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歌舞伎町の元廃ビルを舞台にアート展「ナラッキー」が開催

Chim↑Pom from Smappa!Group によるビル1棟を使った展示

Rikimaru Yamatsuka
テキスト:
Rikimaru Yamatsuka
作家
ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa展示「ナラッキー」初日の様子
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2023年9月2日から歌舞伎町・王城ビルで開催中の展示「ナラッキー」に行ってきた。1964年に竣工され、名曲喫茶、キャバレー、カラオケ店、居酒屋と業態を変化させながら2020年3月まで営業。それ以降は試験的にあらゆるイヴェントが開催されている。

王城ビル
Photo: Keisuke Tanigawa王城ビル

来年以降はついに歌舞伎町のアートのハブとして、全館を使用して本格始動する予定だそうで、その第1弾が今回のビルを丸ごと使ったChim↑Pom from Smappa!Groupによる新作インスタレーション展ということなのだそうだが、なんともはや実にシゲキ的であった。 っつうかズルい。こんなの面白くないワケがない。  

王城ビル
Photo: Keisuke Tanigawa

かの岡本太郎は、「東京国立博物館」で異様な形の縄文土器に出くわしたとき「なんだこれは!」と叫んだというが、僕が本展で受けた衝撃はまさしくこんな具合であった。とにかくワケが分からないのだけれども、大いにワクワクドキドキさせられる、極めてプリミティブなコーフンがあった。

猥雑で、強烈で、恐怖を感じるほどの毒気と生命力をはらむ作品の数々は、建築物と渾然一体となり、ひいては新宿・歌舞伎町全土とも共鳴して、なんともアヤしい魅力を放っていた。  

入館時点で探検マインドMAX  

まず、入館するための手続きがすでにオモシロイ。ビルの入り口で入館料を支払い、カラオケ店の伝票を模した入館証をもらうのだが、それから一旦外へ。そして歌舞伎町弁財天を経由し、風俗店の脇の路地裏を抜けてから内部へと侵入するのである。

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa入館証

僕が赴いたのは20時過ぎだったが、活気にあふれた晩夏の歌舞伎町で、一見して廃墟としか思えないビルへと入っていくというのはそれだけでテンションが上がる。鉄の扉を開くと、廃墟特有の、亡霊のような気配が充満していて、もうすでに探検マインドがMAXに振り切れる。気分はさながら『バイオハザード』、もしくは『ストレンジャー・シングス』である。ズルい。こんなの面白くないワケがない。

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa
ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawaビル裏口に残るネズミの古巣穴。「巣(奈落)」(2023)

濃縮還元し、歪曲された歓楽街のムード  

んで、5階建てビルを順番に回覧してゆくツクリになっているのだが、扉を開けて最初に目撃することになるのがインスタレーション『奈落』だ。本展示のためにビルに開けた穴から1階の床から屋上を超えて外まで続く吹き抜け空間でサーチライトの光が延び、九月の夜の都会の空を照射している。

群青色の薄闇に剥き出しのコンクリートが広がり、尾上右近の自主公演『研の會』の公演中に奈落で録音されたという歌舞伎公演の音声が流れているという、あまりにも異形な空間だ。  

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa「奈落」(2023)

「つかみはOK」というヤツで、初っ端から一発カマされた状態で歩を進めてゆくと、次に登場するのがビデオインスタレーション『はじまり』である。Chim↑Pom from Smappa!Groupのエリィの口元をクローズアップした映像が流れていて、どうやら2人の会話音声が重ねられている。

その内容はどうやら「MISIAはメジャーシーンにおいてかなり早い段階でドラァグクイーンを起用していた」という、彼女の先進性をクラブカルチャーなどとひもづけて語っているものらしい。

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa「はじまり」(2023)Chim↑Pom from Smappa!Group+松田修 ビデオインスタレーション

さらに進むと「顔拓」が出てくる。日本のドラァグクイーンのパイオニアMONDOが化粧している映像が流れ続ける部屋に、その化粧を剥がし写したであろう紙(つまり魚拓の顔ヴァージョンである)がビッシリと吊り下げられている。

ナラッキー
Photo: Keisuke TanigawaMONDOが続けてきた「顔拓」

歓楽街のムードはますます濃くなってゆく。次の部屋へと続く扉には貼り紙があり、そこにはこう書かれていた。「性表現や突起物が展示されているため、ご自身の判断でお入りください」。おっかなびっくり扉を開けると、コンクリートが剥き出しになった広いフロアに、唐十郎や寺山修司、あるいは長尾謙一郎や徳南晴一郎のマンガを想起させる、生々しくパンチのきいた空間だ。

このフロアは今年3回目を迎える街中パフォーマンス&ダンス・イヴェント『歌舞伎超祭』とのコラボレーションで、演者たちによる『奈落』の中でのパフォーマンスを記録したものだ。王城ビル屋上で撮影されたアオイヤマダのヌード写真や、車椅子ダンサー・かんばらけんたの脊椎のレントゲン写真、ポールダンサー・KUMIが弁財天に扮したヴィデオ・インスタレーション、特殊メイクを施したダンサー・平位蛙の360度カメラによる自撮り映像など、身体性に溢れるエネルギッシュな作品がズラリと並んでいる。

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa2階の展示風景より
ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawaもしもしチューリップ(KUMI、山田ホアニータ、ちびもえこ)

期間中にはパフォーマーたちによるイヴェントもあるそうで、本展におけるハイライトのひとつといってもいいだろう。その歓楽街のムードを濃縮還元したうえに歪曲したような、異様としか言いようがない光景にふれ、僕はおもわず『こんなモン面白いに決まってんじゃん!!』と爆苦笑した。

来場客すら作品に仕立て上げる場の魔力  

また、ここでようやく気づいたのだが、本展における作品群には一切キャプションが付いていない(作品解説が掲載されたPDFデータをQRコードでダウンロードすることは可能)。ということはつまり、どこからどこまでが作品なのかが解らないということである。吊り下げられたケーブル類や積まれた一斗缶、柱に殴り書きされた「大理石」という文字でさえ、「これも作品なのでは?」と勘繰ってしまう。

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa「I ( アイ) 」(2023)
王城ビル
Photo: Keisuke Tanigawa

いや、無機物だけではない。例えばこの日、会場には水玉模様のピンク色のワンピースを着たド派手なブロンドの大柄な女性がいたのだが、僕は「ひょっとしてこの人もパフォーマーであり、作品のひとつなのでは?」と思わず疑ってしまった。

こうした疑いや勘繰りはおそらく、「ビル自体がひとつの作品なのですよ」というスタンスからきている。インスタレーションが環境と共鳴し、あまりにも非日常なハーモニーを奏でているからこそ生まれる感慨である。それは来場客をも作品として取り込むチカラを持っているのだ。 

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa2階の展示風景より

4階には花道まで備えられたカラオケブースがあり、実際に歌うこともできるのだが、僕がそこを通りがかったとき、aikoの名曲「キラキラ」をファルセットで歌い上げている男性がいた。歌舞伎町の廃墟めいたビルで歌われる男声のaikoというのは、もうそれ自体が作品性を帯びてしまっている。完全にパフォーミングアートだ。まったく、これほど地の利を生かしたインスタレーションというのもメズラシイと思う。

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa「神曲 ― La Divina Commedia」(2023)

屋上まで行けばそれがよく分かる。ビルの屋上から見る新宿は、信じられないほどフォトジェニックだ。叙々苑、古いデザイナーズマンション、色とりどりのネオンサイン、消費者金融の看板、ジャンルも時系列もごたまぜになった剥き出しの猥雑が目に飛び込んでくる。

そんなパノラマが広がる屋上に鎮座しているのは、サイアノタイプ(青写真)製の看板『光は新宿より』である。終戦直後、焼け野原と化した新宿を整備し、戦後初の闇市を立ち上げた関東尾津組が掲出したスローガンだそうだが、こうしたロケーションで見るとまるで宗教遺物のごとき神々しいオーラを放っている。そんで上を見やると、前述した『奈落』から伸びる光の柱が、濃紺の夜空に突き刺さっているのである。

何度も言うが、こんなモン面白くないワケがない。友達とかパートナーと行ったら超盛り上がると思う。 

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa「光は新宿より」(2023)
ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa「光は新宿より」(2023)

地下にはラウドな残響とドクターフィッシュが奇妙にマッチングした、五感をフル活用できる映像・音イベントフロアが広がる。

地下の展示『餌』もたいへんオモシロイ。

ふたつ設置された水槽の中でヒトの角質を食うドクターフィッシュが養殖されていて、それらは1階の『にんげんレストラン』の食材として提供されるのだという。本展の観客とイヴェントの参加者は角質取り放題とのことだ。

喰う・喰われるという関係性から想起したインスタレーションだそうだが、もはや美醜の概念すら軽く飛び越えている。これほどまでに抜きん出たアイディアと行動力を見せつけられてしまったら、降参するよりほかはない。

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa角質取り放題のドクターフィッシュ養殖場。「餌」(2023)
ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawa「Asshole of Tokyo」(2019)

見慣れた日常を更新するアートの効能  

一通り観覧を終えてビルの外に出ると、新宿の夜の景色がいつもとは違って見えた。見慣れたはずの光景にフレッシュな輝きを与えるというのはアートの効能である。冒頭に続き、岡本太郎の言葉を引用して締めくくろう。

ナラッキー
Photo: Keisuke Tanigawaビルから延びるサーチライトの光

「人は気がつかないでいるかもしれませんが、芸術は生活に物理的といえるほど強大な力と変化を与えるのです。知らない間に、全てのものの見方、人生観、生活感情が根底からひっくり返り、今まで、常識や型に従って疑いもしなかった周囲が、突然生々しく新鮮な光に輝き始めます。自分ではあくまでわからないと思い込んでいても、すでに正しく理解しているのです」

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