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北千住の先、荒川に架かる西新井橋のたもとに2023年6月24日、「ツェルト ブックストア(Zelt Bookstore)」がオープンした。ペインター、ウェブデザイナーである伊藤眸と、インテリア分野で活躍するデザイナーの柴山修平が「生きるための道具」をテーマに書籍、雑貨などを販売をする。2人は内装設計やイラストレーションなどのプロジェクトを手がける「ツェルト(Zelt)」という会社も手がけており、同建物の奥は事務所になっている。
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暮らしの知恵を紹介する
品揃えに関して、伊藤は「ちょっとした暮らしの知恵を、本やもので伝えることができたら」と語る。コンセプトに沿って、自然科学、美術、芸術、日記、記録、アーカイブ、実用書、国内外のインディペンデントマガジン、ZINEなどを古書、新刊書問わず並ぶ。
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「いつも手にするものがどんな材料からどのように制作されたのか知った時、生活の中での解像度が上がり、楽しく毎日を送れるんです」。その考えにたどり着いた背景には、2人が山形県で過ごした生活スタイルに由来する。
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柴山は6年、伊藤は4年ほど山形県にいた。生活に必要なものは買うだけでなく、作ってしまおうという発想が自然な暮らしだったという。東京に戻ってきてからも同様のライフスタイルを続けていきたいという思いが形になっているのが同店といえるだろう。
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ツェルトとは、登山中に緊急避難する時に使うステッキと布だけで構成されるような簡易シェルターのこと。会社のコンセプトは「最小限の構成だけで、最適な場を作る」だ。書店での商品のセレクトにも、その哲学が貫き通されている。
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ツェルト ブックストアでは実用書、特に生活分野の本を多く扱っている。その例の一つとして、ノルウェーで出版された「薪を焚く」という本を紹介してもらった。まきの使い方、割るための道具など、まきとともにある生き方をまとめた本だ。「自分の暮らしに直接役に立つわけではないけれど、知っておくと楽しい」と伊藤は語る。
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また、イタリア人アーティストでありデザイン界の巨匠であるエンツォ・マーリ(Enzo Mari)による、作品集「AUTOPROGETTAZIONE? by Enzo Mari」も同店の特徴的な商品の一つだ。自分で作ることができる家具デザインが収録されている。こういった「デザイナーらによる書店の実用書」とでもいえそうなセレクトも多い。
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雑貨も同様の感覚で選び抜かれている。渡部萌によるクルミの皮やアケビのツタを編んで作られた籠は、作家が実際に山に分け入り、採集した素材から制作された一点もの。「すごく力強さを感じるんです」とは伊藤の言葉だ。
また、柴山は山形時代から、手仕事にこだわった「山の形」というプロダクトレーベルを展開している。そこでのつながりが、同店に並ぶ良質な作品への縁になっている。
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このほか、世田谷区にあるアーユルヴェーダ専門店「イートリート ルチ(eatreat.ruci)」の製品である「からだのなみにのるレシピ」や、飲用もできる入浴剤「入浴茶」など、伊藤がイラストを手がけた商品も並ぶ。
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店内はセルフリノベーション
この場所で書店を始めようとした理由は、元は履物屋だったという土間のある空間にインスピレーションを得たからだという。築50年ほどの家屋を自らの手でリノベーション。什器(じゅうき)の設計は柴山が行い、色やタイルの選定に関しては2人で行った。床のチャームポイントともいうべき、水野製陶園謹製の少し赤茶けた黒い正方形のタイルは特にこだわりの逸品だ。
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4畳ほどの奥の間には、オリジナルのスウェットシャツなども。大型の什器や照明器具以外はほとんど商品で、壁面に飾られた絵なども購入できる。
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書店の屋上にはプライベートな菜園が存在する。以前住んでいた場所では畑を耕しており、東京でも畑を持ちたいと考え作られたもの。大型のコンテナに土を敷き詰めて育てるというスタイルは、都市型農園の中でも珍しい。取材時はトマトやナスが植えられており、家庭の食卓の足しになるという。
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オープンして間もないが、デザイン関係の客が多く訪れるそうだ。今後はさらに本を増やし、「ゆくゆくはイベントも開催していきたい」と伊藤。土曜日をメインに開店し、金曜日と月曜日は場合によっては開店する。不定休なので、訪れる際は公式Instagramでチェックしてほしい。
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暮らしにまつわる新しい視点を授けてくれる一冊を探しに、この書店へ訪れてみよう。
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