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2024年1月19日(金)、東京都東村山市にある商店街「青葉商店街」に、世界的建築家の隈研吾がデザインしたカフェ「和國商店(わくにしょうてん)」がオープンする。同店は、東村山で建物の屋根・外壁・雨どいといった建築板金を手がける「ウチノ板金」が、隈とタッグを組み実現したものだ。神社の緑青銅板を再利用して外壁を彩った建築は、おそらく世界初の試みだろう。
青葉商店街には60年ほどの歴史があるが、現在はほとんどの商店が営業しておらず、ゲートすら取り払われ、住宅街と一体化する寸前だ。実際、静かな住宅街という面持ちで、街歩きを楽しめる場所とはお世辞にも言い難い。一体なぜこのような場所に、全国区とも言えるほどの注目施設が誕生したのだろうか。ウチノ板金の代表を務める内野友和に青葉商店街への思いと、板金技術を用いた建築の魅力を聞いてみた。
商店街の活性化と板金職人の技術継承促せる場所へ
幼少期から商店街を地元として育った内野は、枯れてしまった現状に対して「いつか自分に何かできないか」と感じていたという。そんな折に舞い込んできた、商店街の一角にあった築52年の元たばこ店の物件を用途を決めずに購入。そして、青葉商店街の活性化と板金職人の高齢化、技術継承者不足の問題を少しでも解決できる場所にしたいと思っていたところ、職人仲間から隈を紹介してもらえるという話になり、飛び込むように建築デザインを依頼した。
ウチノ板金は近年、熟練の板金職人たちの手作業によって作られた折り鶴や壁掛けオブジェなどといった工芸品のブランドも展開。ドイツやフランスなどヨーロッパを中心に海外でも高い評価を得ている。そんな彼らが持つ高い板金技術と地域活性化への思いに隈も強く賛同し、今回のプロジェクトに至ったという。より詳しい経緯は、内野が書いたnoteを読んでほしい。
当初は街ぐるみのプロジェクトではなかったものの、実際に和國商店ができたことによって、早くも周りの空き店舗を活用しようという動きも見え始めているという。「これを機に青葉商店街が新たなチャレンジスポットになったらうれしい」と内野は語る。
斬新なのに昔からあったかのような緑青銅板のたたずまい
完成した建築は、約700枚から成る天然の緑青銅板を用いた斬新なデザインのファサードだ。その反面で、昔から商店街にあったかのようなたたずまいが面白い。当初、隈はガルバリウム鋼板を用いた外壁のデザインを予定していたが、内野が「今までにない建築を作りたい」と、緑青銅板の使用を提案。内野の意見が採用される形となった。
銅板は、広島県甘日市にある速谷神社の玉垣の銅板葺(どうばんぶき)を再利用。天然の緑青銅板を探していたところ、ちょうど替えるタイミングだった同神社に頼み込み、譲り受けたという。偶然にも青葉商店街の歴史とほぼ同じ年月を経て自然に酸化したもので、1枚ずつ手作業の板金技術で五角錐(すい)に加工されている。
銅板の位置や角度、並べかたも一つ一つ隈が細かく指定したそう。陽の当たり具合で色の濃淡が異なるだけでなく、西日に照らされたコントラストにまでこだわっている。
内装は黒の漆喰壁を基調とし、柱や梁(はり)などは元の建築をそのまま生かしつつ補強している。カウンターやランプシェードは、熟練の板金職人の技術で真鍮(しんちゅう)板を加工したものだ。テーブルや椅子、食器も、さまざまな職人による手仕事が光る。
コーヒーは、岡山県にある「キノシタショウテン」が監修したオリジナルブレンドや、カフェラテを提供。フードはトーストなどの軽食のほか、ツルや柴犬をモチーフにしたかわいらしいクッキーなどが楽しめる。
最後に、同店を訪れる人のために、散策のアドバイスをしよう。「隈建築」を巡りたいなら、新秋津駅から武蔵野線で一本の東所沢にある石の建築「角川武蔵野ミュージアム」を併せて訪れてもいいだろう。青葉商店街の近くには、ハンセン病の療養所「国立療養所多磨全生園」とハンセン病差別の歴史を伝える「国立ハンセン病資料館」もある。資料館は一般客も受け入れているので、ぜひ訪れてみてほしい。
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