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台座の上に置かれるものだった彫刻作品の概念を一変させた美術家、アレクサンダー・カルダー(Alexander Calder、1898〜1976年)の展覧会「カルダー:そよぐ、感じる、日本」が、神谷町の「麻布台ヒルズ ギャラリー」で、2024年9月6日(金)まで開催されている。
天井からつるされ、風に揺れるほど軽やかな彫刻「モビール」は、フランス語で「動き」や「動因」を意味する言葉だ。カルダーが発明し、フランスの芸術家、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)が1931年に名付けた。本展では、カルダーの代表作とも言える「モビール」を中心に、カルダー財団の所蔵作品100点ほどを公開している。東京での展覧会開催は約35年ぶりだ。
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カルダーは、アメリカのペンシルバニア州ローントン生まれ。機械工学を学んでエンジニアとして働くも、芸術家を目指して素描を学び始める。針金を曲げたりねじったりして、立体的な人物を空間に「描く」という新たな彫刻の手法から、つるした抽象的な構成要素が絶えず変化する調和の中でバランスを保ちながら動く「モビール」の発明へとつながった。
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初期のモビールにはモーターで動くものもあったが、次第に気流や光、湿度、人間の相互作用に反応するようなものを制作し、やがてカルダーはキネティックアートのパイオニアの一人となる。また、立体作品だけではなく、絵画や版画などの平面作品やアクセサリーなど、幅広い分野でさまざまな作品を手がけた。
1950年代以降は海外からの制作依頼にも積極的に応え、ユニークな造形の鉄板をボルトで固定した大型の屋外彫刻にも取り組んだ。現在も世界各国に、カルダーのパブリックアートが設置されている。
非常に貴重な「傑作のオンパレード」
本展は、麻布台ヒルズ内に7月オープン予定の「ペースギャラリー」と麻布台ヒルズ ギャラリーとのパートナーシップの一環で共催される。開幕前に行われた報道陣向けの内覧会には、本展のキュレーターであり、カルダー財団創設者・理事長のアレクサンダー・S.C. ロウワー(Alexander S. C. Rower)と、ペースギャラリー最高経営責任者(CEO)のマーク・グリムシャー(Marc Glimcher)が登場した。
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カルダー財団とペースギャラリーは、約40年にわたる信頼関係のもと、世界各地で展覧会を開催してきた。しかし本展ほど、カルダーの活動初期から晩年までをカバーするように多種多様な名作が一挙に展示されるのは、非常にまれで貴重な機会だという。
グリムシャーは、「キュレーションを担当したロウワー、そしてカルダー財団とともに、『いまだかつてないカルダー展を作ろう』と準備してこれたことに感謝したい。本展はまさに傑作のオンパレードだ」と笑顔で語った。
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その言葉にふさわしく、天井の高いギャラリー内は圧巻の展示空間が広がっている。ぬくもりを感じる桜の木材や、アートギャラリーらしからぬ墨色の和紙、わらを細断して混ぜ込んだ伝統的な弁柄(べんがら)色の土壁といった、日本の伝統的な素材を用いられ、障子から差し込む自然光のように柔らかな照明が、整然と並ぶカルダーの名作を一層引き立てていた。
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「カルダーの芸術作品における、日本の伝統や美意識との永続的な共鳴」という本展のテーマが見事に表現された空間は、ニューヨークを拠点に活躍する建築家、後藤ステファニーがデザインしている。カルダー財団の「プロジェクトスペース」や、ニューヨークの「ペースギャラリー」でのカルダー展でも空間デザインを手がけるなど、財団の長年のパートナーでもある。
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「私の作品に意味などない」の真意
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展示構成は特に章立てなどがなく、鑑賞順も定められていない。数々のモビールをはじめ、芸術家仲間だったジャン・アルプ(Jean Arp、1886~1966年)が「スタビル」と名付けた、静止した抽象的な彫刻や、1950年代にカルダーのスタジオで撮影され、ジョン・ケージ(John Cage、1912~92年)が作曲に関わった映画など、いずれも見逃せない作品ばかりである。
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また、平面作品にもぜひ注目してほしい。例えば、拠点を置いていたニューヨークにある動物園で描いたという1925年のドローイングは、抽象的かつシンプルな線で動物の形を捉えており、どことなく彫刻にも通ずる表現に見える。
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また、1956年に初めて日本でカルダーの作品を紹介した、「日本橋高島屋」でのグループ展に出品された油彩画2点も展示。特にカルダーのアトリエの中を描いた1955年の「My Shop」は、作中に描かれた絵画など複数の作品が本展で実際に展示されている、というユニークな仕掛けもある。楽しみながら探してみてほしい。
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カルダーは生前、自らの作品について「私の作品に意味などない」と発言していたという。その真意について、キュレーションを担当したカルダー財団のロウワーは「『作品が無意味だ』というのではなく、『意味を伴わない、または内包しておらず、作品を観た鑑賞者自身に体感してほしい』という、カルダーの願いが込められている」と説明する。
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作品の鑑賞体験を通して自分自身に目を向け、自らのことをもっと知ってほしいと考えていたそうだ。作品の解説など、鑑賞体験に介入するようなことも望まなかったというが、本展のキャプションも、とても控えめに設置されていた。
世界トップレベルのギャラリーとキュレーター、クリエーターたちによって、細部までこだわり抜いて完成された空間に身を置き、作品を通してカルダーと出会い、自らとも静かに対話してみてほしい。
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