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谷中のコンテンポラリーアートギャラリー「スカイ ザ バスハウス(SCAI THE BATHHOUSE)」で、アピチャッポン・ウィーラセタクン(Apichatpong Weerasethakul)の個展「Solarium」が2024年5月25日(土)まで開催中だ。同ギャラリーでの個展は7年ぶり、5回目の開催だという。
ウィーラセタクンは1970年、タイ・バンコク生まれの映画監督・脚本家であり芸術家。現在はチェンマイを拠点に活動している。タイで建築を学び、シカゴ美術館附属シカゴ美術学校で映画制作の修士課程を修了。1990年代より美術と映画の両分野で活動し、2010年に監督した映画「ブンミおじさんの森」は、タイ初となるカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞している。2024年3月には、東京・台場の「日本科学未来館」で開催された「シアターコモンズ'24」で、VR作品「太陽との対話(VR)」を上演したことも記憶に新しい。
ホラー映画から着想した新作インスタレーション
本展のタイトルでもある新作の映像インスタレーション「Solarium(ソラリウム):Tokyo Sunrise Version」(2024年)は、自身が幼少期に夢中になったホラー映画に着想を得たものだ。ギャラリーの奥に作られた暗い空間の中央には、ホログラフフィルムが貼られた映写用のガラスパネルが置かれ、両サイドのプロジェクターから2チャンネルの映像が映し出されている。
盲目の妻を救うため、患者の眼球を盗んだ狂気の医師(マッドドクター)を描くタイ映画「The Hollow-eyed Ghost」(1981年)のシーンを再現するように、暗闇の中で自身の眼球を探しさまよう男の姿が映し出されるも、やがて日の出の光によって彼の姿は破壊されてしまう。そして男の亡霊が浮かび上がり、鑑賞者のいる物理空間を浮遊し始める。備え付けのヘッドホンを身に着けると、より一層不気味さが増す。
本作品についてウィーラセタクンは「亡霊は、映画監督のように、いつも光を体験するための装置を探しています。このタイトルは、この夢のような状態から逃れられず、自ら作り出した日光浴室(ソラリウム)に永遠に閉じ込められ、日の出の暖かな光を待ち望む亡霊を暗示しているのです」とコメントしている。
初公開のドローイングや写真作品も
本展のメインビジュアルに用いられているのは、ウィーラセタクンによるドローイングだ。やや厚みのある紙に黒いインクで描かれており、今回初めて一般に公開された。夢やスケッチ、ランドスケープやボディースケープを描き出したモノクロームの表現は、影や曖昧さ、映画のフレームといった主題に、これまで作家がいかに強い関心を抱いてきたかを物語っているようだ。
また、さまざまな時間の表現を集めた「Boxes of Time」(2024年)シリーズも併せて展示されている。5つのアクリルボックスには、2分、1時間、7時間、24時間、1年と、時間を凝縮して撮影された52枚の写真が収められている。それらを通して移動と変化の感覚を伝えることで、時間がどのように体験され知覚されるのかについて、それぞれに異なる視点を投じているという。
例えば「Box Ⅲ,Seven hours」(2024年)は、バンコクのホテルの一室で、夜から早朝にかけてのベッドの様子を捉えている。長年にわたり、滞在したさまざまな国で宿泊の際に使ったベッドを写真に収めているウィーラセタクン。夢を見る場所であるベッドに関して、夜と朝とで変化するリネンや枕の形が、眠っている間に人がどう動いたかの記録になることに興味を抱いているそうだ。
残念ながら全部の写真を見ることも手に取ることもできないが、5つ全てを紹介するキャプションが用意されているので、目を通してみてほしい。それぞれの時間軸を、どんな52枚で構成しているのか、とても気になる作品だった。
映像、ドローイング、そして写真を用いた作品と、コンパクトな空間ながらメディアを横断して構成された本展。筆者が訪問した日は、場所柄もあってか複数の外国人旅行客が訪れ、じっくりと作品を鑑賞する姿が見られた。世界的な知名度・注目度がますます高まるウィーラセタクンの新作を、ぜひ体感してみてほしい。
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