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2024年の「カンヌ国際映画祭」の公式出品作が発表された。世界的な映画監督による新作がめじろ押しの期待が高まるラインアップだが、意外なセレクトや新発見が含まれているのも例年通りだ。
カンヌというと、ややマニアックな印象を持っているかもしれない。だが、近年は映画界全体への影響力を強めており、カンヌでプレミア上映された作品が翌春のアカデミー賞に選ばれることも多い。その一例は、今年のアカデミー賞をにぎわせた「関心領域」(監督:ジョナサン・グレイザー)や「落下の解剖学」(監督:ジュスティーヌ・トリエ)だ。前者はホロコーストを独自の視点で描き、後者は山を舞台にした複雑な殺人ミステリーである。
何と言っても、まだ世に出ていない作品の封切りには心をかき立てられるものだ。今回初公開される作品群が、各地の映画館にかかる数カ月後が待ち遠しい。ここでは、中でも注目の10作品を紹介しよう。
1. 『Kinds of Kindness』
すでに高い評価を得ているギリシャの映画監督、ヨルゴス・ランティモス。彼が名声にあぐらをかくことなく挑んだ新作は、難しい状況に置かれた登場人物たちが紡ぐ3つの物語によるアンソロジーだ。前作「哀れなるものたち」で組んだエマ・ストーン、ウィレム・デフォーと再タッグを組むほか、ジェシー・プレモンス、マーガレット・クアリー、「女王陛下のお気に入り」にも出演したジョー・アルウィンらが出演する。
2. 『The Shrouds』
鬼才デヴィッド・クローネンバーグの作品がカンヌでプレミア上映されるのは2022年以来で、今一つの出来だったSFホラー「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」ぶりだ。そのクローネンバーグが、人体を巡る不安に切り込むような作品を引っ下げて帰ってくるというのだから、期待は高まる。しかも、監督自身が「これまでの作品の中で最も私的な作品の部類」と言っているのだ。
妻を亡くし悲嘆に暮れる主人公を演じるのは、ヴァンサン・カッセル。物語は、彼が地中に埋められたデバイスを通じて、埋葬された死体と交信する能力を手に入れることから展開する。そのほか、ダイアン・クルーガー、ガイ・ピアースらが出演者に名を連ねる。
3. 『マッドマックス:フュリオサ』
今年のカンヌでは「マッドマックス」シリーズ最新作も上映される。スクリーン越しに吹きつける暴風に圧倒され、エネルギーを使い果たした観客が会場をよろよろと後にする……そんなことが起こるかもしれない。
過去10年間に公開されたアクション映画の中でも傑作と言える「怒りのデス・ロード」の続編を作るなど、並大抵のことではない。だがトレーラーを見る限り、この難問に対する監督ジョージ・ミラーの回答は、「もっと轟音(ごうおん)で、もっとクレイジーに、もっと目にも鮮やかに」ということになるようだ。
カンヌでは、同映画祭がいかにもフランス的な人物描写重視の作品の集積にとどまらないのだということを世界に知らしめるために、ハリウッド超大作が上映されることがままある。マッドマックス以上に、その役目にふさわしい映画はないだろう。
4. 『September Says』
ヨルゴス・ランティモスによる「アルプス」や「ロブスター」にも出演したフランス人女優アリアン・ラベドの監督デビュー作。俳優陣には「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」のラキー・タクラーと、未公開作品「クララとお日さま」に出演予定のミア・タリアを起用した。
原作は、2020年に出版され受賞歴もある、デイジー・ジョンソンによる小説「九月と七月の姉妹」。超自然的な絆で結ばれた二人姉妹の物語で、「ずっとお城で暮らしてる」などで知られるシャーリィ・ジャクスンの作品とも比較される。原作同様の出来栄えであれば、ヒット作となる可能性がありそうだ。
5. 『The Apprentice』
イランに生まれ現在はデンマークを拠点に活動するアリ・アッバシ。これまで「ボーダー 二つの世界」や「聖地には蜘蛛が巣を張る」などのスリリングな作品を世に送り出してきた彼だが、新作「The Apprentice」はドナルド・トランプを取り上げた期待作だ。
トランプ役には、マーベル映画で知られるセバスチャン・スタンを起用。長年トランプを傍で支えた老獪(ろうかい)な弁護士のロイ・コーン役には、ドラマシリーズ「メディア王 〜華麗なる一族〜」のジェレミー・ストロングを配した。内容は、公式発表によると「アメリカ帝国主義の暗部に切り込む」ものとなっており、若き日のトランプがコーンと交わした「悪魔的」な契約を検証しているという。
6. 『Bird』
癖の強さでは現在の映画界きっての2人、バリー・コーガンとフランツ・ロゴフスキのコラボレーションは宿命すら感じさせる。幸運なことに、アンドレア・アーノルドの監督のもと、イギリス南東部を舞台とする映画でこの2人の共演がかなった。アーノルドは2016年のカンヌで審査員賞を受賞した「アメリカン・ハニー」を手がけたことで知られる。
近作「ソルトバーン」で話題のコーガンは、家庭を顧みないシングルファーザーのバグ役を演じている。冒険好きな12歳の妹と兄の二人の子どもとともに、イギリス・ケントの不法占拠地帯で生活しているという設定だ。ロゴフスキの役柄についてはまだ明らかにされていないが、この作品は映画祭のハイライトとなるだろう。
7.『メガロポリス』
時代をさかのぼること45年、1979年のカンヌで最高賞のパルムドールを与えられた作品は「地獄の黙示録」だ。同作の製作は困難を極めていたが、この受賞により、作品自体も、フランシス・フォード・コッポラの監督生命も救われることになった。コッポラは、今年のカンヌでその再現を狙っているのだろうか。何しろ、40年間温めてきた叙事詩映画「メガロポリス」をいよいよ公開するというのだから。
出演はアダム・ドライバー、オーブリー・プラザ、シャイア・ラブーフ、ローレンス・フィッシュバーン、そしてダスティン・ホフマンといった顔ぶれだ。公式情報によると、内容は「自らの抱える社会問題を解決できない現代世界に、古代ローマの運命がこだまする」中で展開される「政治的野心、天才、危険な愛の織り成す壮大な叙事詩」になるそうだ。
巨匠は安易な道を選びはしなかった。彼が作る作品がまだ傑作かどうか、見届けねばなるまい。
8. 『パルテノペ』
代表作「グレート・ビューティ 追憶のローマ」をはじめ、洗練された作品で知られるイタリアの映画監督パオロ・ソレンティーノがカンヌに再び登場する。新作のタイトルとなっている「パルテノペ」とは、ギリシャ・ローマ神話に出てくる、美しい声で旅人を誘惑する海の怪物セイレーンの名だ。
物語は、1950年から現代にわたる1人の女性の人生を描く。監督によれば、同作は「女性の叙事詩であり、ヒロイズムとは無縁だが、自由への抗い難い情熱、ナポリの街、愛の諸側面を描いた」ものだという。出演はゲイリー・オールドマンと、「イタリア式離婚狂想曲」などで知られるベテランのステファニア・サンドレッリ。南イタリアの美しいカプリ島が舞台となる。
9. 『Ernest Cole: Lost and Found』
ドキュメンタリーもまた、カンヌで重要な位置を占めている。ジェームズ・ボールドウィンの未完成原稿をもとにした映画「私はあなたのニグロではない」は反響を呼んだが、同作を監督したハイチ出身のラウル・ペックによる新作が公開されるというのはビッグニュースだ。
作品は、アパルトヘイト下の南アフリカで、黒人の置かれた状況を伝えるために尽力した写真家のアーネスト・コールを追ったもの。コールの写真作品やルポルタージュ、母国からの国外追放後に渡ったアメリカでの亡命生活が掘り下げられる。同作品を通じ、ペックは「新しい世代へ重要な黒人アーティストを紹介する」ことを目指す。ナレーターにはラキース・スタンフィールドが起用されている。
10. 『On Becoming a Guinea Fowl』
ザンビア出身でイギリスを拠点とする映画監督、ルンガーノ・ニョニが初めて注目を集めたのは、2017年のマジックリアリズム的作品「I Am Not a Witch」だ。新作はBBC FilmとA24のバックアップを受けて製作されたものとのこと。内容はまだ一切明らかになっていないが、「ある視点」部門に出品される同作は、注目に値するだろう。
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