奇跡的に実現、ブランクーシの大規模展がアーティゾン美術館で開催中
Photo: Keisuke Tanigawaコンスタンティン・ブランクーシ「レダ」(1926年、2016年鋳造、​ブランクーシ・エステート蔵​)

奇跡的に実現、ブランクーシの大規模展がアーティゾン美術館で開催中

マルセル・デュシャンやマン・レイ、イサム・ノグチとの交流エピソードも

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彫刻の新たな表現を開拓したといわれる、ルーマニア出身の彫刻家・コンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brâncuşi、1876〜1957年)。彼が手がけた「接吻」(1907〜10年)と、輝くブロンズの「ポガニー嬢Ⅱ」(1925年)という2作品をコレクションしている京橋の「アーティゾン美術館」では現在、企画展「ブランクーシ 本質を象る」を、2024年7月7日(日)まで開催中だ。

奇跡的に実現、ブランクーシの大規模展がアーティゾン美術館で開催中
Photo: Keisuke Tanigawa展示室エントランス

日本の美術館で初めての大規模が奇跡的に実

ブランクーシは、美術史においてよく知られた彫刻家でありながら、それほど多くない作品群が世界各地のミュージアムや個人によってコレクションされているため、展覧会の開催が難しい作家の一人だ。

しかし、パリの「ブランクーシ・エステート」による全面協力の下実施される本展では、国内外から彫刻作品が23点、フレスコやテンペラの絵画や素描の作品が3点、ブランクーシ自身が撮影した写真53点に、彼の創作に関連する作家らの作品群を合わせ、約90点を展示する。彫刻作品を主体にブランク―シの活動を幅広く紹介する大規模な展覧会の開催は、日本国内の美術館では初めて。奇跡的に実現したと言っても過言ではない。

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Photo: Keisuke Tanigawaコンスタンティン・ブランクーシ「鳥」(1930年、ブランクーシ・エステート蔵)

デュシャンやマン・レイら、同時代の表現者との交流も

「形成期」「フォルム」「アトリエ」「カメラ」「鳥」などのキーワードで構成される本展だが、作品一つ一つの近くには数字のみが書かれており、タイトルや素材、制作年などの文字情報は、全て出品リストにまとめられている。これは情報先行の鑑賞ではなく、展示された作品そのものと対峙(たいじ)し、そのフォルムや色、大きさ、素材、台座とのバランスなどをじっくりと観察・鑑賞してほしい、という美術館の意図によるものだ。

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Photo: Keisuke Tanigawaコンスタンティン・ブランクーシ「ミューズ」(1918年、2016年鋳造、​ブランクーシ・エステート蔵​)

ブランクーシの彫刻作品は、最初期こそ写実的だったが、自身の故郷であるルーマニアの文化や、同時代に発見されたアフリカ彫刻などに触れたことで、次第に自分だけの表現へと変化する。対象とした事物の特徴を極限までそぎ落とした上で、洗練された独自のフォルムと素材への探求を深めながら、シンプルかつ抽象的な造形へと進化させたのだ。展示室にずらりと並んだ作品群から、創作の変遷をじっくりと読み解いてみてほしい。

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Photo: Keisuke Tanigawa展示風景

また本展では、アメリカでのブランクーシの活躍をサポートした現代美術家のマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp、1887~1968年)や、写真家で彫刻家のマン・レイ(Man Ray、1890~1976年)とのエピソードなども紹介されている。レイは、ブランクーシが自身で行った作品撮影や、現像のための暗室作りについてアドバイスをしたという。

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Photo: Keisuke Tanigawaブランクーシが撮影した自身の作品写真群(東京都写真美術館蔵)

さらに、弟子としてブランクーシのアトリエで仕事をしていた彫刻家、イサム・ノグチ(1904~88年)の作品も展示する。ブランクーシが同時代に生きる多様な表現者らと交流を重ね、自身の創作や表現を磨き続けていたことが見てとれ、非常に興味深い。

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Photo: Keisuke Tanigawaイサム・ノグチ「魚の顔 No.2」(1983年、石橋財団アーティゾン美術館蔵)(左)、コンスタンティン・ブランクーシ「魚」(1924~26年、1992年鋳造、ブランクーシ・エステート蔵)

自然光に近づけた照明は時刻に合わせて明るさが変化

パリ15区のモンパルナスにあったブランクーシのアトリエは、置かれていた作品や道具などの全てを保存・維持することを条件に、フランス国家へ寄贈された。そのおかげで、作品群は散逸することなく、現在もパリの「ポンピドゥーセンター」の敷地内に再現された空間に展示されている。

ブランクーシの服装をはじめ、あらゆるものが白で統一されたアトリエは、大きな天窓から自然光が取り込まれ、崇高な雰囲気だったという。そのアトリエが本展の一角にも再現され、しかも実際の時刻に合わせて自然光を模した照明の明るさが変化するという仕掛けが施されている。

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Photo: Keisuke Tanigawa「アトリエ」の展示風景

空間には、台座を含め360度全方位からぐるっと眺めたい、さまざまなフォルムの彫刻作品5点に加えて、両サイドの壁面にも有機的な立体作品が展示されている。浮かび上がる影の位置や濃さによって印象が変わるのは、立体作品ならではの魅力だろう。

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Photo: Keisuke Tanigawa「アトリエ」展示風景

「アーティゾン美術館」には、本展を開催しているフロアのほかに、テーマごとにコレクション作品を展示するフロアが2つあり、本展のチケットがあれば3フロア全てをエスカレーターで自由に行き来することができる。時間に余裕があれば、コレクション展もゆったりと巡った後に再びこの展示室を訪れ、ぜひ光の変化を体感してみてほしい。

ちなみにコレクション展では、近現代の彫刻家による作品群が一挙に展示されている。ここまでまとまった点数の彫刻作品が、一つのスペースに並ぶのは珍しい機会だろう。

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Photo: Keisuke Tanigawa「石橋財団コレクション選」(5階)の展示風景
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Photo: Keisuke Tanigawa「石橋財団コレクション選」(5階)の 展示風景

わずか数カ月だったが、ブランクーシが師事した彫刻家、オーギュスト・ロダン(Auguste Rodin、1840~1917年)の「考える人」(1902年ごろ)や、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso、1881~1973年)の「道化師」(1905年)など、ブランクーシと同時代に活躍した作家らによる作品も多い。

また、1920代にフランスに渡り、ブランクシと交流があったという彫刻家清水多嘉示(しみず・たかし、1897〜1981年)の特集コーナーや、尾形光琳らの作品が並ぶ日本美術の展示室もある。多彩なジャンルの名品を幅広く鑑賞できるので、コレクション展もぜひ楽しんでほしい。

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Photo: Keisuke Tanigawa「石橋財団コレクション選」(4階)の「特集コーナー展示│清水多嘉示」展示風景
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Photo: Keisuke Tanigawa「石橋財団コレクション選」(4階)の 展示風景

普段使いしやすい展覧会オリジナルグッズにも注目

「アーティゾン美術館」といえば、コレクション作品を中心に企画・制作されている、オリジナルのミュージアムグッズが人気なことでも知られる。同館の3階にあるミュージアムショップは、展覧会のチケットがなくても利用でき、筆者はアート好きな方へのギフト選びに立ち寄ることも多い。

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Photo: Keisuke Tanigawaミュージアムショップ(3階)にある 「ブランクーシ 本質を象る」展のグッズ

今回の「ブランクーシ 本質を象る」展に合わせて企画・販売されたグッズも魅力的だ。ポストカードやクリアファイルといった定番アイテムから、同館のコレクション作品である「接吻」のキーホルダー、刺しゅうブローチ、モダンな柄のトートバッグやTシャツは、シンプルで普段使いしやすいデザインだ。さらにブランクーシの愛犬をモチーフにしたぬいぐるみも人気だという。

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Photo: Keisuke Tanigawaコンスタンティン・ブランクーシ「接吻」(1907~10年、石橋財団アーティゾン美術館蔵)

企画展「ブランクーシ 本質を象る」は、祝日を除く毎週金曜日は20時まで開館している。

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