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東京のバーシーンはパンデミック中、多くのことを経験した。ソーシャルディスタンシングの維持や飲食店の営業時間の短縮、酒類販売の規制などにより、日本は事実上禁酒法時代に逆戻りしたようだった。この1年間、私たちは行きつけのバーが苦境に立たされながらも、努力を重ねているのを目の当たりにしてきた。アジアのベストバーの一つに選出されたザ エスジー クラブでは、アメリカの禁酒法100周年を記念したイベントを実施したほどだ。
その一方で、東京には注目するべき新しいバーが続々と誕生。そして、これらの店がシーンに参入し、トレンドを形成し始めている。2022年が明けてすぐに適用された「まん延防止等重点措置」は、新年の幕開けを波乱に変えてしまったかもしれない。しかし、事態を好転させるには、まだ十分な時間があることは確かだ。
2022年、東京のバーシーンでは何が期待できるのだろうか? 荒れた2021年から立ち直る決意をしたプロフェッショナルたちに話を聞いてみた。
1. クラシックカクテルが高級食材で復活
東京のバーでは、削ったパルミジャーノやわさびの泡のトッピングなど、クリエーティブなリキュールが続々と登場している。2022年、この街のミクソロジーはさらに進化を遂げるはずだ。そしてその一方で、よりシンプルなミクソロジーへのニーズが高まるかもしれない。
恵比寿のバー トレンチの創業者で、ヘッドバーテンダーのロジェリオ・五十嵐・ヴァズは「緊急事態宣言中にDIYカクテルを作るようになったことがきっかけで、人々はより質の高い材料に投資し始めている」と語る。少ない材料でできるシンプルなカクテルを楽しむようになった、と考えているのだ。
さらに五十嵐は「トニックやフルーツジュースを上手に使えば、道具や材料がなくても酒を格上げできる。今年はストレートなカクテルを求める人が増えるだろう」ともコメントしている。
2. 地酒にスポットライトが当たる
シンプルだからといって、つまらないわけではない。パンデミックの影響で多くの人が自宅飲みを高品質なスピリッツでグレードアップした。それと同じように、東京のバーテンダーたちは、日本発の地酒ブランドに注目することでドリンクに新鮮なエッジを加えようとしている。
池袋にあるバー リブレ(Bar Libre)のオーナー清崎雄二郎は、「日本全国に続々と誕生しているクラフトウイスキーやジンの蒸留所は、オールドファッションやG&T(ゴードンとトニックウォーターで作るカクテル)のように、シンプルでクラシックなドリンクでも新しい何かをもたらすだろう」と語る。
「海外旅行の機会が少なくなってきたこともあり、現地の地酒を重視する傾向が強くなってきました。まだ行ったことはないのですが、mitosaya 薬草園蒸留所とでも面白いことをやっていますよ」と話すのは、国内外でバーを運営するSGグループファウンダーの後閑信吾だ。
同蒸留所では、厳選した原料を使用し、ブランデーを作っている。SG社のカクテルに共通しているのは、洋の要素の中にも日本の味と酒へのこだわりが感じられることだ。後閑が注目するのも納得できる。
清崎は「熊本にある山鹿蒸留所と一緒に仕事をするのが楽しみです」と話してくれた。山鹿蒸留所は、空前の国産ウイスキーブームによって立ち上げられた多くの蒸留所の一つ。同社のウイスキーは3年以上熟成をさせた上で、2024年以降の販売を予定している。「現段階でも中性スピリッツの味は格別。蒸留所を取り巻く自然環境も素晴らしい」と絶賛する清崎。今からどんなウイスキーができるのか期待したい。
3. コーヒーカクテルの話題が尽きない1年に
2021年、どこへ行っても必ずメニューの中にあるカクテル、それは間違いなく『エスプレッソマティーニ』だった。実際、コーヒーをベースにしたカクテルがブームになっている。ついに、バーと喫茶店が互いにしのぎを削る時代に突入したのだ。
中目黒のスターバックス リザーブ ロースタリーでは、コールドブリューのフライトとアルコール飲料を提供し話題になった。ブルーボトルコーヒー 広尾でも、日本のブリュワリーと共同開発したビールや独自のシグネチャーカクテルを販売している。
2021年はほとんど営業することがなかった恵比寿のバー トレンチ。しかし姉妹店のバー トラムは喫茶店としての顔を持ち、日中も営業している。アイリッシュコーヒーやラテ、自家製のデザートを提供し、バーで楽しむコーヒーメニューが人気を博してきた。
渋谷のザ ベルウッドも、東京の伝統的な喫茶店文化を利用して素晴らしいものを作り上げてきた店の一つだ。エスジークラブの姉妹店である同店では、『バカルディ・オチョ』や『カフェ・コン・レチェ』、ゴマを使った『ウダブラ』など、コーヒーや茶を使った遊び心あふれるドリンクを生み出している。
しかし、トレンチの五十嵐は「コーヒーカクテルはまだまだこれから」と考えているよう。2022年には、さらに多くのカフェイン入りドリンクの登場が予想される。
4. ドリンクや食材がよりサステナブルになる
プラスチック製のストローが世界中で使われなくなって久しいが、バー業界と環境を同時に守るためにはさらなる変革が必要だ。
「国によって、酒の作り方や提供の仕方はさまざま。しかし最近は、誰もがよりサステナブルであろうと努力している」と五十嵐は話す。「倫理的に完璧なシステムを持つことは難しいこと。しかしその中でより多くのフェアトレードのスピリッツを調達し、業界がよりサステナブルになるようほかの国が何をしているかを調べながら、ベストを尽くしている」
バーを営業すれば、毎晩何十本ものボトルを捨てることになる。今後、関係者たちは環境に優しい解決策を見つける必要性に迫られるだろう。酒を飲む側の人がどのように変わっていくのかは、まだ分からない。しかし今年は、サステナブルに作られたスピリッツや自家製かんきつ類を使ったカクテルがより多くラインアップされることが見込まれている。
5. バーがもっと身近な存在になる
2021年はバー業界にとっては厳しい年だった。しかしモクテルなどの低アルコールカクテルの需要が増え、繁華街から外れた住宅街にも新しい店ができ、東京のカクテルシーンは以前より親しみやすくなっている。
清崎は「にぎやかな街を離れて、東京の郊外に人気が集まっている。池袋や清澄白河、蒲田、川越などのエリアが変わりつつあり、新しい客層が増えているんです」と話す。また、「バリアフリーのバーも必要」との見解を示し、東京のバーシーンが大きくなることで足の不自由な人のニーズにも対応ができるようになっていくだろうと予見する。
SGグループが手がける、2軒の新店舗にも注目したいところだ。「私たちは最近、渋谷にスワァル ワインカクテル&キッチンとゑすじ郎という新しい店をオープンしました。料理とカクテルのペアリングにこだわった新しい店です。従来のバーに気後れしていた地元の人たちがカクテル文化に触れる機会が増え、客層も変わってきたと思います」と後閑は話す。
オミクロン株がまん延し、不安な幕開けとなってしまった2022年。しかし、これまでと同様、東京のバーシーンの未来に注目していきたい。
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