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住宅街の一角でどこからか異国の甘い匂いが漂ってくる。一見すると分からないが、焼き鳥店の2階にその菓子店はある。武蔵関にシリア・ダマスカス出身のオーナーと本国で25年以上のキャリアを持つ職人によるシリア菓子店「アルナブルシ」が2022年12月19日、オープンした。
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焼き鳥店の中に分け入り2階に上がると、アラビアンなクッキーと菓子が並んだ工房が現れる。イートインはなく、こぢんまりとした机と待合用の椅子が2脚ほどあるだけなので、工房の直売所といった方が的確だろう。
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同店の目玉は、伝統的なシリアスタイルで作り上げる「バクラヴァ」だ。バクラヴァとはさくさくのパイ生地に刻んだクルミ、ピスタチオなどのナッツを挟み、薄いフィロ生地で包んで焼き上げてから甘いシロップをかけたペイストリーである。
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空手の世界大会日本代表選手から菓子店オーナーへ転身
オーナーは、元空手家という意外な経歴を持つマゼン・アルナブルシ。アルナブルシと日本とのつながりは35年前、1988年にさかのぼる。当時15歳の高校生は、空手と日本の文化に魅せられ来日。世界松濤舘空手道連盟道場に入門し、以降シリアと日本を行き来し、研さんを積む。メキシコで行われた「第3回世界空手道選手権大会」では日本代表として団体優勝に導いたほか、個人男子一本組手では2位に輝いた実力を持つ。
空手を引退後、1999年から2016年まで駐日シリア大使館に勤め、シリアと日本の文化の架け橋になることに尽力。「駐日アラブ大使夫人の会」が主催する「アラブ・チャリティバザー」などでも、シリアのバクラヴァメーカー品を輸入・販売してきた。実際に販売することでバクラヴァの人気を肌で実感し、「自分の力でシリアのバクラヴァをもっと日本に広められないか」と次第に考えるようになっていったという。
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そんな折、シリアで25年以上にわたり伝統的なバクラヴァを作り続けてきたベテランの職人と出会い、2021年にオリジナルレシピで菓子工房を立ち上げる一大決心を果たす。知り合いだったスーパーマーケット「アキダイ」のオーナーに現在の店舗を紹介してもらい、内装や食品衛生管理資格などを整えた。しかし、シリアから職人を呼び寄せるための手続きが思うように進まず、約1年間焦れる思いで待ち続けることに。2022年11月、ようやく許可が下り、翌月晴れてオープンへとこぎつけた。
表参道で12月16〜18日に行われた「中東のカワイイ雑貨と食べもの Vol.8」で出店したところ、開始2時間で準備していた300パックが完売。すでにTwitterの口コミでも大きな反響を呼んでいる。
奥深いバクラヴァの世界
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同店の「バクラヴァ」(8個入り1,650円、以下全て税込み)はシリアの伝統的な味わいを再現したオリジナルレシピだ。薄いフィロ生地を18枚重ねた中に、刻んだピスタチオ、アーモンド、カシューナッツ、クルミが入っており、焼き上げた後に甘いシロップをかける。冷まして形を安定させたら、最後に粉末状にしたピスタチオをふんだんにまぶしたら完成だ。特徴は甘過ぎず、形状によって異なる食感や素材の組み合わせが楽しめる点だろう。
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パックの中には、大きさと形が異なるバクラヴァが6つのフィルムケースに分かれている。細いスティック状のため、「指」という意味を持つ「アッサーバ」は軽やかな一品。ずんぐりとした塊のものは、ギッシリと詰まったクルミやピスタチオの甘みとザクザク感が楽しめる。「小さくて、甘過ぎないので、一つ食べたらまたすぐ次が食べたくなります」とアルナブルシは語る。深みのある緑が特徴だという、シリア産のピスタチオの粉末にも注目してほしい。
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シリアの日常的な食文化を手軽に
ピスタチオとゴマが入った薄焼きのクッキーなどが入った「バラベック・ゴライベ」(770円)も販売。ラマダン明けの市場で馴染みの菓子なのだとか。油は、発酵バターを加熱・ろ過してタンパク質などの沈殿物を取り除いたバターオイルである「ギー」を使っているので、体にも優しい。素朴な味わいで、おやつにつまむには最適だ。
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また、デーツ、ザクロペースト、ローズオイル、ハーブティーといったシリアの加工商品も並んでいる。今後は贈答用の箱入りバクラヴァを展開するほか、輸入食品の販売も拡大していくそう。同店で、シリアの菓子を身近に感じてみては。
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『アルナブルシ』
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