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日本の現代美術好きなら、「高橋龍太郎コレクション」の名を一度は耳にしたことがあるだろう。精神科医の高橋龍太郎が、1990年代の半ばから収集してきたアート作品は、現在では3500点を超え、日本の現代美術にとって最も重要なコレクションとなっている。そんな高橋コレクションを、総勢115組のアーティストによる作品群で紹介する展覧会が、「東京都現代美術館」で開催されるのだから見逃す手はない。
高橋コレクションと言うと、草間彌生や村上隆、奈良美智、会田誠といった超の付く有名アーティストをまずは思い浮かべるかもしれない。その話題性の強さから少し食傷気味で、高橋コレクションを敬遠する人も確かにいるだろう。しかしながら、「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」と銘打たれた本展は、むしろそういう人にこそ観てほしいものとなっている。
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統一的な史観というものを記述し難い現代美術において、特定の人物による「私観」でもって歴史を概観する試みは有意義だと思われる。そしてその特定の人物にふさわしい一人が、高橋龍太郎その人だ。高橋コレクションの形成期が、1995年に開館した東京都現代美術館の活動期と重なっている点も、日本で現代美術を鑑賞してきた人間にとって同コレクションが強い印象を与える理由の一つだろう。
それほどまでに充実したコレクションは、日本の現代美術の全てが収集されているのではないかと錯覚してしまうほどだ。2008年の展覧会「ネオテニー・ジャパン ― 高橋コレクション」以降、同コレクションを紹介する展覧会はしばしば開催されてきたが、100組を超えるアーティストの作品が一堂に会する機会は極めて貴重と言える。
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展示に一室が当てられている草間彌生や、現代美術家としての活動を始めたばかりの村上隆など、先に挙げたコレクションを代表する有名アーティストたちの作品ももちろん展示されている本展だが、見どころは特定の作品というよりも、質・量ともに他を圧倒するコレクションそのものなのだろう。
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コレクションの原点の一つともなった合田佐和子はもとより、1999年生まれの山中雪乃や友沢こたおといった、今まさにブレークしようとしている若手アーティストの作品まで幅広く観られるのがうれしい。「ワタリウム美術館」での個展が控えているSIDE COREの作品や、「アーティゾン美術館」での展覧会に期待が集まる毛利悠子など、2024年の注目展覧会アーティストの作品が並んでいる点からも、同コレクションの存在感が伝わってくる。
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現代美術コレクションという特性上、20世紀生まれの作家がほとんどを占めるなか、1895年生まれの里見勝蔵の『石顔』が紹介されているのも目を引く。フォーヴィスムの日本の紹介者たる里見が1970年代以降にいくつも制作した『石顔』は、石に油彩で人の顔を描いた連作だ。本展では唯一の19世紀生まれの作家のアンティームな作品から、コレクションへの考察を深めるのもいいだろう。
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見どころはコレクション自体だと先に述べたが、展示のハイライトとして「崩壊と再生」と名付けられた章を挙げることは可能だ。2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故から生まれた作品群を紹介する同展示室では、アトリウムの吹き抜け空間に鴻池朋子の『皮緞帳』や、小谷元彦の『サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)』などの文字通り大作が並ぶ。確かな強度を持った作品を存分に鑑賞できる、圧倒的な空間に仕上がっている。
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「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」は、2024年11月10日(日)までの開催。同会期で、高橋コレクション展でも紹介されている前本彰子を含む、7人の女性アーティストを特集した展覧会「竹林之七妍」など、魅力的なコレクション展も開催されているので、併せて楽しんでほしい。
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