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2021年12月、渋谷で連日行列ができていた人気カフェ、コーヒーハウス ニシヤ(COFFEEHOUSE NISHIYA)のオーナーである西谷恭兵が突然の閉店を発表。その理由は地域に根ざした店を目指したはずが、行列によって連日近隣店に迷惑をかけてしまう、という相反する現実に疲弊したためであった。この繁盛店が抱えた苦悩と決断はネット上で瞬く間に拡散され、注目を浴びる。
そして、2022年2月17日に浅草でオープンした店は、規模をあえて小さくして屋号も変更。新天地で一から店を始める西谷は今何を思っているのか、どんな店なのか話を聞いた。
「トレンドの街」渋谷から「伝統の街」浅草へ
浅草駅から徒歩4分、通称「コトヨン(寿四丁目)」エリアにある淡いブルーの外観が目を引く店が、コーヒーカウンター ニシヤ(COFFEECOUNTER NISHIYA)だ。入り口の幅は狭いが奥に細長い形になっており、12人ほどが立てる一枚板のカウンターが奥まで延びている。店内には椅子がなく、その造りはまるでスタンディングバーのようだ。
カウンターの中では、バリスタの世界大会出場経験を持つ西谷が一人で接客からドリンクの制作、サーブまで行う。カプチーノなどのシンプルなメニューから、生クリームやリキュールを使ったアレンジコーヒーまで、多種類のコーヒーメニューが楽しめる。
同店も渋谷の店舗と同じく、地域に根ざしたイタリアンバールスタイルのカフェだ。「イタリアンバール」とは、エスプレッソで入れるコーヒーをメインで提供するカフェのことで、立ち飲みできるカウンター(バンコ)があるのが特徴である。
地域に密着した店を目指したのは、「幼少期からスナックを営む両親の背中を見ていたから」と西谷は話す。客が悩んでいると親身に相談に乗り、商店街を歩けば街中の人たちから声をかけられる。そんな両親が誇らしかった。
渋谷の店はフォトジェニックなプリンが評判となり、オープンの1年後には行列ができる店になった。しかしその行列が近隣店の迷惑になってしまい、頭を下げ続ける日々。店を閉じるのは苦渋の判断だった。
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しかし「地域や、一人一人の客を大切にしたい」という思いは変わらず、8年3カ月続いた店に幕を降ろし、その2カ月後新たなスタートを切った。「何代も続く老舗店や、職人がいる街でやりたかった」と、西谷は新天地に浅草を選んだ理由について話す。
「私が自分のスタイルを大事にしているので、伝統のある街の方が理解してもらえるのではないかと考えた」のだそう。実際にプレオープン中から近隣の人たちが数多く訪れ、歓迎する言葉や温かい声援をかけられているという。それだけでなく、すでにリピートしている客も少なくないのだとか。
居心地の良さが良質なコーヒーをさらにおいしく
トップクラスのバリスタである西谷が入れるコーヒーの味は格別だ。しかし、この店にリピート客が多い理由は、細やかな接客サービスによる「居心地の良さ」にある。例えば、冬の寒い日に店に入ってきて手をこすり合わせている客がいたら、オーダーを取るよりも先に湯を出し手を温めてもらう。常連客には、その人の好みに合わせてエスプレッソの味や温度、ミルクの泡の細かさを変える。
初来店で少し緊張気味の客が入ってきたら……。実はそんな時も、リラックスしてもらうためにあることをしているそうだ。それについては、実際に訪れた際に体験してみてほしい。
サービスに対するこだわりと、渋谷で月間3000杯ものコーヒーを入れてきた経験が、それぞれの客に合わせた最適なサービスを導き出している。
カウンターで楽しむイタリアの伝統的なコーヒーメニュー
メニュー内容は渋谷時代とほぼ変わらず、イタリアの伝統的なメニューを多数用意している。コーヒーの知識がなくても好みを伝えれば、おすすめを提案してくれるので安心してほしい。今回は中でもおすすめの3つのメニューを紹介する。
20代の頃、カフェのギャルソン(ウエイター)をしていた西谷が、コーヒーの世界に足を踏み入れるきっかけになったのが「カプチーノ」。泡立てられたミルクがきめ細かく、滑らかな口当たりが楽しめる。迷ったらまずこれ、という一杯だ。
西谷いわく、「イタリア式のアイスコーヒー」。シロップを加えたエスプレッソと氷を、マシンで撹拌(かくはん)して作る。グラスにコーヒーを注ぐ際の美しい所作にも注目してほしい。
「お店には行ってみたいけど、コーヒーは飲めない」という人には、こちらがおすすめ。ホットココアに似たチョコレートドリンクで、本場イタリアでも冬の時期はよく注文されるそう。
現在はドリンクのみを提供しているが、渋谷時代に提供していたプリンやサンドイッチなどのフードも順次登場予定だ(スタート時期は未定)。
新しい店を開拓するのもワクワクするが、なじみの店を持つと暮らしに張りが生まれ、安らげる場所にもなるだろう。浅草を訪れる機会があれば、小さなコーヒーカウンターで格別の一杯をぜひ味わってみてほしい。
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