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人気写真家アレック・ソスの展覧会「部屋についての部屋」が写真美術館で開催中

2025年1月19日まで、「部屋」をキーワードに作品を編み直す

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Kaoru Hoshino
アレック・ソス
Photo: Kaoru Hoshino展示風景
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アメリカ出身の写真家、アレック・ソス(Alec Soth)の展覧会「部屋についての部屋」が2025年1月19日(日)まで東京都写真美術館」で開催中だ。5年もの歳月をかけて展覧会の構想について対話を重ね、ついに開催が実現したという本展に期待が膨らむ。

1969年生まれのソスは、ミネソタ州ミネアポリスを拠点に、旅先で出会った人々や風景をカメラに収める手法で知られる写真家だ。彼のキャリアは、2003年の「レビュー・サンタフェ」という国際的なポートフォリオのレビューイベントでグランプリに選ばれたことで一気に花開いた。

アレック・ソス
Photo: Kaoru Hoshino作品を解説するアレック・ソス

翌年には「ホイットニービエンナーレ」の出品作家に選出され、その後も世界各地で展覧会を開いている。2004年には、代表作となる写真集『Sleeping by the Mississippi』が出版され、瞬く間に注目を集めた。

近年では、2022年に「神奈川県立近代美術館 葉山館」で展覧会を開催し、2024年にはラグジュアリーブランド、「BOTTEGA VENETA」のキャンペーンビジュアルに携わるなど、日本でも活発に活動している。

アレック・ソス
Photo: Kaoru Hoshino左から『New Orleans, Louisiana』(2002年)と『Crystal, Easter, New Orleans, Louisiana』(2002年)

これまでソスは、アメリカ国内を車で旅し、そこで出会った人や風景を撮影するアーティストという文脈で語られてきた。しかし今回の展覧会は、「アメリカを代表する写真家」や「ロードトリップの写真家」といった言葉でくくるのではなく、キーワードを「部屋」に絞っている点で新しい。

アレック・ソス
Photo: Kaoru Hoshino『Park Hyatt Hotel, Tokyo (mirror)』(2015年)

会場には、ソスの初期作品から世界初公開となる新作まで幅広く展示されているが、彼自身の意向で、単なる業績を振り返る回顧展にはなっていない。本展は、彼の作品を新たな切り口で構成することで、これまでの作品の編み直しを試みる。従来の形式にとらわれない本展は、彼の表現の本質に迫る一味違ったアプローチとなっている。

アレック・ソス
Photo: Kaoru Hoshino『Anna, Kentfield, California』(2017年)

会場に入って5番目の部屋に展示されている『I Know How Furiously Your Heart is Beating』のシリーズは、本展のテーマを生み出すきっかけになった作品群で、これまでの作風とは趣が異なる。従来のように特定の場所で撮影するのではなくさまざまな場所で撮影された写真が集められていることや、あらかじめ紹介された人物を撮影していることなどが特徴的だ。

また、中心的なモチーフとして「部屋」が取り上げられている点にも注目したい。写真に映り込む鏡や窓によって、部屋が物理的な空間を超え、内面的な世界をほのめかしているように感じられる。

アレック・ソス
Photo: Kaoru Hoshino『Nick, Los Angeles』(2017年)

この『I Know How Furiously Your Heart is Beating』シリーズのタイトルは、アメリカの詩人、ウォレス・スティーヴンズ(Wallace Stevens)によって書かれた詩『灰色の部屋』の一節から引用されている。「どれだけ激しくあなたの心臓が鼓動しているのか知っている」という意味のフレーズからも、ソスが現実だけでなく、内面的な世界を探求する作家であることが想像できるだろう。

アレック・ソス
Photo: Kaoru Hoshino『Broken Manual』シリーズの作品(左側の壁)と、『Songbook』シリーズの作品

会場には他にも、社会から距離を置く人々をカメラに収めた『Broken Manual』シリーズや、それとは対照的に、コミュニティーにおける人々のつながりといったテーマを扱った『Songbook』シリーズなども含まれている。

それぞれ異なるコンセプトで撮影された写真が、部屋というキーワードを通じて繋がっていく。鑑賞者はそれぞれの視点から、ソスが追い求める内面的な世界を感じ取ることができるだろう。

アレック・ソス
Photo: Kaoru Hoshino『Park Hyatt Hotel, Tokyo』(2015年)

サブカルチャーにも明るいソスによる映画や音楽などのオマージュが作品の至る所にちりばめられている点に注目しながら鑑賞するのも楽しいだろう。ぜひ会場へ足を運んでほしい。

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