo: DAZZLE

「劇場での舞台の場合、登場人物が袖にはけてしまえば、その人の人生は観客からは見えなくなります。でも、イマーシブシアターでは観客から常に追いかけられ、誰でも主役になり得る。それだけに、その人が何を目的にどこに行くかといった脚本も人数分作っています。ですからある意味、群像劇に近いんです」と語る長谷川。『Venus of TOKYO』はヴィーナスフォートが閉館する2022年3月まで、毎日3回上演されている。長谷川によれば、途中でのアップデートやイベント開催の可能性もあるとか。見え方が毎回異なる特別な群像劇を、ぜひ体感しよう。

ヴィーナス オブ トーキョーの詳細はこちら

 テキスト:高橋彩子

舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。『エル・ジャポン』『AERA』『ぴあ』『The Japan Times』や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン『ONTOMO』で聴覚面から舞台を紹介する『耳から“観る”舞台』、バレエ雑誌『SWAN MAGAZINE』で『バレエファンに贈る オペラ万華鏡』、バレエ専門ウェブメディア『バレエチャンネル』で『ステージ交差点』を連載中。

http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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